宝箱に財宝があるのに開けないの?
放課後の部室。
南条先輩がノートとペンを持って入ってきた。
「……例の件、試してみた」
佐伯が椅子を回して向き合う。
「30分だけ勉強するやつ?」
南条は頷いた。
「まずは昨日、塾の課題を半分にして、その分、自分で作った問題集をやった。
……思ったより集中できた」
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高橋が口元を歪める。
「要するに、塾は自動車学校、家はスピード走行って分けたわけだな」
俺はペンを指で回しながら言う。
「“ゴールに着いた感”を消すには、自分でもう一度明確に進むべきベクトルの先端を標的に畳み込む‥だな」
西村はノートを覗き込み、さらっと計算する。
「そのやり方だと、塾オンリーより週に1.6倍速く進める。
あとは休憩の取り方を固定すれば、効率はさらに上がる」
⸻
そこで山本が静かに口を開いた。
「……俺はさ、テストの順位ってあんまり気にしてないんだ」
南条が少し意外そうに見る。
「え、そうなの?」
「うん。間違えたところがどこで、なんで間違えたのか——そこが一番勉強する意義だと思ってる。
順位は結果だけど、原因を潰さないと次も同じところで転ぶから」
佐伯が頷く。
「なるほど、原因究明と対策が優先ってことか
ビジネスの基本の考え方の訓練だね」
「そう。理解度が上がれば、順位は勝手についてくる。
だから俺、間違えた問題は原因メモとセットでノートに貼ってる。むしろコレクションが趣味とか‥」
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高橋が鼻で笑った。
「正直、それを教育方針にしないと国レベルで損してるよな。
順位ばっか競わせてるから、本当は分かってないのに“できる”って顔した人間が量産される。
で、社会に出てからミスっても、原因分析ができない」
西村が黒板に「理解度>順位」と書く。
「知識の穴を埋める方が、国家的にもコスパはいい。国民の学力は国のステルス財産か‥」
高橋は肩をすくめた。
「でも“順位の数字”は政治家や教育委員会にとって見栄になるからな。
本気で変える気があるやつは少ない」
南条は苦笑いしながらノートを開いた。
「……だからこそ、自分でやるしかないのか」
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佐伯が提案する。
「来週も部室で進捗チェックしようよ。相談料はコーヒー1杯でいいから」
南条が苦笑いしたその瞬間、ドアが開き、国枝先生が顔を出す。
「お前ら、またコーヒー飲んだだろ」
高橋が悪びれずに言う。
「潤滑剤です」
先生は深くため息をついた。
「……お前らのベクトルはどっち向いてんだ」
南条は吹き出しながら、ノートの1ページ目に「再始動」とだけ書いた。




