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フツメンに生まれたかった…  作者: 橘アカシ
二階堂邸in青葉のお料理教室編
20/63

君の背中…

久々の青葉視点です。

「……お邪魔しました。また、明日ね」

「おう、今日はありがとな。…ちょっと待ってろ。送ってく」

そう言うと二階堂くんは奥へ行ったかと思うと指に鍵を引っ掛けて戻ってきた。

「えっ?そんな悪いよ」

僕は断るも反論は許さないとばかりに睨まれた。

「送ってかないと俺が怒られるんだよ。他の連中は迎えが来たしお前だけ放置するわけにはいかないだろ」

井上さん達は各々迎えを呼び順に帰っていった。最後に迎えの来た大野さんを見送って帰ろうとした僕に二階堂くんは言った。

「でも……」

二階堂くんは靴を履くと僕の脇をすり抜けてさっさと玄関を出てしまう。

「いいから。家まで歩くつもりなんだろ」

「うん。大した距離じゃないし…」

「お前みたいなひょろっちい奴、暴漢だの新手の変態にとって恰好の餌食なんだよ。お前になんかあったら母さんどころかクラスの女子に袋叩きにされる…」

そうなった場合を想像したらしく二階堂くんはぶるぶると肩を震わせた。玄関の前に立ったままの僕の首根っこを掴んでひょいとどかすと鍵をかけて壁際に置いてあった自転車を引っ張ってきて歩き出してしまう。

……僕、一応男なんだけどな。反論の言葉は声にはならずいつの間にか遠ざかっていた後ろ姿を僕は慌てて追いかけた。





二階堂くんと友達になって早一ヶ月。

僕の勘違いでなければそれなりの関係を築けていると思う今日この頃。二階堂くんの家に招待された。

僕の料理をたいそう気に入ってくれたらしく晩御飯を作って一緒に食べようとのこと。ユエルが絡んで来たり井上さん達も参加表明したり、いつもは遠目でちらちらと二階堂くんの様子を伺っていた岡倉くんが名乗りをあげたり一年前では考えられないメンバーが揃った。


僕も美形というものにだいぶ慣れてしまったらしい。

駅での待ち合わせ。僕は一番乗りで集合場所に着いたけど井上さん、岡倉くんとみんなが到着するにつれて人の目も集まり出した。

二階堂くんが来た頃には人だかりが出来ていてユエル以外は居心地悪そうにしていた。

モーゼのように人波を割って堂々と姿を現した二階堂くんを加えて人々の興奮は最高潮を迎える。

しかしそこにあるのは好気や憧れといったプラスの感情だけでなく。白鳥の群れに迷い込んだアヒルに嫉妬と侮蔑の目が向けられる。

それは学校でも同じだった。

至って平凡な僕が全校生徒憧れの的である特進クラスにいるというだけで大半の生徒はいい顔をしなかった。混乱を避けるためAクラス以下の生徒は別校舎への立ち入りを制限されている。それでも入学したての頃は興味が勝り多くの生徒が訪れていたが先生や生徒会、既存のファンクラブが統制を図りよっぽどのことがない限り別校舎は平穏が保たれていた。

特進クラスのみクラス替えもなくまさしく至高の花園。麗しい花々の中で飛び回る害虫を良しとするものはいなかった。

井上さんや藤木さんなど学校では常に誰かが一緒にいたため直接手を出された事はないが下駄箱には忠告文だったり悪口だったりをしたためた手紙を入れられる事はままあった。

二階堂くんと友達になりユエルが転校してきてからはその度合いが増した。

それはここでも同じ。しかし彼らの目に映る事実を否定するつもりはなかった。

僕だって客観的に見たら美しい彼らの中に平凡な自分がいることが不思議で仕方が無い。

けれど、僕は知っているから。どんなに優れた容姿を持っていても物言わぬ人形でも手の届かない天上の花でもない心のある普通の人間なんだって。

彼らの隣で笑うのに誰かの許可は必要ない。

彼ら自身に友達だと認められているから。僕は胸を張って隣にいられる。

「あのっ……!一緒に写真撮って貰えませんか!?」

ずっと機会を窺っていた女の子達が進もうとした二階堂くんの前に立ち塞がって写真を催促してきた。二階堂くんは困ったように眉根を寄せる。後ろにいた井上さん達も露骨にではないけれど不快そうな表情をしていた。きゃあきゃあと騒ぐ彼女達の後ろで自分たちもと携帯を取り出す人が何人もいた。

その様子にいつかの井上さんの言葉を思い出す。


『ほんとああいう子達って迷惑だよね。人を見る度に大声出して。私たちは珍獣でも宇宙人でもないっての!』


優しい二階堂くんは断りあぐねているようだけど彼女達を受け入れてしまったら次も次もと際限なく希望者が募るだろう。何より他人との写真に芸能人でもなんでもない彼らがいい思いをするはずがなくて……。



僕の言葉に女の子達は激昂する。声をかけてきた時点で二階堂くんが断ったとしても食い下がってくることは予想出来た。それなら僕がと前に出たのも間違いだったらしい。

直接的な罵声に引くわけにもいかず甘んじて受け入れた。

けれどそれも長くは続かない。

「おい。何も知らないくせに良くそこまでずたぼろに言えるな?……通行の邪魔だ。どけ」

低く怒りの込められた声と共に見慣れた後ろ姿が僕の視界を埋める。

絶対的王者の風格に女の子達は恐怖に瞳を凍らせ僕らを囲っていた人々も二階堂くんの前に道を作る。


ああ、どうして君はいつも……。


二階堂くんの言葉に何度救われたことか。彼にとっては何気ない一言だったのかもしれない。彼にとって当然の言葉だったのかもしれない。けれど、知らぬ間に傷ついていた僕の心は癒され温かいもので満たされていく。

おもむろに振り返った二階堂くんはやっぱり仏頂面で顔を正面に戻すとすたすたと歩いていってしまう。

そんな彼に置いていかれないように僕たちも後を追った。

青葉視点で次回に持ち越しとなります。

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