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崩れゆく信頼と、観測者の影


昨日。


――里の兵糧庫が、吹き飛んだ。

しかも、犯人は――昨日拾った未来人だ。

 

 ……だが。


 あのとき空に立ち上った煙を、“誰か”が見ていたことを、

 このときの私たちは、まだ知らなかった。



 朝から里は大混乱だった。


「兵糧庫がぁぁぁぁぁ!!!」


「米がぁぁぁぁぁ!!!」


「味噌がぁぁぁぁぁ!!!」


 村中に響く悲鳴。


 その中心で。


「ごめんなさいいいいいいいいい!!!」


 ナナが、地面にめり込む勢いで土下座していた。


 めちゃくちゃ綺麗なフォームだった。


 逆に感心するレベル。


「謝って済む問題じゃないんだけど!?」


 私は叫ぶ。


「ほんとそれな……」


 リオが遠い目をしていた。


 周囲の視線が、昨日よりも明らかに冷たい。


 ――当たり前だ。


 昨日来たばかりの正体不明の連中が、いきなり食糧庫を吹き飛ばしたのだから。


「……牡丹」


 忍び頭の低い声。


「お前の“責任”は、どう取るつもりだ」


「っ……」


 言葉に詰まる。


 その横で、ナナが顔を上げた。


「……うちが直す」


「は?」


「壊したの、うちだし」


 珍しく、真剣な顔。


「材料集める。作り直す。未来の技術でなんとかする」


「いや、その未来の技術が一番怖いんだけど……」


 思わず本音が出た。


 だが。


「……本気か」


 忍び頭の目が、ナナを射抜く。


「本気」


 ナナは一歩も引かない。


 しばらくの沈黙。


 やがて。


「……監視付きだ」


「え?」


「勝手な行動は許さん。常に誰かが見張る」


「うっ、信用ゼロ……」


「当たり前だろ……」


 リオがぼそっと言う。


 そして、小さく。


「……まあ、当然の反応だ」

「……あれだけのことをやればな」


 その声音は、どこか冷静すぎた。


 まるで、こうなることを――


 知っていたかのように。



 ――その日の夜。


 空気が、変わった。


「……誰か来て!!」


 叫び声。


 里の中心へ、人が集まる。


 そこに――


「……っ」


 息を呑む。


 倒れている。


 里の忍びの一人。


 動かない。


 腹部には、深い刺し傷。


 血が、地面に広がっている。


「誰が……やった……」


 ざわめき。


「まさか……外の連中が……」


「いや、でも……」


 視線が、一斉にこちらへ向く。


 ナナが、ぎゅっと拳を握る。


「ちがう……うちらじゃない」


 だが。


 その声は、完全には届いていない。


 疑いが、空気に混ざる。


 じわじわと、広がっていく。


 ――怖い。


 戦の前より、ずっと。


 こういう“見えない敵”の方が。


「……落ち着け」


 忍び頭の声。


「我らの中に“裏切り者”がいる可能性もある」


「……っ」


 私は周囲を見回す。


 みんなの顔が、少しずつ変わっていく。


 疑い。


 不信。


 恐怖。


 ――崩れていく。


 たった一晩で。


 あんなに穏やかだった里が。


「……見られてるな」


 ぽつり、と。


 リオが呟いた。


「え?」


「誰かが、この状況を“作ってる”」


 低い声。


「精神干渉……誘導型か。最悪のタイプだ」


「なにそれ……」


「人間の弱いところを突いて、“勝手に壊させる”敵だ」


 ぞくり、とした。



 翌日。


 犯人は、捕まった。


 だが――


「……俺が、やった」


 男は震えていた。


「だが……俺の意思じゃない……」


 ざわめき。


「“侵食者”ってやつが……言ったんだ……」


 ナナが顔を上げる。


「……やっぱり」


「『殺せば、死んだ妻に会わせてやる』って……」


 空気が、凍る。


 重い沈黙。


「……最っ低」


 ナナが、低く吐き捨てた。


「そんな理由で、人を操るとか」


 リオの目も冷たくなる。


「……確定だな。敵は複数。しかも、かなり悪質だ」


 そのとき。


 ――パチ、パチ、パチ。


 場違いな拍手。


「なかなか興味深いな」


 全員が振り向く。


 そこに立っていたのは――


 黒いコートの男。


 不気味なほど、落ち着いている。


「……誰だ」


 リオが構える。


 男は、薄く笑った。


「我は、不知火」


「侵食者の一員だ」


 空気が凍る。


 ナナの指先に、電気が走る。


「敵じゃん」


「そうだな」


 あっさり肯定。


「だが、今は戦う気はない」


「は?」


「お前たちを“観察”しに来ただけだ」


 観察。


 その言葉に、リオの目がわずかに細くなる。


「……やっぱりか」


「何がだ」


「“上”がいるな」


 不知火は、少しだけ笑みを深めた。


「勘がいいな」


「簡単なことだ」


 ゆっくりと告げる。


「“面白いもの”が見たいだけだ」


「……っ」


 ナナが歯を食いしばる。


「ふざけんな」


「そのうち分かる」


 一歩、下がる。


「その信頼も――全部壊れる」


「何が」


「全部だ」


 ぞくり、と背筋が冷える。


 次の瞬間。


 男の姿は、闇に溶けるように消えた。


「……最悪だな」


 リオが呟く。


「完全に、舞台に上げられてる」


 私は――


 何も言えなかった。




 ――その頃。


 遠く離れた、未来。


 白い空間。


 無数の情報が、光となって流れる。


 その中心で。


 一人の少女が、宙に浮かんでいた。


 ラベンダー色の三つ編み。


 黄色い瞳。


 感情のない顔。


「……観測記録、更新」


 淡々とした声。


 ホログラムが展開される。


 そこには――


 里の煙。


 ナナの行動。


 リオの反応。


 そして、“殺人”。


「時空歪曲値、上昇」


「侵食者の介入、確認」


 指先が動く。


 データが書き換えられる。


「……予定通り」


 わずかに。


 口元が動いた。


「むしろ、想定より良好」


 別の画面。


 そこに映るのは――


 ガトリングライダー。


「戦力供給――継続」


 まるで、“与えている”ように。


「干渉は最小限に」


 そして。


 ほんの一瞬。


 彼女の視線が――


 戦国の時代へ向けられる。


「……それでも」


 小さく呟く。


「まだ“人間らしさ”に縋るのか」


 その声は、冷たかった。


 すべてを、見下ろすように。


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