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フツメンに生まれたかった…  作者: 橘アカシ
二階堂邸in青葉のお料理教室編
19/63

黒猫は今日も行く!

夜の帳が降りた街を黒猫が我が物顔で闊歩する。

闇に紛れた体に妖しく光る二つの瞳は獲物を探すように周囲を見渡し、おもむろに一軒の塀の上で歩みを止めた。

レースのカーテンの向こうから漏れる暖かな光。中では数人の少年少女が楽しげに笑いあっている。

そこに覚えのある匂いがいくつかあることに気づいた。

“みーつけた”

しっぽをゆらゆらと揺らして黒猫は愉しそうに目を細めた。





「…………っ!!?」

ガシャンっ。ナイフとフォークが皿に落ち、ユエルは背筋を走った悪寒に思わず立ち上がった。そんなユエルを不思議そうに六対の瞳が見上げる。

「どうかしたの?」

正面に座っていた青葉が心配そうに尋ねる。けれどユエルには最愛の人の疑問にも答えている猶予はなかった。

「僕、用事を思い出しました!先に帰りますね。青葉さん。この馬鹿とは二人きりにならないでくださいね!それじゃあ!」

それだけは忘れずに言い置いてユエルは二階堂邸を後にした。

「何がしたかったんだ?あいつ……」

呆れた視線を玄関の方に送る静に青葉は乾いた笑いを漏らした。

「うーん。どうだろうね…」

「用事なら仕方ありませんわ。引っ越してきたばかりでしょうからやることが残ってるのかもしれませんし」

「そっか。天野さんって転校してきて一週間も経ってないんだ」

「すっごい馴染んでるよね」

「青葉がいたからだろ」

「そういえばどういったご関係なんですか?」

「そうそう!結局聞けなかったんだよね」

「えーっと……」

青葉と少女組が盛り上がっていく。取り残された静は食事に専念しようとしたが隣に座っていた雅人が何やら覚悟を決めた様子で話しかける。

「あの!二階堂くん!……ご、ご趣味はなんですか?」

「……見合いか!」

ユエルが抜けた後もしばらく賑やかな時間が続いた。





「おかしいな。気配がしたと思ったんだけど」

ユエルは美少女に似つかわしくない険しい目で一点を睨む。気配は一瞬。しかし確かに感じた存在に慌てて家を飛び出したが姿は疎か残滓すら残っていなかった。

ここがクロネコの厄介なところだ。気配を悟らせず足跡すら残さない。クロネコがいたと分かるのは魂が狩られた後だけ。急いで駆けつけてもクロネコはおらず、たまに天使をおちょくるように姿を見せても鼻の先でひらりと逃げてしまう。ユエルに言わせれば天使側が無能過ぎるのだが今回は悠長なことをしていられなかった。

青葉と毎日を過ごせるなら他はどうでもいいやと思っていたユエルだが討伐対象であるクロネコが近くにいるとしたら別だ。クロネコがどのように獲物を見繕っているのか知らないがここには青葉がいる。もしまた青葉がクロネコの餌食になったら?魂にだって寿命はある。いくつもの人生で磨耗し完全な死を迎える時がやってくるのだ。

青葉は一度クロネコの被害にあっている。本来の寿命を故意に削られれば魂に負荷がかかりその分魂の寿命も縮む。今はまだ魂自体が若く目が眩むほど美しい輝きを放っており何度もの転生に耐えられるだろう。けれどもしまた悪魔に魂を狩られたとしたら。想像するだけで心臓を鷲掴みにされたような恐怖を感じユエルはきつく唇を噛み締めた。

嫌な予感しかしないクロネコの出現にしかし後手にはまわっていられないと決意を新たにする。

「青葉さんは僕が守ります。クロネコ。精々覚悟しておくんですね」

ユエルは街灯が照らした道の向こうの暗闇にひたと視線を据え、どこにいるとも知れないクロネコに宣戦布告した。





***



「あら?天野さん、ご自分の服を忘れていってしまいましたわね」

「そっか。鈴蘭さんの服が似合いすぎてて元の服のこと忘れてたよ」

「あんな強烈なやつ良く忘れられるわね…」

「二階堂くんに持ってきてもらうのも悪いし僕が返そうか?」

「いや……今の内に燃やしとこーぜ」

「…………」

なんで燃やすの?とつっこめる者はだれもいなかった。

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