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戦闘員始めました  作者: ねむりくろぬこ
断章 少し先のお話
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エピローグ

「ちょーっとまったああああ!」


 護衛していた中心の馬車(魔法で動いてるから馬はいないけど)から一人の女が出てくる。

 腰まで届くような赤髪を無造作に束ねた、それでも整いすぎた顔立ちからみすぼらしい感じはしない。

 彼女はこれ以上ないほど口角をつり上げ、顔を突きだし、とっておきのプレゼントを母親に渡す子供のような表情で言った。


「要人だと思った? 残念! 私でした!」

「あ、あなたは!」

「おう。俺だよ俺。だから俺だって。よぉお前ら、久しぶりだなぁ」


 僕が悪の組織に体験入団するきっかけを作った、というより無理やり入れさせられた酔っ払いの女冒険者、その人だった。


 女冒険者は馬車から飛び降りると、団長にそばへと駆け寄る。

 両手をめいっぱいに広げ、唇をとがらせながら、


「だーんーちょー!」

「近づくな酔っ払い」

「へぶしっ」


 軽く足を引っ掛けられ盛大に転んだ。

 地面に濃厚なキスをすることとなった女冒険者。

 体中泥だらけで唇からも血が出ていたが、実に楽しそうだった。


「ああーん、つれないなー団長。4か月ぶりの再会だっていうのにぃ」


 甘い声を出し腰をくねらせる女冒険者。

 もうこの人のキャラがよく分からない。

 むしろわからない方がいいのかもしれない。


「うるさい。黙れ。4か月いなかったのは単にお前の放浪癖のせいだろう」

「違うよ! 団長の離れ離れになってた4か月の間に、幾度となく世界の危機を救ったり魔王を倒したりで忙しかったんだよ! 誰かさんが勇者の役目を放置して王都に閉じこもってるせいで。褒めて!」

「はいはい、偉い偉い」


 団長が投げやり気味に差し出された頭を撫でる。

 女冒険者はにへらーとだらしない顔をしてされるがままになっていた。


「……帰るか」

「そうですねぇ。私も少々……いえ、かなり疲れました」


 プレスリリースとアクノブレイクのリーダーがいそいそと帰宅の準備をし始める。


「お、おいおいおい! なに勝手に帰ろうとしてんだよ! これからとっておきのネタバラしが始まるんだぜ? 最後まで聞いてけよ。つれねぇな」


「どうせいつものいたずらだろ?」

「Fランククエストがほとんど存在しない状況で、そこの新人がやってくる」

「どうやらその新人はかなりの実力者らしい」

「ギルドとしてはランクを飛ばす制度を使ってEランクに上がって欲しい」

「でもその時必要な試験官、つまりSランクはあいにくと『祭り』に出張っている」

「さてどうしたものかと考えてた時に一応Sランクのあんたがやってくる」

「正直絶対面倒なことになるだろうなと考えた受付嬢は全力で阻止しようとするが」

「アルコールの入ったあんたにセクハラされて断念」

「クエスト報酬とかもろもろ全部自分持ちでやるって言って納得させた、と」

「けっ、金持ちが。さっさと失せやがれ」


「おいてめーらなに俺のセリフ勝手に奪ってくれてんの? いいだろう。ならば戦争だ!」

「女の子を相手にするのはちょっと……」

「あ゛? 上等ぉ……」

「フニカ、大人しくしていろ」

「うん」

「何その素直さ。気持ち悪いんだけど……」

「団長、あいつがいじめてくる」

「戦闘員197番! めっ!」

「えー……」


 なんだか有耶無耶のうちに事態が収束していく。


「お前が戻ってきたということは、何かあったのだろう?」

「うん! さっき言った通り新人のランクをあげたいっていうのもあるけど、まあいろいろとね。とりあえずまだ時期じゃないし、俺はいったんギルドに帰ろうと思う。ランクが上がりたての新人育成に勤しむことにする」

「そうか……」


 団長は僕に視線を向ける。


「冒険者ギルドに、戻るんだな?」

「はい……すみません」

「謝ることはない。元々そういう約束だったしな」


 団長は空を仰いで、ぽつりと呟く。


「そのスカーフはお前のものだ」


 ハッとして首に巻いた水色のスカーフを見る。

 そこには342の数字が、たび重なる戦闘の中でも色あせず輝いていた。


「342の数字は、お前だけのものだ。また、いつでも気が向いたら帰ってきてくれてもかまわんぞ。そこの変なのにセクハラされたら遠慮なく逃げてこい」

「変なのとか団長ひどい」

「事実を言ったまでだ」


 沈黙が場を支配する。

 僕は大きく頭を下げた。


「ありがとうございました!」

「おう!」

「いつでも遊びに来いよ!」

「またな!」

「困ったときは手を貸すぜ!」

「正直すまなかった」

「こちらこそありがとう」

「ハロハロー。今回私のセリフはこれだけだけどがんばるよー。あなたもがんばってー」

「こっちからも唐突に遊びにいくから覚悟しとけよ!」

「では、最後に定番のかけ声で締めくくろうか。せー……の!」


『ヴィーッ!』


 こうして、僕の悪の組織体験入団は終わりを告げた。

 彼らに教わったことを胸に刻み、僕は冒険者として生きていく。

 澄み渡った空が僕の進む道を示してくれている気がした。



     *    *    *



「これは、少し先のお話」


「これから起きる出来事、その一つとして」


「彼らはまだ何も知らない」


「三つ、四つ……それだけじゃ足りないな」


「三つ巴ならぬ……八つ巴の戦いってところか」


「彼らはどうするだろう? じゃあ彼は? 彼女はどうかな」


「ああ、楽しみだ。ワクワクするね」



「――さあ、祭りの準備を始めようか」

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