開会は熱気と共に!?
「すげ〜、あちー〜」
スカッとした青空に容赦なく降り注ぐ太陽光。
昨日見た天気予報では八十五パーセントの確率で雨予報だった。体育祭は嫌いではないから曇りぐらいがいいなーとか思ってたら、この天気。
とんでもない晴れ男か晴れ女がいるらしい。
正直曇りぐらいが良かった。なんと雨予報を覆すどころか今年の最高気温を叩き出してしまったのだ。
「今年は何がなんでも優勝するぞーー!!勝利はB組の手にーー〜!!!」
「「おおぉ〜〜っ!!!」」
おまけにこっちも熱かった。B組団長はどこからか調達した学ランに身を包み配下が赤地に虎の描かれた団旗を振る。
その掛け声に合わせて三学年分の生徒が雄叫びを返す。
「今年は一層と気合が入ってるみたいだね」
珍しく青葉の笑顔は引きつっていた。無理はなかろう。集団戦とはいえ一人一人の活躍も無下には出来ない。あの張り切り様を見れば下手な活躍は出来ないと冷や汗をかくのも頷ける。
全校生徒はすでにグラウンドに集結し、各々の団で最後のミーティングをしている。
そんな様子を俺たちは一歩引いたところから観察していた。
「なんか…熱いよな」
他校からすればドン引するほどの盛り上がりは毎年のことなのだが、B組は更にその上を行く。
「まあ、仕方ないのかな……」
青葉は始まる前からお疲れの様子だ。ちらりと俺を見て深いため息をこぼす。なぜ俺を見たかは不明だが気の毒に思えてぽんと肩を叩いて労わってやる。
「ちょっと!!バ階堂!青葉さんに気安く触らないでください!!」
天野さんが目ざとく駆けつけてきた。青葉をべりっと俺から剥がし、威嚇する彼女は当然体操服だ。
白い半袖シャツを紺色のハーフパンツにインして頭には赤い鉢巻をカチューシャのように結んでいる。
男子も全く同じ格好になるのだが美少女というだけでなんとも背徳感を唆られるというか……。
いつもと違う姿にどきどきするのは俺だけじゃないはずだ。
やっぱ、美形は観賞用に限るな!
「青葉さん!!バ階堂がいやらしい目で見てきます!!」
そう言って天野さんは青葉の腕にしがみつく。青葉は困ったように眉尻を下げるが振りほどくことはしない。
周囲でどよめきが起こった。
無理もない。誰が見ても羨まし……垂涎……眼福…………。
不可解な光景に男子は鼻の下を伸ばして……。
こほん。おそらく彼らに青葉の姿は映っていない。平凡故に自らを重ねて見ているのだろう。
「てか、お前。馬鹿って言ったか?どさくさに紛れて二回も言っただろ!!」
「違います〜。バ階堂って言ったんです。あなたは耳まで馬鹿なんですか?」
「なお悪いわ!!青葉!!お前の飼い犬だろ!!ちゃんとしつけろよな!!俺を見るたびに吠えやがって!!」
「青葉さんに責任転嫁するのやめてもらえます!?あなたが馬鹿なのは生まれる前から……」
「ユーエール〜〜?」
はっとして天野さんは口を噤む。俺も我に返って誤魔化すように頭を掻いた。
なぜだろう。照れ隠し以前に天野さんと話していると喧嘩腰になってしまう。低レベルな争いがデジャヴに感じるようなそうでもないような……。
「生徒は団ごとに整列だって。行こう、二人とも」
いつのまにか号令がかかっていたらしく周囲もまばらになっていた。俺は考え事を霧散させ前を行く青葉についていった。
「……え〜〜であるからして、……え〜〜スポーツマンシップに乗っ取り、……え〜〜ケガのないように……」
学校行事の通過儀礼ともいうべき校長の挨拶。滅多にお目にかかれない校長のお姿を間近で拝謁できるこの機会に誰もが感涙に袖を濡らし……ってんなわけあるかーーあ!!
長い。長すぎる。かれこれ十分は経過しているが一向に終わりが見えない。決まり文句で始まって決まり文句で終わる校長の演説を行事の度に立ったまま聞かされるこっちの身にもなって欲しい。
さっきからじりじりと脳天を焼かれているんだが。……校長は良いよな。直射日光も跳ね返してそこにもう一つの太陽があるみたいだ。
それはともかくもう少し話短縮してくんねーかな。え〜〜の回数を減らせばぐんと短くなるはず。百回数えて面倒くなったからそれ以上は言ってるはずだ。おそらく三分は削れるはず。
「青葉……」
その思いつきを教えてやろうと振り向くとぐらりと青葉の体が傾いだ。とっさに手を伸ばすと青葉の全体重が俺にのしかかる。
「……青葉?………青葉!?」
呼びかけても返事はなく、顔面蒼白な青葉に俺の頭も真っ白になった。




