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02.溺愛の始まり

魔王サタンにプロポーズされた後、まばゆい光に包まれた。

眩しくて目を閉じる。数秒後、サタンに言われた。


「着いたよ。ここが魔界だ」


再び目を開けた時、私たちは草原に立っていた。

一面に美しい緑が広がっている。


「え、本当に魔界?」

「何を驚いているんだ?」

「いや、もっと怖い所かと思ってたから」

「好きな女性を、そんな所に連れて行くわけないだろ」


サタンは私の手を引いて、歩き出した。

大きくて温かい手だ。彼はやれやれといった様子で首を振った。


「まあ、そう思われても仕方ないな。だから……」


夕暮れの草原に、爽やかな風が吹き抜ける。

魔界の空は深いオレンジで、地上と同じ秋の空だ。


手を引かれて歩いていると、崖に辿り着いた。


「城に行く前に、見せたかったんだ」


先には、宝石のような村が広がっていた。



村には愛らしい家々が並んでいた。

赤い屋根と白い壁を、オレンジ色の灯りが照らす。


「……あれ?」


私は思った。この景色は見覚えがある。

懐かしさの正体を探っていると、サタンは言った。


「これを見れば、少しは不安も減ると思ってね」


彼は私を抱き寄せた。

突然のことに慌てる私に、耳元でささやいた。


「この村も世界も、全てソフィアのものだよ」


私たちは見つめ合った。完全な沈黙が数秒流れる。

無言で、彼は顔を近付けてきた。


かたちの良い鼻と唇が迫ってくると―――

突如、空で大きな咆哮が轟いた。


「え、何!?」

「ああ。予定より早く来たようだな」


それは黒いドラゴンだった。

目はサタンと同じく、燃えるように赤い。


「彼が魔王城まで連れて行ってくれるよ」

「え、あれに乗るの!?」


肯定の返事のように、再び大きな咆哮。

今にも火を吹きそうだ。


「何がおかしいんだ?」

「地上では、ドラゴンは倒すべき魔物だったから」

「魔界にも攻撃的なドラゴンはいるけど、ソフィアなら大丈夫だよ」

「どうして?」

「魔王の嫁を攻撃するなんて、自殺行為だ。魔物たちも分かってるからね。意図的に誰かが仕向けて来たなら、別だけど」


何やら不穏な言葉が、最後に聞こえた気がした。


黒いドラゴンが、空から舞い降りて来た。

近くで見ると、随分と大きい。


「さあ、どうぞ。お姫様」


サタンはドラゴンに乗り、私に手を差し出した。

彼のエスコートで、私は乗った。


ぐるる、と嬉しそうにドラゴンは喉を鳴らしている。

こうして見ると、結構かわいい。


「このに、名前はあるの?」

「もちろん。レッドアイズ・ブラックドラゴンだ」

「……」

「何か?」


レッドアイズ(略)が離陸して、私は心の中で誓った。

もし彼との子供が生まれたら、名前は私が付けよう。


「なんだ、もう子供が欲しいのか?」

「え?どうして?」

「ドラゴンに乗っていると、相手の心が読めるんだ」

「勝手に読まないで!」

「分かった、避妊はする。快楽のためだけの行為をご所望なら……」

「だから違うから!」


前に座るサタンを、ぽかぽかと殴る。

爽やかに笑っていた彼は、急に黙ってしまった。


直進していたレッドアイズも、ぴたりと止まった。

辺りをぐるぐると旋回し、戸惑っているようだ。


「ご、ごめん。そういう話に、耐性なくて……」


言い終えた直後、彼らの視線の存在に気付いた。

もう一匹、ドラゴンがこちらへ向かってきていた。



光り輝く金色のドラゴンは、私たちの前で停止した。

栗毛にブルーの瞳の少年が、上に乗っている。


「こんばんは、兄さん。夕陽がきれいだね」


少年は歌うように話しかけて来た。

中世的な美少年で、兄と同じ端正な顔立ちをしている。


「嫌だなー。そんなに警戒しないでよ」

「何の用だ」

「黒髪の大聖女を手に入れたって聞いて、見に来たのさ」


サタンの背中から怒りのオーラが発せられている。

それを知ってか知らずか、飄々と少年は続けた。


「兄さんは言い伝えを守るからねー。そのを見つけて、さらったの?」

「言い伝えは関係ない。ソフィアは、俺の命の恩人だ」

「へえ、若くて綺麗なだけじゃなくて?」


少年が金色のドラゴンに目配せをした。

ドラゴンは返事をするかのように、大きな声で吠えた。


次の瞬間、

槍や剣など様々な武器が、私たちを目掛けて振って来た。


「うわ!?」


慌てる私と対照的に、サタンは冷静な声で言った。


「レッドアイズ、やれ」


レッドアイズも、咆哮を上げた。

そして口から炎を吹き、全ての武器を焼き尽くした。


「……やっぱり兄さんのドラゴンには叶わないか」


少年は、私を見つめた。

吸い込まれそうな青い瞳だった。


「でも、いつか僕がもらうよ。黒髪の大聖女も、緋色のドラゴンも」


少年は去って行った。

夕陽の光に包まれる背中は、どこか寂し気だった。


「……すまない。大丈夫か?」

「ええ。弟さんなの?」

「あいつは母と過ごした時間が短いからな。きっと寂しいんだろう」


サタンは少し遠い目をした。

封印していた記憶を、解き放つかのように。


返す言葉を探していると、彼はふっと笑顔になった。


「そういえば、城に戻ってすることがあったな」

「ま、まだ覚えてたの?」

「当然だろう。ソフィアのお望みとあらば」

「だから望んでないってば!」


サタンはレッドアイズに、城へ行くよう指示した。


真下の村には、オレンジ色の灯りが宿っている。

それらは夕闇を美しく彩り、

どこか幻想的で、なぜか懐かしい雰囲気が漂っていた。


●読者の皆様へ

お読みいただき、ありがとうございました。


読者の皆様に大切なお願いがあります。

十秒程度で終わりますので、ご協力いただけますと幸いです。


・面白かった

・続きが気になる

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など、少しでも思ってくださった方は、

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