うちのお兄ちゃんはあたしが守る…!
樹里の中で青葉に惚れてる美少女達を差し置いて要注意人物ナンバーワンのその人は、さっきから会話に加わることなく一心不乱に弁当を食べている。
せっかく綺麗な顔は不機嫌そうに顰められ、けれど箸を休めることなくおかずを次々と口に運んでいく。
卵焼き、唐揚げ、おにぎり、卵焼き、ほうれんそうのおひたし、大根の煮付け、また、卵焼き。
青葉が見ればいつもより眉間のシワが少なく口元が僅かに緩んでいるのが分かる。けれど初対面の樹里がそんなこと知るわけもなく。
ーーこの人がお兄ちゃんの友達?
樹里は胡乱げな眼差しを向ける。
進級してから青葉はよく“友達”の話をするようになった。
不器用だけどとっても優しい人なんだよ。僕も何度も助けられたんだ、と。
それからは鼻歌混じりに弁当を作ったり、先の休日など見るからに楽しげな様子で“友達の家”に遊びに行っていた。
あまりの浮かれように樹里も最初は疑っていたのだ。友達と言いつつ、彼女が出来たんじゃないか、と。
けれど、彼らの関係を考察するに四人の美少女の内の誰かが彼女という可能性は低そうだ。美少女であろうと向ける視線に特別な色はなく、平等に接しているように見えた。
友達というのは先ほど言い争っていた、それでも今仲良さげに隣に座っている彼がそうなのだろう。
だからこそ樹里には不可解だった。確かに顔だけは極上のようだが会話そっちのけで弁当を頬張る彼にそこまで傾倒する要素は見つけられない。
というか青葉の料理に何の感想も感謝もなく無言でばくばく食べている静に樹里としては好感の持ちようがなかった。
ーーなんでいただきますの一言もないわけ?なんでそんな仏頂面なわけ?いくら顔が良くたってお兄ちゃんがそれを許したってあたしが許さないんだから!!
「樹里?どうしたの?」
黙りこくってしまった樹里を青葉が心配そうにのぞき込む。樹里はぱっと静から目を逸らし、なんでもないと首を振った。
「城西学園ってすごいところなんだね。顔面偏差値も高くないと入れないのかな?どうしよう…。勉強以前に不合格決定!?」
ごまかすために言ったセリフに自分で落ち込む樹里だった。青葉は苦笑し、思わぬところから援護が入る。
「いや、そんなことはないけど……」
「そんな!樹里ちゃんは可愛いよ!」
「笑顔なんてとっても素敵ですわ」
「そうだよ!ちっちゃくて、丸っこくてなでなでしたくなるその可愛さ……!!」
「「…………」」
普段の武士然とした凛々しさはどこへやら。美和子はこぶしを握って熱弁する。そんな美和子にののとサラサは半眼を向けるが、気づいた様子もなくうっとりと樹里を見つめている。
美少女に可愛いと言われて嬉しくないわけがなく、樹里はふにゃりと相好を崩した。
「うふふ。ありがとうございます」
その笑顔は兄弟だからかやっぱり青葉にそっくりで美少女達の頬にも朱が差す。
青葉は微笑ましそうにその様子を眺め、雅人も会話に加わることはないがにこにこして耳を傾けていた。
背後で繰り広げられている青葉の弁当争奪戦は後日語ることにしよう。
樹里は思う。
この際青葉の彼女云々は置いといて二階堂静は放ってはおけない、と。
見るからに横柄だし、気が効かなそうだし、人を見下してる感じがする。
青葉の友達にはもっとこう包容力があって、頼もしくて、笑顔がきらきらしてる人が似合うに違いない。
決して妬いているわけではない。
あんなに楽しそうな青葉も怒ってる青葉も樹里は初めて見た。けれどそれが羨ましいとか、お兄ちゃんを取られてしまうとか、男友達に抱く感情ではないのだから。
口ではああ言ってるけど本当はいじめられてるのかもしれない。弱味を握られて本当の事を言えないだけかもしれない。もしくは心優しい青葉のことだから騙されていいようにこき使われているのかもしれない。いや、そうに違いない!
だから樹里は使命に燃える。
ーーお兄ちゃんは騙せてもあたしは騙されないんだから!あんたの本性このあたしが暴いてくれる!!
また一人の少女を敵に回したことを静が知る余地もなく。彼らのお昼時はこうして過ぎていった。




