素直になれないお年頃…?
「うん。顔色も良くなったし、もう戻って大丈夫よ」
「ありがとうございます。お世話になりました」
「いいのよ〜。これがワタシのお仕事だもの。それとは別に青葉ちゃんならいつでも大歓迎よ!」
「……んなこと言ってると背後から刺されるぞ」
天野さんあたりに……とは言わずにおいた。口に出したら現実になりそうで恐ろしい。何よりそんな修羅場見たくない。男二人が女一人を取り合うならまだしも、一人の男を女と男が取り合うとか、俺の精神衛生上非常によろしくない。
「二階堂くんも付き合ってくれてありがとう」
絶好調とは言えないものの朝よりは元気そうに見える。しかしこいつは油断ならない。倒れるぐらいならその前から気分は相当悪かったはずだ。それなのに不調の事など一切口に出さずそのままダウン。我慢強いのはいいが心配するこっちの身になってもらいたい。
「別に。きつくなったらすぐ言えよ。お前が意識失ったら俺が運ぶはめになるんだからな」
「んもう。しーちゃんったらほんと素直じゃないんだから。無理しないでねって普通に言えないの?」
「お前は普通に喋れないのか」
「お前って言うな!先生と呼べって言ってんでしょ!?」
「そっちこそしーちゃんって呼ぶなつってんだろ!!」
「しーちゃんはしーちゃんなんだからしょうがないでしょ。あんたがこーんな小さな時からワタシが面倒見てあげてたんだからね。はあ、あの頃はまーだ可愛げがあったのにこんなになっちゃって。誰に似たのかしら?」
「うっせー!!俺は元からこんなだよ!琴海の方こそどうしてそうなった。男か女かはっきりしろよ!」
「うっさいわね。どっちでもいいでしょ!あんたばっかに構ってる暇はないの!青葉ちゃんをエスコトートしてとっとと戻りなさい!」
「なんで野郎をエスコートしなきゃならないんだよ!」
「そんなこといってるからモテないのよ。あ、青葉ちゃんは水分補給しっかりね。ちょっとでも体調悪くなったらワタシの所に来るのよ?優し〜く看病してあ、げ、る!」
気色悪いからウインクすんな!
気色悪く退場したかと思ったらすぐに帰ってきた琴海はこの通り通常運転に戻っている。……あのままどっか行けば良かったのに。
どうも青葉の周りは美少女がいようがいまいが騒がしくなるらしい。
「行くぞ、青葉」
琴美なんかに付き合ってられずさっさと歩き出そうとしたが、いつもならあるはずの返事がなく怪訝に思って振り返る。すると青葉はその場から動かず肩を震わせていた。まさかまだ治ってなかったのか!?と慌てて駆けつけると青葉は口元を隠して必死に笑いを隠そうとしていた。
「……おい。なに笑ってんだよ」
「ううん。なんでもない」
そう言いつつ、声が震えている。必死に抑えようとしているがうまくいかず声が漏れている。
「いや、笑ってんだろ」
俺が半眼で睨んでも声を上げて笑い出す始末。何がそんなにおかしいんだか、目の端に涙まで浮かべている。……琴海の存在がツボったとか?ただひとつ分かるのはこんだけ笑えりゃ元気ってことだな。よしっ。置いてこう。
問い質すのも面倒く、青葉を置いてさっさと歩き出す。するといつも通り「あ、待って!」という声が追いかけて来た。
「おかえり、青葉くん!」
「おかえりなさい。お身体はもうよろしいんですか?」
「青葉さん!!もう大丈夫なんですか!?苦しくないですか?やっぱり狸ジジイをぶん殴ってきますか?」
「うん、もう平気。心配かけてごめんね。藤木さんもありがとう。わざわざ登録変更しに行ってくれたんだよね」
青葉は天野さんの発言を華麗にスルーし、藤木さんに礼を述べる。すると藤木さんは気まずそうに視線を逸らした。
「どうしたの?」
「えっと……」
見るからに不自然な動作に青葉は不思議そうな視線を向ける。言いずらそうな藤木さんの代わりに大野さんが口を開いた。
「登録変更出来たのは良かったんですが、代われる競技がその……借り物競走しかなかったらしいんです」
「…………え?」
青葉は笑顔のまま固まった。藤木さんが「ごめんね!」と謝り始めたために「いいよ、気にしないで」と口では言っているが、その目は若干虚ろだ。
あ〜ぁ。よりにもよって借り物競走か。
『ーー……四百メートル走に出場する生徒は朝礼台前に集合してください。繰り返します……」
「あ、二階堂くんの番だね。頑張って。みんなで応援してるよ」
気を取り直したらしい青葉が声援をくれる。女子組からは一位をとって来いとの激励を頂いた。
……まあ。言葉をもらえるだけありがたいと思うことにしよう。
死地に赴く友のために一位でも献上してやろうではないか。




