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フツメンに生まれたかった…  作者: 橘アカシ
二階堂邸in青葉のお料理教室編
21/63

君の一言…

「……お前、何笑ってんだ?」

前を歩いていた二階堂くんが怪訝そうに振り返る。今日の事を思い出していて顔に出てしまったらしい。遅れていた分の距離を詰めて二階堂くんの隣に並ぶ。

「今日は楽しかったなって」

「そうか?俺はすっげー疲れた」

街灯に照らされた二階堂くんの横顔が不機嫌そうに顰められる。その顔に僕はまた笑ってしまった。

「なんだよ?」

「ううん。なんでもない」

君は気づいてないのかな?どんなに怖い顔をしたってその声に優しい響きがあることに。

「にしてもあいつはいったいなんなんだ?」

「あいつって?」

「天野だよ。お前についてきたのは百歩譲っていいとしてあいつは俺に恨みかなんかあるのか?」

「…………」

首を傾げる二階堂くんになんて答えればいいのだろう。ユエルが二階堂くんをあまりよく思ってないのは気づいている。それがおそらく前世が関係していることも。

本当の理由はわからないし前世の話を持ち出す訳にもいかずどうだろうねと言葉を濁す。

「まあ、岡倉も何がしたいか分からんけどな」

「あ、あはははは……」

その疑問になら答えられると思う。だけど教えたくない意地悪な思考が頭をよぎる。


二階堂くんは誤解されやすい。

文武両道、才色兼備、家は名家でお金持ち。冷然とした美貌は他者を寄せつけず常にしかめっ面で口も悪いためそれに拍車をかけ、全ての要素が彼を孤高たらしめていた。


けれど僕だけが知っていた二階堂くんの良さに皆が気付き始めた。本当は、不器用だけど優しくて素っ気ないけど思いやりのある人だって。


岡倉くんもそんな中の一人。

二階堂くんの反応はなんだか僕が始めて話しかけた時に似ていて。二階堂くんの良さに気づいてもらえるのは嬉しいはずなのに今日一日胸の奥がもやもやしてる。

前世より近いこの距離に不安を感じるようになったのはいつからだろう。

野々瀬青葉が願わなかったらこうして隣を歩くことはなかった。その外見だけで遠巻きにされていなかったら話しかけることも出来なかった。

二階堂くんに置いていかれてしまったら僕はきっと追いつけない。


黙りこんでしまった僕をちらりと見て二階堂くんはぽそりと呟いた。

「……まあ、こんな日もたまには悪くないかもな。お前ん家、ここだろ?」

足元に落ちていた目線を上げると一件の家の前にいた。表札には青葉の文字。今世での僕の我が家。

「あ…。送ってくれてありがとう」

「別に。じゃ、俺も帰るわ」

二階堂くんはサドルに跨って自転車を漕ぎ始める。しかし幾ばくも行かないうちにブレーキを踏んで振り返った。

「青葉っ!約束!忘れんなよ!」

「あ、うん!また明日ね!」

再び自転車を漕ぎ始めた二階堂くんはひらひらと後ろ手を振った。

その姿はあっという間に見えなくなって僕は一人になった。

「約束、か……」

たった一言。それだけで心浮き立つ僕が単純なのか。それだけで僕の心を浮き立たせる君が特別なのか。

答えを出せないまま扉をくぐった僕に『そんなににやにやして何があったの!?」と怖い顔で妹が問い詰めてきたのはまた別の話。

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