第4話 一緒なら、怖くない
裏務課に迷宮の浅層での“行方不明者捜索”の任務が届いた。
本来なら新人冒険者が担当するような軽い依頼。
だが、行方不明者がギルド職員の親族だったため、
裏務課に回ってきた。
レオンは淡々と装備を整え、
迷宮へ向かおうとした。
「レオンさん!」
アリアが駆け寄ってくる。
息を切らしながらも、笑顔は崩れない。
「今日の任務、わたしも行っていいですか?」
「勝手にしろ」
レオンはいつものように答える。
だがアリアは、その言葉の裏に
“拒絶ではない何か”を感じ取っていた。
迷宮の浅層は、
昨日の第七層とは比べ物にならないほど明るく、
魔物も弱い。
アリアは軽快に剣を振り、
小型のスライムを倒す。
「やった……! レオンさん、見ました?」
「見た」
「もっと褒めてくれてもいいんですよ?」
「……死ななかったな」
「それ、褒めてますよね?」
アリアは嬉しそうに笑う。
レオンは無表情のままだが、
その歩幅はアリアに合わせて少しだけ遅くなっていた。
行方不明者は浅層で倒れていた。
アリアが助け起こし、レオンは周囲を警戒する。
男が震える声で言う。
「……助かった……本当に……」
アリアは優しく微笑む。
「大丈夫です。もう安全ですよ」
レオンはその光景を見つめる。
胸の奥が、鈍く痛んだ。
(俺には……もうできない)
誰かを安心させる言葉。
寄り添う手。
かつて自分が持っていたもの。
アリアは自然にそれをやっている。
迷宮を出たあと、アリアが静かに言う。
「レオンさん……やっぱり優しいですよね」
「どこがだ」
「だって、助けた人のこと……ずっと気にしてました」
レオンは否定しようとしたが、
アリアの瞳が真っ直ぐすぎて、言葉が出なかった。
アリアは続ける。
「レオンさん……本当は、誰かを助けたいんじゃないですか?」
レオンの足が止まる。
胸の奥に、ずっと押し込めていた記憶が浮かぶ。
「……俺は、助けられなかった」
アリアが息を呑む。
レオンは、迷うように拳を握りしめた。
「昔……仲間が、犯罪を犯した。
止めようとしたが……聞かなかった。
だから俺は──」
言葉が喉で詰まる。
アリアは待っている。
逃げ道を作らず、ただ受け止めるように。
レオンは、絞り出すように言った。
「……俺の手で、殺した」
沈黙が落ちる。
風の音だけが、二人の間を通り抜けた。
レオンは続ける。
「守れなかった。
止められなかった。
だから……俺はもう、人を助ける資格なんてない」
その声は、痛みを押し殺した鉄のように硬かった。
アリアはゆっくりと首を振った。
「……違います」
レオンが顔を上げる。
アリアは一歩近づき、震える声で言った。
「あなたは……仲間を止めようとしたんですよね。
誰かを傷つけないように……守ろうとしたんですよね」
レオンは答えない。
アリアは続ける。
「そんなの……優しい人じゃなきゃできません」
レオンの胸が強く揺れた。
アリアはさらに踏み込む。
「わたし……レオンさんのそういうところが、好きです」
その言葉は、レオンの心の奥に直接触れた。
レオンは目をそらす。
だが、胸の奥で何かが確かに動いていた。
(……アリア)
その名前を思うだけで、
胸が温かく、痛くなる。
アリアは微笑む。
「また任務にご一緒させてください。
レオンさんと一緒なら……わたし、怖くないです」
レオンは答えられなかった。
だが、心の中では──
(……お前と一緒に)
その想いが、確かに芽生えていた。




