待ちに待ってたはずなのに…
夏休み編に入ります。
学生にとって憂鬱な行事をひとつ終え、全学生待望のビッグイベントがやってくる。
そう。夏の長期休暇、もとい夏休みだ。
去年までの俺の夏休みと言えば、女の子を落としまくるのに時間が費やされた。それこそ昼夜を問わずにだ。
ヤンデレ幼馴染に始まり正統派委員長、おさげ眼鏡のボインちゃんにインテリ女子大学生、果てはドジっ子教師、などなどなど。彼女たちとプールだの夏祭りだの遊園地だの夏の行楽を制覇し、そこに付随したイベントもすべてこなした。
水着は言わずもがな、浴衣姿も堪能し、いつもと違う姿に恥じらう彼女たちにきゅんとした。イケメンに生まれ変わった俺にとって、夏休みなどイージーモード。
俺にかかれば落とせない女の子などいないのだ!
ふははは!羨ましかろう!!
……はい。すいません。調子に乗りました。そうです。ギャルゲーです。二次元です。俺の夏休みはギャルゲーに始まりギャルゲーに終わりました。
盆には父さん、母さんそれぞれの実家に帰り、親族の集まりみたいな物もあったが、うん。つまりそう言うことだ。
だから、今年の夏休みは割と楽しみにしていた。
もしかしたら地元の夏祭りに誘われちゃうかもーとか、もしかしたらお宅に呼ばれちゃったりして?とか。
期待しちゃったりしてなかったりしていたのだが。
夏休みは明後日に迫っているのにそう行ったお誘いは一向にかからない。
別に女子から誘われるとは思っていない。なんだったら一ヶ月以上合わないことを喜ばれていそうだ。
そうではなくて、美少女が誘った青葉に俺も一緒にどう?と誘われ、美少女たちに憎悪の目を向けられる所まで想像した。
が、その様子も今の所ない。
そもそも、なんとなく。なんとなくだが、相馬との一件以来、なんとなく青葉が俺を避けているような気がするようなしないようなそんな気がする気がしないでもない。
俺と目が合うとびくっと肩を震わせ、顔を背ける。慌てて俺の方を向くが目は合わない。挙動もどこか不審で、サバンナでライオンにばったり遭遇してしまったインパラのようなのだ。いや、ライオンにばったり遭遇してしまったインパラがどんな反応するかは知らないが。
原因に心当たりがないわけではない。
天野さんはあれ以来、事あるごとに俺をどつこうとしてくるし、美少女たちも何も言わないが絶対零度の冷ややかな眼差しを向けてくる。
青葉と絡んでるからというだけの不当なものではなく、俺もまあ、少しは悪かったと……。
いや、俺は一切悪くない。あれはそもそも青葉が……。
だあああああーーーーー!!!!
もう、めんどくせー!!考えるのはやめだ。やめ。
今年もギャルゲーに始まりギャルゲーに終わる夏休みを過ごそう。うん、決定。まだ見ぬ可愛い女の子たちが俺を待っているのだ。
そう言えば、最近新作タイトル確認してなかったな。『ときめきメキメキめもりー』の続編も出てるはずだし、そう言えばあのゲーム攻略してない女の子がまだいたよな。ショートカットで美少女じゃないけど優しそうな顔立ちをした……。
「二階堂くん、ちょっといいかな?」
俺が考え事に没頭していると、上から声がかかった。若干震えているが耳障りの良いアルトの声、岡倉だ。いつの間にか机の前に立っていて、頰を真っ赤に染め、胸の前で指をもじもじさせている。
気づくと他の連中も俺の机を囲むように集まっていた。
青葉、天野さん、大野さん、藤木さん、井上さん、ついでに相馬。相馬は居心地悪そうに顔をしかめているが、耳が赤いため照れているのだろう。
状況を鑑みるにこのメンバーに岡倉は用があるという事だろうが、いかんせん、さっきからあーだのうーだのとしか言わないため、俺以外も困惑気味だ
「……何だよ?言うならさっさと言えよ」
俺はなかなか口を開かない岡倉を促してやっただけなのに、女子たちから鋭い視線が飛ぶ。……最近、なんだかんだ俺に対する態度も軟化してきたと思ってたんだけどな。敵意だけではなく、呆れを多分に含むようになったというか。あれ?評価がマイナスなのは変わらないのか?
ともかく、俺は彼女たちからの視線を見ないようにし、岡倉だけを視界に収める。
岡倉は俺の視線にまな板の上の鯉のように口を開閉すると勢いよく言葉を吐き出した。
「夏休み、みんなで旅行に行きませんか!!……って父さんが」
……惜しい。最後の一言がなければ誘い文句は完璧だった。




