• 欲望に満ちた魂の海を渡る。その間、主人公の顔はひとりでに燃え上がる。
ぐっすり昼寝したあと、俺たちは目を覚まし、アスモデウスのクラブ(色欲)へ向かう旅を再開した。
そして、俺たちは「罪人の群れ」にたどり着いた。
片側にあるのは「ムクドリの流れ」。簡単に言えば、何千もの罪人の肉体がカオスな動きで流れていく場所だ。
一方、もう片側には「ツルの流れ」がある。こっちは逆方向に吹きつける向かい風だ。
ムクドリの流れを流されていく何千もの罪人の中に、見覚えのある人物が何人かいた。色欲の罪を犯した、エジプト人っぽい奴とギリシャ人っぽい奴だ。
へぇ、面白いじゃん?
「さて、ミノス。どっちの道を行く? 大量の人間の肉体が流れてる方か、それとも向かい風が吹いてる方か?」
俺は腕を組みながらミノスに尋ねた。
「魂の大群がある方ね。難しそうに見えるけど、体を避ければいいだけよ」
ミノスがそう答える一方、エヴァンジェリンがこちらへ近づいてきた。
無駄に腰をくねらせながら。
サキュバスの本能って、マジで自重するタイミングを知らないよな。
「本当にそれでいいんですか、裁判官様? 色欲の第二サークルに所属するサキュバスとしては、欲情した人間の体を避け続けるより、風の道を進む方が絶対にいいと思いますけど?」
そう言いながら、彼女は背中をかこうとした。
しかし、まだ縛られているせいで手が届かない。
「この私に意見するつもり? このポンコツサキュバス。前にも言ったでしょう? 私はあんたのクソみたいな家系図全体より年上なのよ」
「誰がポンコツですって!? まだそれ言ってんのか、この生きた化石ババア!!」
エヴァンジェリンはミノスの顔面に向かって怒鳴った。
だが、ミノスはまったく動じなかった。
ただ眼鏡を直しただけだ。
その尻尾はゆらゆらと揺れていた。
そしてSTKは、それを隠す気もなくガン見していた。
「ねえ、STK」
ミノスがこちらを振り向いて言った。
「このサキュバスのことは無視しなさい。生命力が足りなくて頭がおかしくなってるだけよ。魂の道を進むわ。以上。分かった?」
「はい」
エヴァンジェリンはため息をついた。
そのため息だけで、さらに十世紀くらい老けたように見えた。
彼女は首を横に振りながら、尻尾をくねくねと動かした。
……というか、これって作者が文字数を稼ぐために無駄な描写を入れてるだけじゃないか?
もしかしてメタフィクションってやつ?
それとも神の仕業?
(まあ、どうでもいいか。)
俺たち三人は魂の大群へと足を踏み入れた。
そこは完全なカオスだった。
この場所の風に乗って猛スピードで飛んでくる肉体を、ひたすら避けなければならなかった。
俺のすぐ横を一体の魂が通り過ぎた。
一方、ミノスはまるで普通の散歩でもしているかのように平然と歩いていた。
その後ろには、彼女を盾代わりにしているサキュバスがいる。
……この二人、意外とお互いが必要だったりするのか?
これって、ひょっとして……お約束の展開?
「違うわ」
ミノスは振り返りもせずに答えた。
(俺、何も言ってないんだけど?)
「なあ、ここって敵はいるのか? 一応、確認しておきたいんだけど」
俺は、トロイア戦争を引き起こしたトロイ人の魂を避けながら尋ねた。
「いるわよ、いるいる」
サキュバスは魂を手で払いのけながら答えた。
「『影の追跡者』っていう、あちこちをうろついては場違いなものを探してる闇の怪物たちよ。つまり、私たち三人みたいな存在ね」
「ドンッ!!」
突然、エヴァンジェリンが急停止したミノスの背中に激突した。
……なぜ急に止まったのかは知らない。
ミノスは周囲を見回していた。
視界がどんどん悪くなっている。
遠くはまったく見えない。
見えるのは、狂ったように流れていく罪人たちだけだった。
ヒュンッ!
影でできたナイフが、俺の頬をかすめて飛んでいった。
そのまま魂の海へと消えていく。
……温かい。
鉄のような臭いがした。
俺は頬に手を当てた。
指先に、傷口からゆっくりと流れ出す血が触れた。
「……これ、ヤバくない?」
ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!
三本の影のナイフが、猛スピードでこちらに迫ってきた。
「危ない!!」
サキュバスが叫び、俺の上に飛びかかった。
一本はそのまま通り過ぎたが、もう一本が彼女の髪を一房切り落とした。
「私の髪ぃぃぃ!! 私の美しくてセクシーな髪がぁぁぁ!!」
彼女は体をバタバタさせながら悲鳴を上げた。
「ハゲたサキュバスなんて、今どき美の基準じゃないのよぉぉぉ!!」
カァンッ!!
ミノスは尻尾で飛んできたナイフを、眉ひとつ動かさずに弾き飛ばした。
目の下にクマを作った赤い瞳が、武器の飛んできた方向へと向けられる。
魂の大群の向こうから、三つの影が近づいてくるのが見えた。
人型の闇。
そして、怪しく輝く紫色の目。
(ちなみに、俺とは何の関係もないからな。)
そいつらの腕は、鋭い影の刃へと変形していた。
完全に戦闘態勢だ。
ミノスも戦闘モードに入った。
そして、尻尾でサキュバスをつかみ上げた。
……まさか、武器にする気か?
一方、俺は数歩前に出て、不敵な笑みを浮かべた。
三つの影のすぐそばで、俺の目から紫色の炎……いや、閃光がほとばしる。
「狩る相手を間違えたな、小物ども……。お前らはここから五体満足で帰れると思うなよ。バラバラになって帰ることになるぜ!!」
俺は、これ以上ないほど威圧的な声で言い放った。
俺たち六人は、誰が最初に動くのかを探るように互いを見つめ合った。
そして……
そして……
そして……
「……クッソォォォ!! 熱っっっ!! 目がぁぁぁ!!」
俺は叫びながら、目から出ている炎を必死に消そうとしていた。
【教訓:二度とこんなことはしない。】
ようやく炎を消したころには、俺の目は真っ赤になり、涙まで出ていた。
しかも、火傷の跡まで残っている。
この傷跡は、あと数話くらい消えない予定だ。
「オーケー、今のは誤報だ。ミノス、あとは全部任せた!」
そう言い残し、俺は魂の大群を避けながら全力で逃げ出した。
ミノスは、俺が情けないほどの全速力で逃げていく姿を見つめていた。
その顔には、こう書いてあった。
『……こうなると思ってたわ。』
一方、エヴァンジェリンは口を開け、目を見開いたまま固まっていた。
「ミノス……どうしてこんな奴と手を組むことにしたの?」
エヴァンジェリンは、尻尾の生えた悪魔を見ながら尋ねた。
「裁判官の仕事をしなくて済むなら、何だってするわよ……エヴァン。私は何をやっているのかしら……」
ミノスは疲れ切った声で答えた。
影の追跡者たちは、なんとも言えない表情でこちらを見ていた。
この気まずい空気に耐えきれず立ち去るべきか。
それとも、エリアの敵キャラとしての仕事を続けるべきか。
……どうやら、判断に困っているらしい。
ミノスはため息をついた。
そしてエヴァンジェリンをつかむと、その体を棍棒のように振り回し、影の追跡者たちに斬撃を叩き込んだ。
ストライク!!
人型の影たちは、ボウリングのピンのように吹っ飛んでいった。
……まあ、これは文章だから、誰かが空の彼方へ吹っ飛ばされたときに出る、あのお約束の閃光は見えないんだけどな。
「はい、終わり」
ミノスは疲れた声で言った。
「……え? そんな簡単に?」
エヴァンジェリンは信じられないといった様子でつぶやいた。
……
俺は走った。
走って、走って、走りまくった。
あっちの魂を避け、こっちの魂を避け、そして無駄に大げさなジャンプまで決めた結果、ついに俺は脱出した。
ゾーン3から!!
「やっっっと出られたぁぁぁ!!」
俺は勝利の雄叫びを上げ、誇らしげに叫んだ。
二人の少女は、すでに外へ出ていた。
そして、かわいそうなものを見るような目で俺を見ていた。
「まあ、これで脱出できたわね。この近くにクラブがあるわ」
エヴァンが言った。
「よーし、叫べるからって理由だけで暴言を吐いてやるぜ……クソ――」
ようやく千文字に到達しました……。




