ウチナヴィア諸島
イルテアからソリオスまでは長旅だ。唯一の玄関門、ウチナヴィア諸島まで、蒸気機関車と船を乗り継いで、普通なら2ヶ月かかるが、ソリオス国の招待なので、地下トンネルの使用許可がおりた。魔法帝国との貿易の名残だ。入国禁止区域の地下深くを掘られ、何重にも強力な保護魔法がかけられているため、古代魔法の汚染を免れた。地下トンネルまでイルテアの中央から地下トンネルまで機関車目2週間、地下トンネルで3日かけて、ウチナヴィア諸島に到着した。
通行手形は厳重で荷物は最小限。使用人は二人まで魔法術式にサインが必要になる
透けて見えるほど薄い紙に、名前を書いてから血判し息を吹きかけると、一瞬で紙が燃え、書いた文字が光の線となり浮かび上がり、関署の旅客係の手帳に吸い込まれた。
「ウチナヴィア諸島ではイルテア国内での法律が適用されますが、許可なくソリオスに入国、管理局職員に暴言、暴力などは侵略行為と見做し、厳しい処罰が下されます」
「具体的にどんな刑罰?」
「一番軽いものですと、屈辱的な刺青を顔に彫らせていただきます」
真面目そうな職員に冗談ですと言われたが、本当か嘘か区別がつかない。
「馬鹿なこと言ってないで、荷物持って運んでちょうだい」
男爵夫人に扇子で叩かれた。イルテアから連れてきたの使用人は二人だけで、どちらも男爵夫人専用の若いメイドだ。ある意味、アルブレオも男爵夫人の付き人のような物だので文句はない。
ウェスペル家から派遣された従僕に案内され、少しだけ観光をしてホテルに着いた。
青い空に白い砂浜。南国らしく開放的だが、イルテアの避暑地とあまり変わらない。もう少しソリオスらしさが見たい。
そうは言っても、オーシャンビューの窓の眺めは最高だった。
ホテルは12階建だった。西の中央で格式高く有名なホテルは7階建てだ。用意された部屋は、中央の大聖堂より高い位置にある。
今日から1週間は、さまざまな催しや展示会場がありますと、渡されたパンフレットに目を通していると、目の端に何かが映った。
窓を横切る巨大生物だ。
長い首に鋭い爪、緑色の鱗が日の光を受け艶やかに輝き、大きな翼を広げて悠々と海の上を飛んでいる。
翼竜だ。イルテアでは絶滅した古代種。
背中には軍服を着た男が乗っていた。
あれはソリオスの憲兵だと、従僕が説明してくれた。
「…捕まったら、翼竜の餌になるとか?」
「宙吊りにされて海に捨てられます」
童顔の可愛い顔で言われると冗談っぽく聞こえるが、使用人がゲストに軽口は叩くのは許されないので本当だろう。
見る見る遠ざかって行く翼竜の目で追うと、遠くに何か建物が見えた。
「あれはノヌス島の灯台です。本国はその向こう、ここからでは見えません」
本国入国には、もっと厳しい条件が必要だ。アルブレオの身分では審査にも引っかからない。
しばらく休むと従者に伝えてたアルブレオは、一人になりと楽器ケースを抱え、靴を抜きベッドの上に飛び乗っり、ヴェルリュートを奏でた。初めて見た翼竜の感動を伝えるように夢中で弾いた。旅の間、あれほど焦がれていた風呂に入るのも忘れた。




