第六話
「ユーマ」
孤児の遺体は共同墓地に埋められる。街の端にある墓地では、貧相な聖職者や冒険者たちがユーマの遺体を埋めていた。僕は土を一掬いして投げ入れる。
「絶対に妹は助けるから」
拳を突きつける。だが拳はもう帰ってこない。
「ここで待っていてくれ」
僕は踵を返した。大事な収穫物を握りしめて。
「ごめんください」
次に訪れたのは薬師ギルドだった。
「はい、どうされましたか?」
茶髪の受付嬢が返事をする。僕は単刀直入に訊ねた。
「星のかけらって売っていますか?」
どこかで笑い声が聞こえた気がした。
「はあ。星の欠片ですか」
「お兄さん。もしかして初心者ー?」
近づいてきたのは水色の髪をした少女だった。
「ああ。・・・そうだけど」
「星の欠片なんて売ってるわけないじゃん」
「そうなのかい?」
彼女はこくりと頷く。
「最前線しか持ってないレアアイテムだよ。何に使うのか知らないけど、今じゃ錬金術の覚醒アイテムって言われてる、ここに置いてあるわけないじゃん」
「・・・覚醒アイテム」
「そう」
後で調べたことだが武器や装備品をランクアップさせるのに必須なアイテムなことを覚醒アイテムというらしい。そして星二から星三への覚醒に必要なのが星の欠片だった。
「いくらで手に入る?」
「売ってくれるわけないじゃん。レアアイテムって言ってるでしょ?」
「でも、それがないと」
ユーマの妹が助からない。
「あー。クエスト中?」
「うん。どうしても必要なんだ」
「なら奪うか、盗むかが一番だね」
「はあ?」
僕は自分の耳を疑った。
「NPCってなぜかレアアイテムを持っているんだ。だから盗むのが手っ取り早い」
「そんなことをしたら罰を喰らうだろう」
「バレなきゃ罪じゃないって。ここの衛兵弱いし」
そういう問題じゃないだろう。
「お兄さんも盗んでみたら? 意外と楽しいよ?」
倫理観のない少女は立ち去っていく。
「・・・あの」
「ひっ! あの私は持っておりませんので」
NPCたちはおびえたように距離を取った。
「いえ・・・すみません。帰ります」
それがひどく虚しかった。まるで僕も同類だと言われているようで。
宛もなく街を彷徨う。
どこに行けばいいのかちっとも分からなかった。
「はあ」
歩いていると南門が見えてきた。
「狩りにでも行くか?」
だがまたPKに遭遇するかもしれない。
「・・・ユーマ」
いなくなった彼の名前を呼ぶ。
「おや? 君は昨日の子かい?」
門番に立っていたのは昨日世話になった中年男性だった。
「あ、昨日はどうも」
「いいよ。・・・俺らも孤児で泣いてくれるやつは放っておけなかったしな」
どこか哀愁の漂う背中で語る彼。
「さて、今日はどうした?」
「・・・星のかけらを探しているんです」
「あー」
何かを悟った様子で門番は息を吐いた。
「ありませんよね」
「倉庫になら入っているかもしれんが」
「いいです。買うお金もないんで」
「・・・君は盗もうとは考えないのかい?」
僕は力なく首を振った。
「ある日、少年に言われたんです。頑張れって」
「・・・うん」
「死ぬまで足掻かない限り、盗みなんてやっちゃいけないと思うんです」
「そうか」
唐突に頭を撫でられた。その中年の門番は優しい顔をしていた。
「俺の名前はハンズだ」
「サザンカです。よろしくお願いします」
握手を交わす。
「昨日の彼の身元だがわかった」
「本当ですか? 名前だけしかわからなかったのに」
「徹夜で調べた馬鹿がいたんだ」
ハンズの目にはうっすらとだが隈があるように見えた。
「・・・もしかして」
「やめてくれ。褒められるためにやったわけじゃない」
「ありがとうございます」
そう言うことしかできなかった。頭を下げた僕に彼は照れ笑いする。
「そうやって真っすぐに生きている人を見ると弱いんだよ、俺は」
「真っすぐじゃありませんよ、僕は」
所詮は自殺をした人間だ。心の弱い人間だ。
盗みが出来ないのだって、一人で動けないのだって。
全部僕が弱いからだ。
「・・・いや、君は強いよ」
ハンズは静かに首を振った。
「本当に弱い奴は、他人の痛みに涙を流したりしない」
その優し気な眼差しが真剣さを帯びる。
「自分の無力さを知っている奴だけが、誰かを守るために本当の意味で強くなれるんだ」
その言葉は、現実世界で母が言ってくれた『義務』という言葉と同じくらい、不器用で、ひどく温かかった。
「サザンカ。ユーマの妹ーーアリサは、西区の裏路地にある廃教会で寝かされている。近所の老婆が時折様子を見ているようだが、長くは続かないだろう」
「西区の廃教会・・・」
太陽は南に昇っていた。
「行ってみます」
「すまない。これくらいしかできなくて」
「大丈夫です。これからは僕の義務ですから」
ハンズは顔を曇らせた。
「君の義務じゃない」
そして僕を真っすぐ見て告げた。
「でも、その心意気は尊敬する」




