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お静かに…

「大丈夫か?」

「うん。もう平気」

そう言って笑う青葉の顔はまだ青白い。声にも心なしか覇気がなかった。

「何か欲しい物はありますか!?やってほしいことは!?ああ、どうしましょう!!青葉さんが倒れるなんて!!とりあえずあの狸ジジイに文句言って来るので待っていてください!!」

「こら待て。狸ジジイって校長のことか?毛がないからどちらかと言うと海坊主……じゃなくて、本当に行こうとするな。あと、病人の前で騒ぐな」

やると言ったら確実に実行に移す彼女こそ中身は猪じゃないかと疑いつつ校長めがけて突っ走ろうとするその首根っこを引っ掴んで阻止する。

「あはは。大丈夫だよ、ユエル。横になったらだいぶ楽になったし、水分もとったから」

「油断はいけませんわ。熱中症と言いましても年間千人を超える死者が出ているんです。それに倒れるなんて元から体調がよろしくなかったんでしょう?」

大野さんの鋭い指摘に青葉はぐっと詰まる。

確かに大野さんの言う通りだった。今日は暑いと言えど夏に入ったばかりだ。言ってしまえばその程度の暑さで健全な男子高校生が熱中症で倒れるには余りにも貧弱過ぎる。

思い返してみれば朝から元気がなかったような気もする。





校長の長〜い開会挨拶の最中、青葉は倒れた。とっさに俺が受け止めたために頭こそ打ってないものの呼びかけても返事はなくマジでびびった。

校長の話なんて右から左に聞き流し、青葉を見つめていたのであろう天野さんがすっとんで来たはいいもののどうしようと右往左往し始めたため冷静になった俺は野郎の体を抱えて救護班が常時待機しているテントに向かった。

そうして下された診断が軽度の熱中症。

水分を取りしばらく休憩すればこの後の競技にも影響はないとのこと。

原因はおそらく睡眠不足。気分がましになってから養護教諭が簡単な問診をした時に答えづらそうにあまり寝ていないと答えていた。




「ほら、あんたたち戻りなさい。もうすぐ競技始まるわよ。こんなに大勢で付き添っても邪魔なんだから行った、行った!」

養護教諭こと大村琴海は美少女たちにしっしと犬でも追い払うように手を振った。

「イヤらしい目で青葉さんを見てるあなたに任せてはおけません!僕がずっと側にいます!」

「見てないわよ!小娘がぴーちくぱーちくいつまで喚いてても良くならないんだからさっさと行きなさい!」

二人の間にばちばちと火花が飛び散る。……青葉を挟んで。

揉め始めた二人をあわあわと止めに入ろうとした青葉の代わりに琴海に鉄拳制裁を施しておく。天野さんにはって?仮にも女子に手を上げちゃいかんだろう。

「痛って〜っっ!!何すんのよ!!」

「うるせーつってんだろ!!琴海!お前がうるさくしてどうする!」

涙目で頭を抱える我が校の養護教諭は白衣にナイスバディなお姉さん……ではなくイケメンなお兄さんだ。

先ほどのやりとりから分かる通りおネエなお兄さんではあるが。

女のような名前は大村だから琴海でいんじゃねと子供が出来たと分かった時点で名付けられたらしい。

「琴海言うな!学校では先生と呼べ!もっと敬え!!」

ちなみに俺の従兄弟だったりする。琴海の母さんが俺の父さんの妹にあたりチビの頃は良く遊んでもらった。昔は普通だった気がするがどうしてこうなったかは俺にも分からない。恋愛対象が男か女かも謎な部分ではあるが俺と違って美少女を目の敵にしている点は間違いない。……ってんなことはどうでもよくて!

「先生と呼んで欲しいなら場を弁えろ。大野、そいつ連れてけ」

「……分かりました。青葉くんはゆっくり休んでくださいね。また、後で。さあ、天野さん行きますよ」

いつもなら俺の言葉に文句の一つも言いそうな大野さんもこの時ばかりは素直に従ってくれるらしい。俺から天野さんを受け取り、いつの日かのごとく天野さんをずるずると引きづっていく。

「は、離してください!僕は青葉さんに……。うぅ〜。早く元気になってくださいね〜!!」

さすがに騒ぎすぎたと反省したのかこれまた天野さんも比較的素直に引きずられていった。未練がましく今生の別れのように手を振り続けているが。

青葉に元気がないと美少女たちの威勢も削がれるらしい。いつもこのぐらい平和だといいんだけどなあ。

「ああ〜〜。ごめんね、青葉ちゃん。わたしまで騒がしくしちゃって」

いい年こいた大人もしょんぼりとでかい肩を落として青葉に謝る。

「大丈夫ですよ。気分も悪くないし、もう戻れます」

琴海よりよっぽど大人な対応をした青葉はそう言って起き上がろうとした。

って、なにしてんだ!?

「まだだめよ!顔色もあんまり良くないしもう少し休んでなきゃ!」

琴海が慌てて止めに入る。

「でも、次の競技僕の出番だし……」

しかし困ったように眉尻を下げる青葉。その眉間を強めに弾くとうわっと声を上げて簡易ベットに戻った。

「藤木が選手登録し直しにいったから気にすんな。おまえは寝てろ」

「玉入れだし大丈夫だよ。そんなに動くものでもないし……」

……まったくこの困ったちゃんめ。青葉は真面目というより頑固と言ったほうがしっくりくる。見た目はひ弱だが芯があるというかなんというか…。

「ね・て・ろ。寝不足なんだろ?人の好意は素直に受け取れや。ったく……心配かけんな」

パイプ椅子を引っ張ってきてベッドの横に陣取った。すると青葉がまた困ったように俺を見てきた。

「……二階堂くんは行かないの?」

「俺の出番はまだ先だしお前が逃げ出さないように見張っとく」

「…………そっか。じゃあ、お言葉に甘えてもう少しだけ」

そう言って瞼を閉じる青葉の顔には赤みが戻り、回復しつつあるのがうかがえた。とりあえず一安心しグラウンドに目を向けると玉入れが始まっていた。

赤い鉢巻をしてる連中が奥に見えるからあの中で岡倉が青葉の分まで頑張っていることだろう。無言の声援を送っているといつの間にか琴海が横にいて死んだ魚の目で俺を見ていた。

「……リア充め。爆発しろ!……うわ〜ん!しーちゃんのばか〜〜!!」

小声で吐き捨てた琴海は悲劇のヒロインのごとく両手で顔を覆って走り去っていった。

……なんだあいつ。リア充じゃねえし、なんかウザいし、しーちゃんって呼ぶなだし。てか、仕事しろ!


琴海の由来が気になるという奇特な方がいましたら大村湾で検索を。


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