天然タラシめ…
すみません。
遅くなりました。
よし。ここまでこれば大丈夫だろう。
立ち止まって周囲を見回し人の気配がないのを確認すると、ほっと息をつく。
さっきは本当に危なかった…。青葉は気づいていなかったようだが軍団で押し寄せてきた美少女たち。麗しい顔に笑みを貼り付けて肘で押し合いへし合い、互いを牽制しつつ近寄って来る様には恐怖を禁じえなかった。体育祭でランチタイムというのは確かに外し難いイベントだが、ここは譲れない。なんと言っても青葉の弁当は俺のもの。俺にだって相手が美少女と言えど負けられない戦があるのだ。
とりあえずの勝利の余韻に浸っていると後ろからゼーゼーと荒い呼吸が聞こえてきた。
「あ、悪い」
しまった!青葉は胸に手を当てて、肩を上下させている。顔は真っ赤だ。朝倒れたばかりの青葉に無茶をさせたことに今更気づき、慌てて近くにあった石段に座らせた。
「ほら、飲め」
青葉が下げていた水筒からお茶を汲み、渡してやる。青葉は力なく「ありがとう」と言って受け取るとゆっくりと飲み干した。
「落ち着いたか?」
「うん、もう平気。二階堂くんは流石だね。あんなに走って息ひとつ切らさないんだから。僕が体力なさすぎるのかな」
そう言って笑う青葉はまだ苦しげだ。
自分の馬鹿さ加減に腹が立った。確かに青葉の弁当で興奮してたのは否めないが、その本人に無茶をさせるなんて言語道断。また倒れる事態になったら弁当どころの話じゃなくなる。琴美のいうところのエスコートは行き過ぎだと思うが配慮が足りなかったのは確かだ。
「お前さ、無理なら無理って言えよ。今のもそうだし、弁当のこともさ。寝不足、俺のせいなんだろ。そりゃあ作ってくれたら嬉しいけど強要してるわけじゃねぇし、俺に遠慮すんな」
謝ろうと思って出た言葉は例のごとく暴言の一歩手前。言い方がついぶっきらぼうになってしまうのはもう癖としか言いようがない。俺ってなんでこうなんだろう…。素直さというものをどこかに置いてきてしまったらしい。幼稚園児だって素直にごめんなさいと言えるのに。俺なんて二回も園児経験してるんだけどな…。
流石にこれは青葉も怒るだろう。案の定青葉は険しい表情を浮かべて立ち上がった。
「無理なんかしてないよ。今日はいつもよりちょっとだけ早起きしたけど、寝る時間はそんなに削ってないし二階堂くんのせいじゃない。…初めて、体育祭が楽しみだったんだ。足手まといにしかならないからこういう行事は苦手だったけど、二階堂くんと一緒だったら楽しいんだろうなって。お弁当だって二階堂くんの期待に応えたいって思ったんだ。あの時の約束がすごく嬉しかったから」
そう言って青葉はいつもの優しげな笑みを浮かべる。
……俺の言い方に怒ってないのは分かった。そんな風に言ってもらえるのは友達冥利に尽きるというものだ。女子だったら頬を赤らめる場面だろう。だがひとつ言わせてもらっていいだろうか。
「お前よくそんな小っ恥ずかしいこと平気で言えるな」
反省はしていても減らず口が治るわけでもなく、思わず突っ込んでいた。
ど天然恐るべし。
大海原のように心の広いこのたらし様を見習えそうにないと悟った今日この頃。
ほんの少しだけ胸にぐっときたのは秘密だ。




