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256──エピローグ②

 


「············あ、あ······」

「────イルス?」

「あにきいいいい~~!!」

「?!」



 カゴを投げ棄ててこちらに猛ダッシュしてくる、チャラ男ヤンキー少年ことイルス。


「兄貴~~! やっと目を覚ましたか~!」

「これ」


 今にも飛び付きそうな勢いのイルスの足をシュユがひっかける。


「ぐべっ!?」


 そのまま顔面から床にビターンっと倒れるイルス。

 顔を押さえてゴロゴロとのたうち始める。


「いてえぇー!? は、鼻が~! シュユっ、てめえ、何しやがんだ~?!」

「レグルスは病み上がりじゃ。お主のようなアホが飛びついてまた寝込んだらどうするのじゃ」

「んだと~?! むっ、だが、そうだな。確かに兄貴は病み上がりだ」


 イルスが目の前に来て、その場で正座し、うやうやしく頭を下げた。


「兄貴~、よかったぜ~。もう二度と目が開かねえかと思ったぜ~」

「もうっ、縁起悪い事言わないでよ」


 ビシっとイルスの金髪に手刀を落とすキエラ。



「············」


 何がどうなってるんだ?


 イルスは確かに······シリウスによって······。


 いや、それより。


 イルスが居て、俺がここに居るなんて矛盾っつうか、パラドックスなんじゃ?



「兄貴~! マツキノコ、クソ持ってきたんだぜ~! おい、ペール、これで兄貴にキノコ飯作れ~」

「おたくの指図は受けないっス!」

「んだと~?! この地味メガネが~!」

「あっ、暴言っス! レグルス、ガツンと注意して欲しいっス!」

「あ、ああ。イルス······ペールの眼鏡はチャームポイントだ。魅力だぞ」

「うっ。兄貴がそう言うなら······」


 ポリポリとバツの悪そうに頭を掻くイルス。


「ちぇ。なら、こっちのチビコウモリと、狐ババアも魅力的ってこと······ででででえっ?!」


 カミラに腕を捻あげられ、シュユに耳を引っ張られるイルス。


「貴様のような馬鹿じゃ我の偉大なる魅力は分からんのだ」

「お子ちゃまはともかく、お主のようなアホに魅力うんぬん言われたくはないのう」

「いでででででえぇっ?! ギブっ、ギブっ、ゆ、許してくれえ~~!」


「······なあ、キエラ」

「なに?」

「その······」


 なんでここにイルスが居るんだ?


 というか、一体······。



「何がなんだかサッパリなんだが······」







「お~う、ダストども~! 兄貴が目覚めたぞ~!」

「ヒャ~!」

「イルスアニキ、レグルスオヤブン!」

「アニキ、オヤブン、ソロイブミ!」



 裏庭を、俺、イルス、キエラの三人で軽く散歩する。リハビリ的なあれだ。


 そこらの畑で作業していたダスト達が俺の姿を見てヒャーヒャー奇声を上げている。



「やっぱ兄貴はすげーぜえ~。こんなやべえ所つくっちまうんだからよ~」

「あ、ああ」

「けどよ、兄貴~。なんだってあんな馬鹿どもが各部署のリーダーなんだよ~。俺にも何か役職くれよ~」

「お、おう。役職、ね」


 訳が分からないまま歩いてるが、未だに状況が把握出来ていない。



 あの戦いの後。


 俺は奇跡的に助かったらしい。


 四天王はみんな居るし、俺の事を知ってる。


 だから、ここは違う世界とか、過去とかじゃない。ちゃんと、シリウスを倒した後の世界だ。そのはずだ。


 だけど、イルスとしてこの世界に来たはずの俺が、ちゃんと“レグルス”として存在してるのだ。


 もう、何がなんだか······。




「······」

「······あー、そうだー。思いだしたー」


 歩いていると、キエラが突然棒読みみたいな声をあげた。


「レグルスの部屋、まだ掃除してなかったー。困ったなー。また後でレグルスが昼寝するまでに掃除しないといけないのに~」

「?」


 キエラの訳わからん謎の言い分に困惑していると、イルスが目を輝かせた。


「おお~、マジかよ~! ヒャー! 俺がやってくるぜ~、兄貴~! 兄貴はゆっくりここで散歩しててくれ~! キエラ、兄貴に迷惑かけんじゃねえぞ」

「あんたに言われたくない。ほら、さっさと行きなって」

「お~! おいっ、ダストども~! 兄貴の部屋掃除手伝え~!」


 何体かのダストを無理やり連れて、イルスは騒がしく走り去っていった。


「ふう。ね、レグルス」


 その後ろ姿を見送っていると、キエラが手をとってきた。


「こっち来て」

「お、おう」


 手を引かれるまま、近くの見張り台の上に上る。


 上には誰も居なかった。もう、その必要もないからだろう。


「ふー。やっと二人っきりになれたわね」


 そう言って、優しげな微笑みを見せるキエラ。


「ねえ、レグルス。色々と混乱してるっしょ。ここにちょっと座って話さない?」


 そう言って、隣の辺りをコンコンっと示してくる。


「ほら、ここ座って」

「ああ」


 言われるがままに、隣に座る。


 今日はとても良い天気だ。決戦の前となんら変わらない、穏やかな天気。


 和やかな風が身体中をすり抜けていく。


「気持ちいいわね~。こうやって二人で風にさらされるの、なんだか久しぶりね」

「そうだな。最近、大変だったもんな。やっぱこういう穏やかな時間が愛おしいって思うよ」

「······ふふ」

「ん? どうした?」

「ううん。やっぱ、あんたはレグルスなんだな~って。イルスじゃなくてね」


 少し意味ありげに笑うキエラ。


「でも、兄弟ではないんでしょ?」

「それは、えっと、その······ふう。お前は誤魔化せないな······。なあ、キエラ」

「なに?」

「驚いたか? 俺が本当にイルスじゃなくて、レグルスだったこと」

「う~ん。実はそんなに」

「え?」

「なんとなく、そんな感じしてたのよね」


 少し悪戯っぽく笑う相棒。


「まあ、そう思うようになったのは最近なんだけどね」


 そう言ってキエラが俺の肩をつんつんと突っついてきた。


「だからさ。あんたとイルスの二人をリゲルが抱えてやって来た時は少し驚いたけど、妙に納得いったのよね。『ああ、やっぱりレグルスって本当に別人だったんだな~』って」

「えっと、それは······なんと言えばいいのか、話せば長くなるんだけど······」

「無理はしなくていいわ」


 ニコニコと嬉しそうな笑み。


「何か言いにくい事情とかあるんでしょ? あたしらに話せないような」

「えっと······言いにくいと言うか、突拍子もなくてさ。だから説明しづらくて」

「ふふ。でも、何時かはちゃーんと話してよね」


 鼻先にビシっと指を突きつけられる。


「期限は無いけど、拒否権も無し」

「······はは、了解」





 キエラは俺がイルスとは別人だと、少し前から薄々感づいていたらしい。


 もちろん、確信があった訳ではない。俺が異世界人の山田太郎だという事も知らない。


 そして、イルスの身体に憑依していた事も。



「でも、あんた何時からイルスと入れ替わってたの? 四天王集めたあたり?」

「鋭いな。まさにそんくらいの時期からさ」

「へー。あたしの能力でも解除出来ない変装してたのね」



 決戦の後。

 俺とイルスがこのアジトへ運ばれた後、イルスはすぐに目を覚ましたらしい。


 案の定というか、イルスは俺がこの世界に来てからの記憶がすっかり無いらしいが


「あいつね、『よくわかんねーけど、この人は俺の恩人だー! そんな気がする! だから、俺の兄貴だー!』なんて騒いでね」


 混乱するといけないと思ったキエラが、その流れにのって、俺らの事を本当に兄弟って事にして他の皆を言いくるめたらしい。


「とりあえず、四天王結成時あたりから入れ替わってたのよ~みたいにね」



 まさか本当にイルスに兄貴が居たなんて。と、最初は驚いていた四天王やダスト達だったが、その後『でも、イルスみたいな馬鹿にはここまでの組織は作れないな』という、何気にひどい理由で納得したらしい。



 そんなこんなで、イルスは俺の事を兄貴と呼ぶし、現に二人存在しているので四天王らも兄弟だと認識してるらしい。




「なんだか変な話になっちまったなあ」

「馬鹿な弟が出来てあんたも大変ね」

「誰が馬鹿だー!!」

「ひゃあっ!?」

「うおっ?!」


 なんて、キエラと話しているところへ急に現れる馬鹿な義兄弟ことイルス。


「キエラ~! 今バカって言ったろ!」

「うん。言ったわよ~」

「バカって言う方がバカなんだぜっ、このバーカ! ヒャ~!どうだ、論破ってやつだぜ~!」

「はあ。こんなんが弟でもいいの? レグルス」

「はは、まあ············。イルス」

「ん? なんだ、兄貴」

「お前は覚えてないのか? これまでの事とか」

「え? う~ん」


 イルスは少しだけ考える素振りをしたが、すぐに答えた。


「ぜんっぜん!」

「そ、そうか」

「あ、けどよ~。兄貴が俺のために命張っててくれた事はなんとなく分かるっつうか、こう、覚えてるような気がするんだよなー」

「そうなのか?」

「おう。よくわかんねーけど『この人には感謝してもしきれねえ!』って、俺のハートが叫んでんのよ。だから、俺の兄貴だぜ~!」

「そうなのか······」

「あんたさー、今までどこ行ってたのかとか、なんであの大樹の上に居たのかとか、そんくらいは覚えてないの?」

「覚えてねえ」

「はあ。ま、仕方ないわね」


 キエラが困ったようにウィンクしてくる。


「あたしにも分からない事だらけよ。だから、ゆっくりと考えていきましょ」

「ああ、そうだな」

「何の話してんだぁ?」

「そうだ。イルス」

「ん?」

「リゲルは何か言ってなかったか? 俺らを助けてくれたらしいが」


 俺がリゲルの名を出すと、イルスは露骨に顔をしかめた。


「いや、別に······」

「どうした? ふてくされて」

「ふてくされてなんかねえよ、兄貴」

「イルスはねー、リゲルがアジトに来ると、すーぐどっか行くのよ。だから、あれ以来一度も口利いてないのよ」

「そうなのか?」

「おいっ、キエラ! 余計な事言うんじゃねえよ!」


 つんっとそっぽ向くイルス。


「あいつは俺の敵だ! むかつくし、話す事なんて何もねえよ」

「······」

「あいつだって、俺の事なんか嫌いだろうし······」

「······なあ、イルス」

「うん?」


 立ち上がり、キエラにも目配せする。


「ちょっと出掛けないか?」


お疲れ様です。次話に続きます。

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