招かざる王太子妃 2
「違う、違うぞ、ライラ。それに、みんなも誤解している。おい、モーガン。ちゃんと説明したのか?」
「将軍、おれにそんな権限はありませんよ。宰相たちを説得しただけで、あとは連中が勝手に。おれが侍女たちにこっそり吹き込もうしたときには、すでに噂がたっていたのです。宰相たちが流した悪い噂が、です」
モーガンは、わたしに申し訳なさそうな表情を見せた。
彼のせいでも非でもない。
レディ大嫌いの王太子が、突然レディを連れて帰るだなんて、王太子の気の迷いというよりかは悪女に誑かされたり利用されたりと、だれだって考えてしまう。
「彼女は違う。なぜかわからないが、彼女と会った瞬間レディのような気がしなかったんだ。まるで昔ながらの男友達に会ったような、いや、違うな。まだ見ぬ男の友人に出会ったというか。とにかく、彼女はレディらしからぬなにかがある。そう。彼女は、レディではないのだ」
しどろもどろに説明をするロバート。
(ちょっ……)
その内容に衝撃を受けたことはいうまでもない。
(ということは、わたしって男っぽいということ? というか、ずばり男ってこと?)
いまのロバートの説明だと、どう頭をひねりまわしてもそうとしか解釈のしようがない。
(疑われるよりもショックだわ)
目の前がチカチカする。
(ロバートにそんなふうに思われていたなんて……)
立ち直れるかしら?
「殿下がなんと仰ろうと、わたしたちは信じることは出来ません」
「ライラ、いいかげんにしてくれ。彼女は……」
「ロバート、いいのよ」
ロバートのわたしにたいする思いはともかく、このままここで言い争ったところで仕方がない。
「わたしだって信じないわ。こういう状況に直面したらね。だけど、わたしもここに来た以上は行く所がないし、しばらく置いてちょうだい。その間に今後の身の振り方を考えるわ」
「ユア、待ってくれ。そんな必要はない。すでにきみはおれの妻。それを出ていかれたら、おれの立場がない。とにかく、今夜はゆっくり休んでくれ。明日、あらためて話をしよう」
出ていくつもりなど毛頭ない。そう言ってみただけである。
出ていくどころか、こうなったからには信頼を勝ち取り、ここで生き残る。
そして、ロバートとの約束を守るのだ。
それが、わたしを拾ってくれた彼への恩返しになるだろうから。
(以前のように、悠々自適のひきこもり生活は出来ないわよね。でもまぁ、面白そうだからよしとしましょう)
ロバートとモーガン以外には歓迎されていないけれど、部屋はちゃんと準備してくれていた。
ダブルの寝台と机と椅子とローテーブルとソファと鏡とチェストと本棚が揃っていて、クローゼットもある。なんと、バスとトイレもついている。
どうやら貴賓用の客間を準備してくれているらしい。
この部屋もまた、他と同様で豪華さや煌びやかさはない。アンティーク調、とあえて表現したくなる年代物の調度品の数々。部屋の壁はクリーム色で、部屋じたいはムダに広くなくて落ち着いている。なにより、バルコニーがあるのがうれしい。真鍮製のテーブルと椅子が、セッティングされている。
この部屋が気に入らないわけはないわよね。
というわけで、案内されてからトランクふたつはクローゼットに放り込み、乗馬服姿のまま寝台に横になった。
森の中の廃れた屋敷でサバイバル生活をしていたときと違い、古めかしいといえど調度品が壊れたり床や壁が崩れたり穴が開いたりという心配はしないですむ。
だから、ぐっすり眠ることが出来た。




