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バンドを組んで、ついでに世界を救おうぜ  作者: まるや


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3/4

夜会


 夜会が開催されるのは一週間後だ。現在はソリオス産の展示会が開催され、ウチナヴィア全体が商談会場になる。

 アルブレオは音楽家として招待されたので、何処がで演奏の機会があるだろうと、男爵夫人からソプラノ歌手を紹介された。裕福な商家の娘で、仕事で来ている両親と共に夜会に招待されている。

 若く張りのある良い声だ。アルブレオの伴奏も際立つだろう。


 実際、盛り上がった。

 豪華絢爛な夜会だった。アルブレも心から楽しんだ。イルテアをはじめ、近隣諸国の王族も招待されていたが、格式ばったこともなく心から楽しめる夜会だった。

 パーティー会場のステージで、花を添えたアルブレオや男爵夫人に、挨拶が途切れなかった。

 一息ついていると、伴奏で仲良くなったソプラノ歌手に誘われ、中庭の演奏会に向かった。室内とは違いこちらは思い思いに演奏する場で、平民の音楽家が多く参加しているようだ。音楽に合わせ、踊り出す輪の中に二人で入り手を取り合う。

 君は歌わないのか?貴方は演奏しないの?

 楽器は従者に預けた。今は踊りたい。

 そんな会話を交わしながら、互いの顔が近寄る。が、そこで止まった。


 演奏の変わった。


 メロディアスなものから、少し早いリズム。

 ソプラノ歌手の手を握ったまま、ステージに目を向けた。

 演奏者は二人。

 先刻まで台所仕事を任されてきたのか、厨房服の巻き毛の男だった。大きさの違う三つの太鼓を叩いている。中央で叩いているのはゴブティブレ、杯型のボディに皮が貼られた太鼓だ。側面の付いた金属プレートを叩けば高い音が響く。栗色の髪に灰色の瞳。少年みたいな温和な笑顔パワフルな音を響かせている。

 もう一人はウェイターだろう。パーティー会場にいた給仕係の燕尾服を着ている。銀髪に琥珀の瞳。褐色の肌をした小柄な男はリュート弾きだ。東国独自のリュートで、6本の弦を銀杏型のバチで叩くリュラリュートだ。ダイナミックな演奏をしている。


 素晴らしい。思わず拍車を送った。

 二人のセッションに、西のリュート弾きが加わった。

 古く馴染みのある曲だ。

 脇立つ観衆に、ソプラノ歌手は戸惑った顔をした。裕福な音楽学校出のお嬢様は、この曲が盛り上がる意味を知らないのだろう。


「見ていればわかるよ」


 そう、ストリートの音楽家ならみんな分かる。

 古い曲だ。

 妙齢の女性が進み出た。

 加わったリュート弾きの相棒のようだ。

 歌うフレーズは短い。


 小さく白い花 髪飾りにしたい 貴方の手で髪に飾って


 拍手が起こると、女は恥ずかしそうに一礼した。

 太鼓とリュートは同じリズムで、短いフレーズを繰り返している。

 若い男が進み出た。こちもリュート弾きの相棒を連れている。


 芳しい果実 甘いその香り きっと貴女を思い出す


 流行のハイトーンヴォイスで歌い上げ、恭しく一礼した。

 続いての演奏は二人組の演奏家だ。息の強弱で音色を変える角笛のファスモルニカと、蛇腹で空気を送り鍵盤で音を出すファニアベローズのデュオ。

 持ち運びしやすい楽器は、旅の音楽家におおい。祭りなどでは大活躍だろう。軽快で楽しいリズム。

 同じ曲とは曲とは思えない。ファニアベローズを演奏する男が女のパートを歌った。ちょっと戯けた歌声に、みんなが笑った。

 これは音楽家のお遊びだ。様々な楽器で、色んな解釈で一つの曲を演奏する。

 同じ歌詞同じメロディだが、アレンジは自由自在。

 歌うパートに決まりはないが、女パートに男パートと、交互に歌う方の気持ちが良い。その場のノリで男パートだけを永遠に、どれだけ格好付けて歌えるかを競ったり、男女逆にして、自分の理想とする姿を思い浮かべて歌ったりもする。

 歌の元になったのは西に伝わる昔噺。


 青々としげる林檎の木を見て乙女が言った。春の訪れも共に咲く、林檎の花の髪飾りが欲しい。貴方の手で、私の髪に飾って欲しい。男は答える。芳しい林檎が生る頃に、きっと貴女を思い出だす。


 そんな短い話が元に作られた。

 何人か演奏家が加わった。楽器も弾けないのに、引き摺り出された男は、仕方ないので持っていた酒瓶とグラスを叩いて誤魔化していたが、それはそれで大ウケした。

 ひとしきり笑った後、ソプラノ歌手がステージの前に行った。

 上品に、細やかに歌う恋の歌。

 淡い恋愛の歌に思えるが、全然違う。


 これは失恋の歌だ。

 春の訪れを知らせる花が欲しいと言う乙女に、実がなる頃に思い出すと男は答えた。林檎は、花弁が落ちてから実る。

 貴族的な遠い言い回しで、花を贈るのを拒まれている。教養のあるソプラノ歌手は、歌詞の意味を正しく解釈して、初恋の喜びと痛みをしっとりと歌った。

 盛大な拍手だ。この宴の締めくくりに相応しい。誰もがそう思った矢先、観客がざわめいた。


 ざわめきの中心で人が割れた。一人の若い男が、即席ステージの中央に歩み出る。

 仕立ての良い服だ。ジャケットは着ていないドレスシャツ姿。燃えるような赤い髪が振り向くと、金色の瞳が光る。


 瞳孔の縦に割れた獣の瞳は、始祖の血が強い証だ。明らかな魔力持ち。

 ソリオスの大貴族。ウェスペル家の三男。

 ルベルロサ・ウェスペル。

 噂には聞いていた。絵姿を何度か目にした。本気にはしていなかった。あんな物は修正され、誇張されて伝わる物だ。


 長い足、引き締まった腰。真っ直ぐに伸びた首に、恐ろしく整ったか顔に、観客は釘つげにされた。

 演奏は続いている。

 最初の二人のセッションのみ、息を呑む観客を尻目にルベルロサは歌い出した。

 一音から驚いた。麗しい見た目と反して、予想よりも低い声。

 西諸国、近年の流行は男女共に高音だった。察しの良い音楽家なら気づいたろう。今、この瞬間、流行りが変わった。

 カヴァリエバリトン。

 音色に深みと男らしさがある。そして。自然な流れのファルセット。何処までも多彩だ。


 芳しい果実 甘いその香り きっと貴女を思い出す


 同じ歌詞、同じメロディ。だが、明らかに違う。

 甘酸っぱい初恋が、大人の短い恋の戯れに聴こえる。

 若い女の恋心を弄ぶ、軽薄で魅力的な男の歌だ。


(なんだ…この声…)


 本当に、噂はあてにならない。 

 誘惑の恋、双子の姉妹神に愛された、とんでもない美形な男。

 魔力の濃さを見せつけるように、ルベルロサを中心に、金の粉を撒き散らすような光の粒が薄いている。


(こいつは…噂以上だ…!)


 中庭が大きく湧いた。

 セッションは続く。

 波のように繰り返すメロディ。 

 一人のリュート弾きが、我慢ならないように飛び出してきた。

 彼の歌に感化されたのか、大貴族の目に止まりたいのだろう。必死な顔で弦を鳴らす。悪くはないが焦り過ぎた。次のリュート弾き進み出た。見栄えは良いが下手すぎる。もう一人、また一人と、ワンフレーズづつ演奏する。世の中こんなにリュート弾きが溢れていたのかと感心していると、ルベルロサがこちらを向いて手を差し出した。金色の目が向けられると、鼓動が高鳴る。

 ソプラノ歌手が歌い出した。


 小さく白い花 髪飾りにしたい 貴方の手で髪に飾って


 歌が変わった。同じ歌詞、同じメロディ。だがこれは初恋の歌じゃない。

 弄ばれるのを知った上で、男に縋る女の歌だ。

 観客から拍手が起こるが、これはソプラノ歌手だけ送られたものではない。期待している。ルベルロサの返しの歌。

 セッションは続いている。

 金色の瞳が、アルブレオに向けられていた。


(弾けるだろう?)


 瞳がそう語っている。

 脳の奥で、火花が散るような感覚があった。

 いつの間にか、童顔の従僕が立っていた。預けていたリュートを手渡し、にっこりと微笑んだ。

 ここで遠慮する音楽家はいない。

 楽器を受け取り、セッションの輪に入った。

 軽く引いて、音を合わせる。伴奏は得意だ。

 ワンフレーズ弾いた。


(違う)


 納得いかずにもう一度。


(違う)


 アルブレオが弾くのは、4本弦のヴェルリュート。


(この音を聞け!)


 太い弦は低く響いて、独特のリズムを刻む。


(俺の音を聞け!)


 セッションの二人を挑発した。


(できるよな?)


 低く、響け。

(お前らなら!)


 繰り返すメロディに歌が乗った。

 アルブレオの体の中の何かが弾けた。雷に打たれたような衝撃に、鳥肌が立ち、血が沸騰して、脳が痺れる。


 芳しい果実 甘いその香り きっと貴女を思い出す


 匂い立つような色気が加わる。

 短い恋を楽しんだ君になら、髪飾りくらい送ってやる。傲慢で残酷なのに、どうしょもないほど魅力的な男の歌だ。

 跪いて、愛を乞いたくなる歌だ。

 中庭に押し寄せる観客。熱狂的に拍手の中で、アルブレオは混乱した。

 押し寄せる、怒涛のような前世の記憶。

 酒とタバコと女が好きなバンドマン。

 今とそう変わらない。

 笑いが込み上げる。


(そうだ…お前らか…)


 セッションの二人の演奏に覚えがある。

 ドラムとギターだ。

 思い出した。

 同じバンドを組んでいた。

 割れんばかりの拍手に、ルベルロサ・ウェスパルが胸に手を当て声援に応えた。


(そうか…お前か…)


 悪戯が成功したような笑顔を向けるこの男もそうだ。

 バンドのリーダーであり、ヴォーカル。

 そして自分は、ベーシストだった。



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