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第二話

 街の噴水の前で目が覚めた僕は呆然と突っ立っていた。

「ここが始まりの街か・・・」

 まだ開始から三日目のゲームだがすでに活気があった。

「いらっしゃい! 新鮮なポーションだよ!」

「ボブゴブリンの爪! 買う奴いないか!」

 プレイヤーたちが声をあげる。

 五万人の喧騒は至るところから響いていた。

「よし、僕も行くか」

 このゲームには典型的なチュートリアルがない。先ほどしたような設定が最小限あるのみでクエストや冒険は自分の意思で全てが決まる。

「まずは肩慣らしでもするか」

 財布を見た。1000ゴールドが入っていた。

 武器は木刀一本のみで防具はなし。

 準備不足だと分かっていたが外に向けて歩き出した。元から準備をする性格ではなかったし、死んでも失われるものなど皆無に等しい。

「こっちは商店が多いんだな」

 南側に進んでいたが商店が軒を連ねていた。このゲームのNPCにはすべて歴史があり、意識がある。高度なAIを用いることで人格の再現に成功していた。

「ーー引き受けてくれたっていいだろう!」

「そんな安い金で引き受ける馬鹿がいるかよ!」

「あっちに行け! 旅人にでも頼るんだな!」

 商店の軒先で一人の子供が付き飛ばされる。それを見ていた僕は苛立ちを覚えながらもゆっくりと近づいていく。

「僕、大丈夫かい?」

「あ、ありがとう。兄ちゃん」

 感謝を述べる彼はうつむいたまま溜息をついた。

「・・・何かあったのかい?」

 別に興味などなかったがこうもネガティブな反応を取られると不安になってしまう。

「妹を直すためにポーションがいるんだ」

「あー」

 よくあるクエストだと思った。インベントリに入っていた初心者向けのポーションを取り出す。これは市場に出回っているものよりも性能がいいはずだった。

「これで直るかい?」

「ん・・・色が違う。赤いポーションが必要だって薬師に言われたんだ」

「幾らぐらいするのかな?」

「相場は50万ゴールドだって」

 僕の興味が一気に覚めていく。人間は金には弱い生き物だ。

「ごめん。僕、他を当たってくれないか?」

「そ、それなら強い冒険者を紹介してくれよ! 素材さえあれば格安で作ってくれるって約束してるんだ! あんた旅人だろう! 助けてくれよ!」

 そういわれてもこっちはログイン一時間未満の無職だ。

「助けたいのは山々だが、僕は初心者でね」

「ん?」

 そこで少年の視線が僕を捉えた。安物の袴、未使用の木刀。

 少年の見る目が希望から絶望へと変わっていく。

「なんだよ・・・あんたじゃ無理か」

「そうなんだよ。じゃあね、僕」

 踵を返そうとして足が止まった。

「はあ」

 ため息をついて振り返る。そこには今にも泣き出しそうな子供がいた。

「一緒に来るかい?」

「でも・・・」

「二人で考えれば乗り越えられることもあるさ」

「・・・わかった。じゃあ一緒に行く」

 こうして一人の子供を連れ添って南門へと歩き出した。

「俺はこの近くの村から来たんだ」

 街から森までの平原には村が点々としている。

「俺の名前はユーマ。妹のアリサを救うためにポーションを探している」

「ご両親はいないのかい?」

「・・・死んだよ。流行病で」

 僕は言葉に詰まった。

「変なことを聞いてごめん」

「いいよ。もう慣れている」

 ユーマは空に向かって誓うように告げる。

「だからさ。最後の家族であるアリサを救わなきゃいけないんだ」

「そうだね。絶対に救おう」

 つい数週間前まで自殺志願者だった僕の言葉は軽薄だった。

「森へ向かおう。道案内は頼める?」

「任せてくれ。森くらいなら小さいころから何度も行っている」

 二人は南門を出たあと街道に沿って歩いていく。

 ここは田畑が広がる田園地帯。魔物に遭遇することはなかった。

「なあ兄ちゃんは弱いんだろう?」

「え? ああ、初心者だし、武器も持ってないからね」

 木刀を一撫でする。これは打撲武器だ。

「なんで助けようと思ったんだ?」

「そりゃ、ほっとけなかったから」

「兄ちゃんは優しいんだな」

 予想外の言葉に頬をかいた。

「自惚れているだけだよ、偽善さ」

「俺、偽善って言葉は嫌いだ」

 ユーマは足元の石ころをけりながら言った。

「やる偽善とか、やらない偽善とか、正義とか、悪とか。そんなものどうだっていい」

「ユーマ」

「助けてくれた兄ちゃんが、俺にとっての正義だ」

 このちっぽけな掌に救えるものがあるのだろうか。

「もし裏切ったとしたら?」

「そのときはまた考えればいい。でも人を信頼する機会は最初の一回きりだ」

 深い言葉に彼の人生観を想像してしまった。

 両親を亡くしてポーションを探す少年。妹はまだ辛うじて元気なのか、近くの人が支えてくれているのだろう。そうでなければ彼は旅になど出ないはずだ。

「ありがとう。・・・信頼してくれて」

「兄ちゃんこそありがとう。手を差し伸べてくれて」

 ユーマはそう言って拳を突き出してくる。僕は遠慮気味に拳を合わせた。


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