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フツメンに生まれたかった…  作者: 橘アカシ
二階堂邸in青葉のお料理教室編
16/63

意外過ぎる…

第三者視点のあの人です。


駅から最寄りの閑静な住宅街。

その一画に彼の家はあった。同じような一軒家が建ち並ぶ中ヨーロッパの民家を思わせるレンガ仕立てのその家は普段の静から連想するにはだいぶ可愛らしかった。

待ち合わせ場所で静を見た時も衝撃を受けた。完璧な彼ならどんな格好でも似合うに違いないと思っていたのにその斜め上をいくラフな服装で静は現れた。

だぼだぼのズボンに黒いパーカーという何とも……庶民的な姿だったのだ。

二階堂と言えば日本有数の大財閥だ。貿易を中心に事業を展開し総帥ともなれば政界にも顔が利くとか。総資産は兆を超えるとも言われている。

静はそんな二階堂家の系譜に属している。静の父、征治は次男と言えど総帥の息子。跡取りではないものの時期総帥の補佐としていくつもの事業を任されている。

静の母、鈴蘭は格式高い旧家の出だ。しかし彼女は型にはまらず自ら“Lily of the valley”という洋服ブランドをたちあげ少女たちから絶大な人気を誇っている。最近では着物のデザインも手掛け徐々に幅を広げているらしい。

つまり何が言いたいかと言えば……二階堂家は超がつくお金持ちだということ。

豪邸に住んでてもおかしくないはずなのに目の前に建っているのは隣家と比べてもやや大きいという程度の一軒家。

静に至っては服装に全く頓着していないことが丸分かりな適当な格好。

高校に進学してから見つめてきた憧れの人の想像とはまるで違う姿に……雅人は開いた口がふさがらなかった。


雅人は物心ついた時から可愛い可愛いと愛でられてきた。言葉通り女の子のような容姿と仕草はそれこそそんじょそこらの女の子と比べるまでもなく可憐で大人たちは雅人に鼻の下をデレデレに伸ばして甘やかしまくった。

生来引っ込み思案の雅人は高飛車に育つ事も嫌みたらしく育つ事もなかったが……自身の容姿にだけは自信を持つようになった。

ちやほやされていれば万事うまくいく。可愛いから綺麗に成長しようともその自信が揺らぐ事もなく高校まで進学し、そこで脆くも崩れ去る。

あっちを見ても美形。こっちを見ても美形。隣を見て……気が遠くなるかと思った。

アイドルグループが裸足で逃げ出しそうな美形集団の中で一線を画する圧倒的な造形美。王者の貫禄を持って他を制圧する絶対的な存在感。一学生とは思えないその人を前にしては自分たちなど足元にも及ばない。

静と出会ったその日から雅人は手鏡を常に持ち歩くようになった。

鏡には自身の顔しか映らない。その中で一番美しいのはもちろん雅人で。けれど何度自分が美しいことを再確認しようと静を見るとその自信も一気に霧散してしまう。

底知れない恐怖はやがて畏怖に変わり僅かな憧れが混じり始めた頃、クラスの中に変化が起こった。

美形の集う中唯一平凡な彼、青葉浩一が静と交流を持つようになったのだ。孤高の存在であった静が青葉と過ごす姿を見るとなんだか親近感が湧いてきて静の家の段になり雅人は自分でも驚く程の積極性で立候補していた。

承諾をもらえた次の日は興奮しすぎて一睡も出来ず前日も眠れなかった。

けれど眠気なんて一切感じなかった。憧れ以上の感情を持っていた静と休日を過ごすのだ。もしかしたら友達…知人認定はしてくれるかもしれない。格好良さの秘密を知ることができるかもしれない。意外な一面を見れるかもしれない。

ほんの少しの打算と特大の好奇心を持って迎えた日曜日。

……意外過ぎて喜べばいいのか残念に思えばいいのか判断に迷っている。


今も扉を開けた瞬間に部屋に飛び込んでマットレスの下に手を突っ込んだユエルを慌てて止めようとしている。他の女子三人は呆れたと言うようにため息をつき青葉は苦笑しながら二人を引き離しにかかる。

その様子があまりにも普通の男子のようで雅人はずっと強張っていた肩の力を抜いた。

完璧だと思っていた静を勝手に違う次元に置いていた雅人はその考えが馬鹿らしいものだったことに気づく。

手の届かない理想の彼はいなくなり等身大の静がいつか自分の隣で笑ってくれたなら。

そんな未来を想像して雅人は思わず笑みをこぼした。

それに気づいてかはたまた偶然かやっとユエルをベッドから遠ざけて静は声高らかに宣言した。

「もう十分だろう!キッチンに行くぞ!」

外見と言動とは裏腹に親しみやすい静の後ろに取り巻きが一人増えるのはそう遠くない。

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