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うちのお兄ちゃんが世界一!

サブタイから分かる通りあの子の第三者視点です。

「ふあ〜。おはよー」

樹里がパジャマのまま一階に降りるとキッチンではすでに青葉が弁当作りに励んでいた。いったん作業の手を止めて樹里の顔を見ると笑顔で挨拶を返してくれる。

「おはよう、樹里。珍しく早起きだね」

「うん。なんか目が覚めちゃって。お兄ちゃんは今日、体育祭だよね。……あれ?重箱?そんなにお弁当作ってくの?」

「まあね。お昼の約束してるから僕がみんなの分を作っていくんだ。樹里と母さんたちの分はいつものお弁当箱に用意してあるからお腹が空いたら食べてね」

ほとんど完成しているのか皿に盛られた料理が四人掛けのテーブルに所狭しと並んでいる。青葉はそれを鼻歌交じりで重箱に詰めているところだった。

「……お兄ちゃん。もしかして、いじめられてるの?」

樹里はキッチンの入り口に立ち尽くし体は小刻みに震えていた。その顔は悔しげに歪められ、今にも泣きそうだった。

「……へ?」

「だって…!こんなにたくさんおかしいよ!クラス全員分のお弁当作ってこいって脅されたの?作って来なきゃ簀巻きだってクラスのドンに言われたんでしょ!?お兄ちゃん見るからにひ弱だから、普段からパシリをやらされちゃったりしちゃったりしてるんでしょ!?お兄ちゃんをいじめてるのはどこのどいつ!?あたしが懲らしめてくる!!」

「待って待って。樹里は朝から想像力が豊かだね。これは……調子に乗って作り過ぎちゃっただけだから。材料費ももらってるし。いじめじゃないよ」

青葉は慌てて布巾で手を拭うと樹里の首根っこを掴む。そうしないとパジャマのまま外に飛び出しかねないからだ。こういう先走りは日常茶飯事なので青葉も慣れたものである。

「本当に?……前も友達にお弁当を頼まれたとか言ってたけどその人?」

「そう。他にもあと五人いるんだ」

「なんでお兄ちゃんが作るの?」

「僕が作りたいって言ったんだよ。家族に作る以外こういうのしたことなかったから僕から頼んだんだ」

「……ふーん。お兄ちゃん料理するの好きだもんね」

樹里は疑わしい表情を崩さなかったが一応は納得したように頷いた。

青葉はよく家で料理している。

自ら青葉家のお弁当作りにも志願し、宣言通り毎日欠かしたことはない。

と言うのも青葉家の女性陣は朝が弱いらしく二人の母透子も朝は大の苦手だ。

青葉も樹里も中学から弁当が始まり、透子も最初は眠い目を無理矢理かっぴらいて包丁を駆使していた。しかし見るに堪えない惨状に自分で作るからと当時中一だった青葉は救いの手を差し伸べた。出来た息子に透子は感涙に頬を濡らし父正晴はついでに俺の分も頼むわと中一の息子に弁当を催促した。

こうして青葉家の弁当スタイルが確立していった訳だがそれを抜きにしても青葉は暇さえあればしょっちゅう料理を作っており好きでやっているのは明白だ。

透子は仕事が減って助かるわーとその時間を睡眠と韓ドラの鑑賞に当てていたりする。

「よし、分かった。今日、お兄ちゃんの学校に行く」

難しい顔をして考え事をしていると思ったら唐突にそんな事を言い出した樹里に青葉は再び手を止めて己が妹を見やった。

「あたし第一志望城西学園だし。見学も兼ねて。ね?行ってもいいよね?」

疑問系にはなっているが有無を言わせない迫力に青葉は困ったように眉尻を下げた。

「来てもいいけど、いい子にするんだよ?僕は競技にも出ないといけないからあんまり構ってあげられないし、校内は広いから迷子にならないようにね。あと、お菓子に釣られて知らない人についていかないこと。全部約束出来る?」

「んもう!子供扱いしないで!!あたし中三だよ?それにお兄ちゃんが心配だから行ってあげるんだからね!?」

「そうだね。樹里は優しいね。ありがとう。はい、これ。熱いから気をつけてね」

青葉はいつの間にやら用意したミルクティーを樹里に手渡す。若干はぐらかされた気がしないでもないがせっかくなのでふぅふぅと冷まして一口含めばミルクと砂糖たっぷりの樹里好みの味だった。




樹里はそんな青葉こそ誰よりも優しいのだと知っている。

優しくて、頭も良くて、樹里のわがままにも文句言わずに付き合ってくれる。運動神経は皆無だし、たまに何もないところで転けるけど、料理上手な自慢のお兄ちゃんだ。

世界中を探したってこんなに素敵なお兄ちゃんはいないに違いない。

けれど樹里だけのお兄ちゃんは優しいがゆえに自分が傷つく事に対して鈍感だ。樹里は青葉が怒ったところを一度も見たことがない。たとえ馬鹿にされたとしても、理不尽な暴力を受けたとしても絶対にやり返さない。仕方が無いねと笑って受け流すのだ。それは大人びても見えるけれど樹里には我慢しているようにしか思えなかった。



だから樹里は使命に燃える。

ーー優しいお兄ちゃんがいじめられないように、変な虫がつかないようにあたしが守るんだから!!そのお友達とやらがお兄ちゃんの友達に相応しいか確かめてくれる!


かくして樹里は城西学園に単身乗り込んだのだった。


このまま次回に続きます。

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