表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したバンドマンは、国と政治と神様を利用する 〜美形ボーカリストに振り回されながら、ついでに世界を救う〜  作者: ぶぅちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/10

ウェスペル家のディナー

 港町の青年は、輸出経路に鯨の魔獣を使役することに成功した。莫大な資産を築いた青年はソリオス大商人になり、東の国の姫君を娶り、幸せに暮らしました。


 児童書に書かれていた内容はそんな感じだ。これが歌劇になると、身分違いの恋に苦しむ若者が、初恋の娘のために、何度も訪れる試練に立ち向かう姿が描かれる。


「あの物語は本当だ。先祖が幼い頃に出会った令嬢を見初め、それに見合う地位を手に入れるために商人になった。爵位が欲しくて結婚したと陰口を言われたが、本当は違う。愛のために金を稼いで、領主の娘に婿入りした」


 稼いだ外貨で港湾整備して、運河の建設。私財を投じて下水道の工事をした。工房に資金援助をして、職人の地位も向上させた。領地の生活を豊かにしたウェスペル家は、大臣を輩出するほとの大貴族になった。


「仕事も大事だが、原動力となる伴侶を大切にするのが我が家の家訓だ」


 そう言って、ソリオス国の大臣は米麹酒の入った徳利を持って豪快に笑った。

 テーブルに並んだのは懐石料理だが、赤ワインも用意されている。


「貴方、我が家の愛妻自慢はその辺で…カディラス様に呆れられてしまいますよ」


 ワイングラスを掲げて微笑むのは、ルベルロサの母親ウェスペル夫人だ。細かく編んだ金髪を結い上げ、ドレスの上から着物を羽織っている。ルベルロサに瓜二つだが、こちらは儚げ気な美人だ。


「カディラス様は、いつから音楽を?」


 次期当主でウェスペル家の長男、ルベルロサの兄が水を向けてきた。美形だが、父親の系統が強く男らしい。


「物心ついた頃には弾いてました。国王の前で、曽祖父が演奏したのが我が家の自慢です」


 領地視察遠征の途中、ゲールに立ち寄った国王の一行を労う宴の余興で、演奏した羊飼いが、爵位を得た。資産の規模は違うが、ウェスペル家に負けず劣らずの成り上がり家系だ。


「ゲール地方の上質な織物はこちらでも評判ですね。我が家でお取り引きが…」

「私は家を出た身ですのね、恥ずかしながら家業には関わっておらず、お答えできることが少ないかと…」

「おや、それでは…」

「兄上、その辺の話は後ほど…」


 ルベルロサが割って入った。ここまでは段取り通り。


 ウェスペル家の三男の企みを聞いたのは、遅めの朝食をとっていた時だ。


「今夜のディナーはウチナヴィアの展示会の成功を労い、親父の側近の家族も招待している。そこに俺の家族と、お前の顔合わせをねじ込んだ。服はこちらで用意した。後で届けさせる」

「ちょっと待って、お前の親父さん、ソリオス国の大臣だよね?バンドと関係ある?」

「大事なスポンサーだ」


 西諸国でも貴重な珈琲をノアルに淹れて貰い、ルベルロサが言った。


「知ってるか?音楽だけで食ってくのは大変なんだ」

「いや、お前、それ、前世から知ってますけど!」


 アルブレオは前世でも、加入と脱退を繰り返した。己の気まぐれではなく、音楽に真摯に向き合った結果だ。

 一方、ルベルロサが組んだバンドは、いわゆる文化祭バンドだった。

 学生の遊びが、プロデビューの話が出るほど人気が出た。

 有名私立、お坊ちゃま学校の同級生で、バイト経験もない金持ちの子息に、バンドだけで食っていけるのはこ幸運だと説いてきたが、転生してから悟ったらしい。


「とにかく、俺達とお前のセッションは話題になっているし、俺がお前をこの国に招待しているのもバレている。お前は注目の的だ。存分に注目されて、そつなく答えてくれれば良い。家を出ているのも隠さないで良い。それとなくフォローする」


 俺の家族はお前に友好的なはずだと、根拠もなく言われ不安だったが杞憂のようだ。ここまでは上手く答えられ、アルブレオはそっと息を吐いた。 


「あの…カディラス様はルベルロサ様と…どちらでお知り合いになられましたの?」


 大臣付きの文官の妻の問いに、周囲の夫人と令嬢達の目つき変わる。

 このタイミングで良い質問だと、ルベルロサが快心の笑みを浮かべた。

 洗練された美青年の悪戯っ子のような笑顔。このギャップに、女性陣だけじゃなく髭面のおっさんまでメロメロだ。

 魅了の魔法でも使えるのではないかと、ちょっとだけ怖くなったアルブレオだが、澱みなく夫人の質問に答える。


「平民が集う教区教会の礼拝に参加した時、ルベルロサ様が遊学中で、賛美の奉仕活動で壇上に上がっていたのをお見かけして…」


 大嘘だ。アルブレオが中央に行った頃、ルベルロサは帰国していた。


「素晴らしい歌声を聴かせてもらいました。私の身分では話しかけることが叶わなかったのですが、ウチナヴィアで偶然…」

「違う」


 ワイングラスを回しながら、ルベルロサが呟いた。


「…は?」

「もっと前だ」


 打ち合わせと違う。

 混乱するアルブレオに、ルベルロサは揺れるワインを見つめながら言った。


「イルテア北部の城内礼拝堂の奉楽団が、素晴らしいと噂に聴いていたので、お忍びで出かけたのです。そこでカディラス様のリュートを聴きました」


 思わぬ言葉に、誰もが驚いた。


「…改めて出向いたら、教会を出たあとで…すぐに声をかけるべきだったと後悔しました」

「初耳ですが…」

「初めて言ったからな」


 ウチナヴィアでの再会は奇跡だと、ルベルロサは微笑んだ。

 悪戯っ子の笑みではない。恋と誘惑の双子神に愛されたと言う、男の名は伊達ではない。艶のある微笑みに、ご婦人達は声にならない悲鳴をあげる。


「…つまり…二人は思い合う相手と再会したと…」


 長男の言葉に、ウェスペル夫人が無粋ですよと嗜めた。

 ウチナヴィで再会したってことにして、何を言われても、反論も否定もしないで、貴族らしく微笑んでくれれば、あとの流れはこっちで進める。そうルベルロサに言い含められていた。話が妙な方向に進んでいるが、アルブレオは言われた通り曖昧に微笑む。


「父上、こんな席で何ですが、ひとつ相談があるのです」


 ナプキンで口を拭い、ルベルロサが続けた。


「近い内に、カディラス家に挨拶に伺いたいと思っています」

「…まだ…早いんじゃないか?遊学から戻ったばかりだし…」

「父上も兄上も、仕事で忙しいでしょう。私は早く将来を決めたいと思います」

「ルベロ…それは…」


 夫人が口元に手を当てた。ちょっと違う方面に捉えかねない会話だが、アルブレオは黙って微笑んだ。


「西諸国は教会の数も多い。この前の遊学で、私の音楽も受け入れられることがわかりました。巡礼の旅とすれば関所も通りやすい。イルテアの民からの信頼が得られます。幸いなことに、カルディラス様の大叔父は大司教です。きっと力になってくれるでしょう」


 眉間に皺を寄せるソリオス国の大臣に、ルベルロサはたたみかける。

「大袈裟な旅にしたくないのですが、女神の加護があっても危険な旅です。護衛はゲイブ・シシオガミ様にお任せしたいと思っています」


 その言葉に、周囲がざわめいた。


「聖騎士団長だぞ」

「しかし、ウェスペル家とシシオガミ家は姻戚関係にある」


 ざわめきの中、側近達が駆け寄り大臣と密談が始まった。

 ご婦人方は、何かを期待した目でこちらを見ている。

 ルベルロサは平然としている。

 話が見えそうで見えない。


(盛大に誤解されている…?)


 アルブレオは笑顔を貼り付けたまま、説明しろと、目力を込めてルベルロサを見つめた。

 ルベルロサは綺麗な笑顔で、後にしろと、目力で込めてアルブレオを見返した。

 互いに、見つめ合う形になった。


 今度こそ、ご婦人方が悲鳴をあげた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ