表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/6

湯けむりと、空から降る災厄



 ――夜。


 里の外れにある小さな風呂小屋。


 薪の匂いと、湯気のあたたかさが、じんわりと体に染みていく。


「……はぁ〜〜〜〜……」


 思わず、声が漏れた。


 湯船に肩まで浸かると、昼間の緊張がゆっくりほどけていく。


 隣では――


「やっば……なにこれ……天国……?」


 ナナが、完全にとろけていた。


「そんなに珍しいの?」


「珍しいっていうか……こういう“ちゃんとしたお風呂”久しぶりかも……」


「ちゃんとした……?」


「いつもシャワーだけだし。しかも時間ないときとか超雑だし」


「しゃわー……?」


 また知らない言葉。


 でも、なんとなく分かる。


 この子の“いつも”と、私の“いつも”は、全然違う。


 少しだけ、沈黙。


 湯気がゆらゆらと揺れる。


 その中で、ナナがぽつりと聞いてきた。


「ねぇ、牡丹ちゃんってさ」


「うん?」


「戦、好き?」


「……」


 胸の奥が、少しだけ痛んだ。


「……嫌いだよ」


 自然と、言葉が出る。


「大っ嫌い」


 ナナは何も言わずに、こっちを見ている。


「人が死ぬの、見たくないし……」


 ぽつり、ぽつりと。


「斬るのも、嫌だし……でも、斬らなきゃいけない時もあって……」


 湯の中で、ぎゅっと拳を握る。


「……なんで、こんなことしてるんだろうって、思うときある」


 少しだけ、笑ってみせた。


「くノ一なのにね。向いてないよね」


 でも。


 ナナは、笑わなかった。


「……うん」


 静かにうなずく。


「うちもさ、戦争とかニュースでしか見たことないけど」


「にゅーす……?」


「なんていうか……遠い話だったの。でも」


 ナナの声が、少し低くなる。


「誰かが泣いてるなら、それって普通にダサいと思う」


「……ダサい?」


「うん。かっこ悪い」


 まっすぐな目。


「だから、嫌いって思うの、普通だよ」


 その言葉が、胸にすっと入ってきた。


「……ナナって、不思議だね」


「え、なにそれ急に」


「なんか……よくわかんないけど、嫌いじゃない」


 言った瞬間。


 ナナの顔が一気に赤くなる。


「は!?ちょ、ちょっと待って!?それ、そういうタイミングで言う!?」


「え、なにが?」


「ずるいってそういうの!!」


「だから何が!?」


 思わず笑った。


 ――この子といると、少しだけ楽になる。




 一方、その頃。


「……」


 リオは、離れの風呂で一人、湯に浸かっていた。


 遠くから聞こえる女子の笑い声。


「……元気だな、あいつら」


 小さく息を吐く。


 だが、その目は、どこか遠くを見ていた。


「……だが」


 ぽつり。


「長くはいられない」


 誰にも聞こえない声が、湯気の中に消えた。




 そして、翌朝。


 ――事件は起きた。


「きたああああああああああああああ!!!」


「な、なに!?侵食者!?」


「違う!もっとヤバいやつ!!!」


 外に飛び出す。


 空に、何かが光っていた。


「……落ちてくる!?」


「違う違う!あれはね――」


 ナナが、満面の笑みで叫ぶ。


「うちの新ガジェット!!!」


「えええええええええ!?」


 ドゴォォォン!!!


 とんでもない音とともに、それは地面に着地した。


 土煙が舞い上がる。


 現れたのは――


「なに……これ……」


 鉄の塊のような乗り物。


 そして、その前面には。


「ガトリング♡」


「やばいやつじゃん!!!」




 数分後。


「ちょっと試運転いくね〜!」


「待てえええええ!!!」


 機体が、ふわりと浮く。


「飛んだぁぁぁ!?」


「視界サイコー!!」


 嫌な予感しかしない。


「じゃ、軽くテスト〜!」


「やめろぉぉぉぉ!!!」


 ズドドドドドドドド!!!


 一瞬の静寂。


 次の瞬間。


 ドォォォォン!!!


 建物が、吹き飛んだ。


「………………」


 ゆっくりと、煙が上がる。


「……あれ……うちの……」


 兵糧庫。


「……兵糧庫ーーーーーーーッ!!!」


 ナナ、固まる。


「えっ」


「そこだよぉぉぉぉぉ!!!」


 リオが頭を抱える。


「だから言っただろォォォ!!!」


 里の人たちも騒ぎ出す。


「な、なんだ今のは!?」


「鬼の術か!?」


「食糧がああああああ!!」


 ナナはゆっくりと降りてきて――


 そのまま。


 地面に、頭を叩きつける勢いで土下座した。


「ごめんなさいいいいいいいいい!!!」


「悪気なくてこれなの!?」


 思わず叫ぶ。


 でも。


 その必死な顔を見て。


 ……少しだけ、笑いそうになる。


 いや、笑っちゃダメなんだけど。


 でも。


 なんかもう。


「……はぁ」


 ため息が出る。


「……もう、いいよ」


「はいぃぃぃぃ!!!」




 煙が、空にのぼる。


 焼けた匂いが、里に残っていた。


 さっきまで笑っていた人たちも、


 今はどこか、ぎこちない。


 視線が――少しだけ、痛い。


「……やっちゃったね、うち」


 ナナが、小さく言う。


「……うん」


 私は、頷いた。


 たぶん。


 これで終わりじゃない。


 ――何かが、崩れ始めている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ