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第四話

「熊の糞だ」とユーマが言った。

「迂回するのか?」

「いや熊の近くには蜂がいるはずだ。蜜と花弁がほしい」

「あと残りの材料は?」

「星のかけらがいる」

「星のかけら?」

 オウム返しする僕にユーマは大きく頷いた。

「隕石の欠片だ。とても貴重で、まず手に入らない」

「・・・とりあえず蜂ってことか」

「兄ちゃん、頼んだぞ」

 僕は木刀をおさめて小刀を取り出した。

「戦う必要はない。ちょっと蜜を頂くだけだ」

「ああ」

「ユーマは隠れて花弁を頼む」

「了解!」

 ユーマは花弁探しへと消えていく。僕は深呼吸をしたあと小刀を逆手に持った。

 耳を傾ける。すると羽音がかすかに聞こえてくる場所があった。

「ふぅ・・・」

 ゆっくりと近づく。あくまでゆっくりと。

 焦らなくてもいい、死ぬ必要はない。

「・・・いた」

 大木の中ほどのあたりで巨大な巣をつくっている蜂がいた。

 人すらも襲う肉食の蜂だ。

「ユーマだ」

 彼は赤い花びらの花弁を拾い集めていた、残りはこちらのミッションだ。

 小刀を握り締めて深く息を吸って吐いた。

「いくぞ」

 喝を入れた。蜂の巣との距離を縮めていく。

 一歩一歩が重い。死がこんなに怖いものだと再認識する。

「よしっ」

 あと数メートルの距離まで来た僕は先ほど飲み干したポーションの空瓶を取り出した。

 足を引きずるようにして近づいていく。

「・・・」

 この距離が恐ろしく長い。蜂の巣の手前で一歩立ち止まった。

「頼む。攻撃してこないでくれよ」

 相手は虫だ。僕だって現実で蜂と遭遇したことくらいはある。

 逃げることしかできなかった。それが目の前に百匹以上いる。

 恐怖は段違いだった。

「ふぅ・・・」

 静かに空瓶を蜂の巣に近づけた。羽音がうるさい。

 蜂が身体にくっつく感触もある。だが攻撃はしてこない。

 スローモーションのように腕を動かして巣に切り込みを入れた。

「・・・出た」

 垂れてくる蜜が空瓶の中に入っていく。

 そして、満杯になったところで静かに足を動かした。

 慌てない、騒がない、逃げない。

 後ろ向きに歩くだけ。ただそれだけの行為だ。

 だが僕の汗は止まらなかった。呼吸も浅い。

 地獄のような数分間が幕を開けた。


「はあああ」

 大きく安堵の息を吐いた。

 ユーマが周辺をチェックして「お疲れ様」と言ってくる。

 それが何よりの報酬だった。

「ほら」

 彼に蜜がたっぷりと入った空瓶を手渡す。

「あとは星のかけらだけだ」

「そっちは僕のほうでも探してみる」

 ユーマは目を輝かせて材料を一瞥した。

「本当に揃った。・・・信じられない」

「これはユーマの努力の成果だ」

「いや。俺だけじゃ何もできなかった」

 彼は真剣な表情で頭を下げた。

「ありがとう。本当にありがとう」

「おいおい。頭をあげてくれ、僕は大したことはしていない」

 しいて言うなら蜂蜜を採取しただけだ。

 それで感謝を言われるほど僕は立派な人間ではなかった。

「それでもありがとう。これで妹を直せる」

「そうか・・・良かったな」

 お兄ちゃんとして真っすぐ生きている彼に眩しさすら感じる。

「なあ報酬だけど、これで足りるか?」

「銅貨5枚か。何ゴールドだ?」

「そんなことも知らないのか? 500ゴールドだ」

 どこか申し訳なさそうに差し出してくるユーマ。だが僕はその手を拒んだ。

「いいよ。500ゴールドなら」

「でも! それでも兄ちゃんは僕の恩人だ」

「なら妹と一緒に美味しいご飯でも食べに行け」

 地面から立ち上がった。相変わらず森の中は暗かった。

「・・・兄ちゃん」

「さあ帰るぞ。あとは星のかけらだけだ」

「うん!」

 そういって立ち上がった瞬間だった。

 ーー1本の矢が飛来したのは。


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