全部、君の…
運動会とか、体育祭とか、ずっとずっと苦手だった。
運動音痴だって事は物心がついた時から分かっていたし、遡ると前世からドジだったんだから、もう魂単位で救いようがないと思う。
個人競技なら僕が負けるのは仕方ないと諦めもつくけれど、団体競技では足を引っ張るのは目に見えている。それで負けてしまったら?悔しい思いをする人がいたら?悲しい思いをする人がいたら?そう思うと申し訳なさでいっぱいになって、いっそ休んでしまおうかと考えた事も一度や二度じゃない。
それでも一緒に頑張ろうと言ってくれる人がいて、僕は憂鬱になる気持ちをおし隠して、体育祭に臨んでいた。
だから、こんな風に楽しみに感じたのは初めてで。勝利というのがこんなにも嬉しいものだって事も知らなくて。
火照った体に繋がれた君の体温は更に熱くて。会場は興奮に沸き立ち、天空は晴れ晴れと僕らを映し出す。どくどくと脈打つ心臓は普段の役割とは別の働きをしている。
いつもだったら疲労困憊で倒れてもおかしくないけれど、疲れているのに心地良い。そんな不思議な感覚だった。
それも全部、彼のおかげ。二階堂くんがいなかったらこんな感情、味わえなかった。
「お疲れ」
勝利の余韻に浸っていた僕を引き戻してくれたのはやっぱり二階堂くんだった。僕は目が覚めたばかりのように瞬きして、彼を見上げる。
「すげーじゃん。一位取るなんて。よく頑張ったな」
そこには屈託なく笑う二階堂くんの顔があった。それは紛れもなく僕に向けられる彼からの称賛。お弁当以外でこんな風に褒められるのは初めてでなんだか照れくさい。
「僕の力じゃないよ。二階堂くんがいてくれたから、勝てたんだ」
「お前の力だろ。確かに足は遅えし、抜いてもすぐに追い抜かれるし、体調悪そうだし、こいつ大丈夫か?ってところどころ危なっかしかったけど、障害を突破したのは紛れもなくお前の力だ。最後に俺を選んだのだって青葉自身だろ。それを全部ひっくるめて青葉の勝ちだ」
嬉しさは留まる事なく後から後からこみ上げてくる。それをどう言葉にしていいか分からなくて、僕はきゅっと口を引き結んだ。そうしないと別の感情も一緒に溢れてしまいそうで。
「で、体調は?」
そう言って二階堂くんはさっきみたいに唐突に僕の額に触れる。
「に、二階堂くん!?」
収まりかけていた体温が再度、上昇する。そんな僕に二階堂くんが気付くはずもなく、いつもみたいに険しい表情を僕に向けた。
「気分は?朝みたいに気持ち悪くないか?」
その顔は真剣そのもので。僕はお昼のやり取りを思い出す。
「だいぶ疲れてはいるけれど、悪くはないよ」
「……ならいいけど。なに笑ってんだよ」
二階堂くんの声はいつになく不機嫌だ。知らず僕は笑っていたらしい。
それも全部、君のせい。君の不器用な優しさに僕はいつも……。
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「二階堂のバカ。ずるい。バカ」
校長先生の手を引いたままの浅間さんが、むうと唇を尖らせて二階堂くんに恨めしそうな視線を送っていた。
それに気付いた二階堂くんは珍しく勝ち誇った顔をした。
「ふん。お前の敗因は最後に校長を選んだことだ。途中まで頑張ってたのに残念だったな。うさぎ跳びはなかなか似合ってたぞ」
「……悔しい」
このふたりいつの間に仲良くなったんだろう?
それにもうすぐ閉会式だけど校長先生は戻らなくてもいいのかな?




