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高校生、うっかりマズローを論破してしまう  作者: シンリーベクトル


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23/59

アドラーさんありがとね

昼休みの部室。

佐伯がドアを勢いよく開け、後ろに一年の女子生徒を引っ張って入ってきた。

「この子、森下さん。ちょっと相談があるって!」

声はやたら明るいが、森下は椅子に座るなり深いため息をついた。


「……最近、友達とよくぶつかるんです。

 ほんの小さなことでムッとして、気づいたら声を荒げちゃう」


高橋が顎に手を当て、口角を上げる。

「なるほど、感情の沸点が低いタイプか。やかんで言えば常時グラグラだな」


佐伯が小声で「料理向きではある」

山本(佐伯さん、よけいな一言だろ)


西村が黒板に温度計の絵を描く。

「感情って、熱エネルギーに近い。外から刺激が加わると温度が上がって、

 沸点を超えると一気に蒸発=爆発する」


俺は椅子にもたれ、ゆっくり口を開く。

「……感情が動くのは、他人に向けたベクトルが想定外の方向から返ってきた時だ。

 それともう一つ、想定していたベクトルが“どストレート”に突き刺さった時も同じだ。

 予想通り――いや、希望していた通りなのに、胸がいっぱいになって涙が出ることだってあるだろ?

 ドラマでハッピーエンドを見て泣くのは、その典型だ」


佐伯が「わかるー!」と両手を上げる。

「私はあれ、泣きながらアイス食べる派!」


俺 「……だが厄介なのは、感情が動くのが自分の欲求ベクトルの軌道の“外の力”によって引き起こされることだ。

 怒りや涙の正体は、結局その“外からの衝撃”に体が勝手に反応してしまう現象なんだ」


佐伯が腕を組み、ふと思いついたように言った。

「じゃあさ、もし無人島に一人で取り残されたら?

 外力なんてないのに、淋しくて泣いてしまうのはどう説明するの?」

高橋がギターで「だって、女の子だもん、涙が出ちゃう」

山本(黙れ)


西村は相変わらずスルーで黒板に「帰属欲求」と大きく書いて、さらさらと矢印を描き足した。

「外力がなくても感情が動くことはあるわ。

 人間には“群れに属したい”という帰属欲求がある。

 無人島のように“誰もいない状況”は、外力がなくても“欠如”という形で刺激になるの。

 むしろ群れが存在しない分、防衛欲求と地位欲求により帰属欲求は加速してしまう。

 だから孤独感で泣いてしまうのよ」


俺は黒板を見つめ、頭をかきなが

「……仮説が崩れたな。後の宿題としよう」

佐伯は得意げに笑い、

「ほら、やっぱり私の疑問も大事でしょ!」

と胸を張った。

山本(これが俗に言うザマァか)


高橋が話を戻す

「でも一番手っ取り早いのは、“感情の出口”を作ることだな。

 相手にぶつける前に、別の場所で吐き出す」


西村は温度計の横に二つの丸を描き、その間に線を引く。

「アドラー心理学では“課題の分離”って考え方がある。

 相手の反応は相手の課題、自分の行動は自分の課題。

 境界線を引けば、相手の態度で自分の温度が上がりにくくなる」


森下は目を瞬かせた。

「……じゃあ、反応のズレがあっても、“それは向こうの課題”って切り替えればいいんですね」


「そう。物理で言えば、外力を遮断する絶縁体を挟むイメージ」


森下は小さく笑って言った。

「……じゃあ、ムッとしたら、まずスマホのメモに書いて、“それは相手の課題”ってつけます」



その時、国枝先生が入ってきた。

「おい、またコーヒーが減ってるぞ」


高橋が平然と返す。

「それ、先生の感情の沸点テストです」


西村がさらっと言う。

「それは先生の課題ですね」


佐伯が無駄にフォロー。

「先生、アイス食べながら見たら怒りが和らぐかも!」


先生は深くため息をつき、温度計の絵を黒板ごと消した。

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