物理攻撃は勘弁…
ふう。うまかった。
紙コップの茶をすすり、腹をぱんぱんと叩く。もう、大満足だ。
ちょっとした妨害行為もあったが青葉の弁当を前にした俺の敵ではない。これで午後もばっちり頑張れる。まあ、どちらかと言えば今から頑張らなきゃならないのは青葉の方だが。
視界の端に悔しげに歯軋りする美少女が見えなくもないが、いつものことなのでもはや気にしない。
けれど、なぜだろう。その隣から敵意に満ちた視線を感じない気がしないでもない。初対面の年下女子を怒らせるような事をした覚えはないのだが…。
「ごちそうさまです。とってもおいしかったですわ」
「ごちそうさま!樹里ちゃんはいいね。こんな料理上手なお兄ちゃんがいて」
みんなも食べ終わったらしく、口々にごちそうさまと青葉に笑顔を向ける。大きな重箱は見事にからっからで付け合わせのパセリすら残っていない。
「お粗末様でした。量は大丈夫だった?足りなくない?」
「大丈夫だよ。私はお腹いっぱい。だけどもっと入りそうで怖いな。青葉くんの料理ってすごくおいしいからいくらでも食べれちゃいそう」
藤木さんの言葉に青葉は頭に手を当ててはにかみながらありがとうと言った。
「青葉さんはなんて可憐で家庭的なんでしょう!今すぐ僕のお嫁さんに……むがっ!」
天野さんは例のごとく口を塞がれた。転校生というブランドと青葉の何!?的な警戒心はもはや薄れ、ただただみんなからの扱いが雑になるというこの安定の残念感。あの頃の超絶美少女はどこへいった。まあ、別に構わないが。
それはともかく。青葉の妹を見た瞬間からなーんか、引っかかってたんだよな。いろいろあって、頭の隅に追いやられていたが、腹も膨れ一息ついたところで、引っかかりがなんなのかに思い至った。俺、樹里ちゃんを見たことがある気がする。どこで?とかどうして?とかはまったく思い出せないが見れば見るほど既視感を覚える。
前世の俺は思い出せそうで思い出せない、もしくはすっかり忘れたというのはままあったが、今世ではほとんどないと言える。何てたって今の俺は格段に頭がいいからな。
だから思い出せないということに余計、頭がもやもやする。
うーん。どこで見たんだっけ?
彼女は今、自身の兄ときゃっきゃとはしゃいでいた。青葉が朝倒れたと聞いてお兄ちゃんはいっつも頑張り過ぎなの!とぷりぷり怒っている。
決して、くっそ妹とまでいちゃいちゃしやがって羨ましい!とか思って見ているわけではない事をご理解いただきたい。
あぐらを組んだ膝に頬杖をついて考えていると、冷ややかな視線を感じた。そちらを見るとやっぱりというか青葉ハーレムの御三家が俺を睨めつけていた。
「ちょっと二階堂。なにいやらしい目で樹里ちゃんを見てんのよ」
「樹里ちゃんが穢れますわ。視界に入らないでくださいます?」
え、そっち?視界に入れるなじゃなくて入るなの方?つくづく、本当につくづく思うが美少女たちの扱いがひどすぎる。この際、モテたいとか優しくされたいとか言わないから、もうちょっとだけ扱いを丁寧にしてほしい。
お願いだから俺のガラスハートに気づいて。
精神攻撃に滅法弱いんです。……だからと言って物理攻撃に強いわけでもない。
藤木さん。その木刀どっから出した。なぜ、立ち上がって俺の前で構えをとっている。
「ロリコン、許すまじ。滅びろ、二階堂!」
耳の横で風が唸る。紙一重で避けた木刀は俺と岡倉の間の地面にめり込んでいた。岡倉はというと座ったまま気を失ったようだ。ぴくりとも動かない。ご愁傷様というべきだろうか?
いや、奴に構っている暇はない。俺の命は今、風前の灯だ。うん。逃げよう。
逃走を目論んだ俺を藤木さんは木刀を振り回して追いかけてくる。
大野さん、井上さん、天野さん、なぜか樹里ちゃんまでもが加わって藤木さんに声援を送り、岡倉は気絶したまま、青葉は苦笑しつつ静観している。
この日ほど自分の運動神経の良さに感謝した日はないだろう。
これだけ言わせてもらっていいだろうか?
俺の味方は誰もいないのか!?




