嫌われる勇気の栽培
放課後の部室。
森下さんが、なぜかドヤ顔で入ってきた。
「……この前の“課題の分離”、試してみました」
佐伯が机をばんっと叩く。
「でた! 実践報告!」
「まずは成功例。今日の朝、友達が急にそっけなくしてきたんです。
でも、“これは相手の課題”って頭の中で言ったら、不思議と気にならなくなって」
西村が眼鏡を押し上げ、先生っぽく頷く。
「それが絶縁体効果。外力をカットできた証拠だね」
⸻
森下はちょっと眉を寄せる。
「でも、失敗もありました。昼休みに“真面目すぎてつまらない”って言われて……
反射的に“じゃあ関わらなくていいよ”って言っちゃって」
俺はペットボトルをくるくる回しながら言う。
「それはベクトルが想定外の方向に来た時だな。予想してない反応は、一瞬で感情を沸騰させる」
西村が黒板に小さな丸を描きながら補足する。
「もう一つは、ベクトルがド直球で来た時も感情は動く。
予想通りなのに、その後の展開は相手の課題……でも、その展開が自分の核心をど真ん中で突いてきた時、感情は一気に振れる」
「ほら、ドラマで“こうなる”と分かってて、いざそのシーンになったら泣くことあるだろ?」
森下が「あー!」と笑う。
「ありますあります!」
⸻
高橋が顎に手を当て、ちょっと真面目に言う。
「ただ、動かない相手はいる。そういう時、人間は感情で無意識に押してくるよな。
怒りでも、悲しみでも、顔や声に滲み出る
感情の圧力でこっちが日和ってしまう」
⸻
西村が黒板に丸と線を描き、今度は小さく“境界線”と書き足す。
「だからこそ、境界線を引いてから反応する。暴走を防ぐ安全装置だ」
森下は深呼吸して笑う。
「……次は、一呼吸置いてからやってみます」
⸻
そこへ国枝先生が入ってきた。
「おい、またコーヒー減ってるぞ」
高橋がすかさず言う。
「先生、それは先生の課題です」
先生はニヤリ。
「じゃあ俺の課題は、お前らを罪悪感で動かすことだな」




