17話 察知
快晴の日が続くと逆に鬱陶しく感じる。
特にこの行列を待つ列で雲ひとつ無い天気というものは
何故今日位は曇り空ではないのだと考えてしまう。
休日である私は都で有名な菓子屋の行列に並んでいる。
行列のほとんどは男女のカップルだ。
そんな目を気にせずいられるのは彼女のおかげだ。
「むーっ、ここは生チーズケーキにするかそれともビター風味ガトー・ショコラにするか
迷うよね!コンちゃん!」
連れにマミルを連れてきた。役割上の立場は仕方ないけど、
プライベート位は好き勝手させてほしいとマミルからの申し出もあり、
都幹部公認で昔とほぼ変わらない関係が続いている。
そのワガママを今回有効に使わせてもらった限りだ。
「何を言っているんだ?本日限定のゼンザイに決まっているだろ。
ギントキという豆を一度食してみたかった」
俺、ライル、マミルは甘いものには目がない。
それはコーリィが作る多数の菓子をいつも食べていたからだ。
あいつは子供のお小遣いでも立派なお菓子を作り上げる。
そのおかげで幼年期の俺達はおやつには苦労しなかったわけでさらに
甘いものに関しては舌も肥えてしまった訳だ。
普通に商店で売っているような大量生産されたお菓子なぞに
目は眩まない。
「うーん、私もそれは考えたんだけど、豆が甘いっていうのが
あまりにも想像できないんだよね?昔食べてた豆スープの影響で」
豆スープ、豆をダシとして煮てそのままだしただけのスープだ。
圧倒的にまずいがコストが安い分庶民の料理でお金がない日に
かならず出る定番料理だ。
味は水と豆だ。
「それは先入観というものだ。たまには冒険するものだぞ」
「冒険は男の子の特権でいいよ~。私はガトー・ショコラ頼むから一口頂戴」
他人視点からこの会話を聞くとどこぞのカップルかと思ってしまうが、
全くそのような考えは無い。彼女は未だ彼に好意を抱いているのを知っているからだ。
立場上やすやすと会いに行けないのを非常に悔やんでいる。
「それは、コーリィとでもやってくれ、
俺は俺の食いたい物を全部食う」
「・・・うん」
何故ここで顔を赤らめる。
コーリィの名前を出しただけでこれとは
女とは分からん。
それにしても暑い、連日の快晴続きで
水も干上がってしまうのではないのだろうか?
汗を拭い、懐から飴を取り出し口に放り込む。
自作の塩飴だ。昔コーリィに作り方を教えてもらった。
これのお陰で何度窮地を救われたかわからない。
最近は作り慣れて俺の味覚に合わせて作った必需品だ。
列は少しずつ動き出し、ようやく俺達が店内に入る。
いかにも顧客ターゲットを女性へと絞ったと思える
パステルカラーで彩られ、そこに甘い匂いが漂っている室内。
俺とマミルは互いに向かい合う2人席に座り、店員に注文を伝える。
ぜんざいを頼んだ所アイスとホットを聞かれたがこんな暑い日は
冷たいものが食べたい気分なのでアイスと頼んだ。
そして、注文の品が来る間、俺とマミルの世間話が始まる。
「都の学校はどんなもんだ?」
「うーん、なんか色々と派閥があって、
あの娘がこーだから私はこの娘に着くとか
よくわからないことをやっていたりするよ。
私は面倒くさいから適当に流しているけど」
「そうか、都の学校も大変なんだな」
「うん、色々とあるのよ~」
「そうか」
「そういえばライルどうしている?」
「あぁ、あいつはもともとの性格が自由奔放だからな
色々と世話を焼いている」
「だよねぇ」
「ただ、ライルからコーリィが都に来ているという
情報はもらったな」
「・・・・っは?」
マミルの気の抜けた表情を久しぶり目にする。
かなり間抜けな表情だ。
「ん?手紙が届いていなかったか?
確か10日前くらいだったか?」
「そんな前に!?」
その様子だと手紙は貰っていないようだ。
「あぁ、俺もこれ食ったら会いに行く予定だ」
「ちょちょちょ・・・なんで私だけのけ者なの?」
「すまん、既に知っているものだと思っていた」
「知るわけ無いでしょ!?あの黄色野郎、
あざといわ」
どういうわけかライルに苛ついているマミル。
この2人は都についてからというもの仲が悪い。
「そうか、言い聞かせておく。まぁせっかくだ、
ついでに会いに行くか?」
そう言うとマミルは何故か恥ずかしげにして
「コンちゃんはいつでも行けるでしょ?今日は私だけっていうのはダメ?」
言いたいことは理解できた。
『オマエジャマ、フタリノジカンツクリタイ』
といった所だろう。
「分かった、好きにしろ。場所は中央教会だ。」
「ありがとーコンちゃん」
そんな所微妙な空気の所、丁度頼んだ品をウェイトレスが持ってきた。
注文された品を確認することもなく正確に俺たちの前に注文したしなが
差し出されてきた。それだけで訓練されたウェイトレスであると分かる。
ゼンザイという食べ物は初めて見るのだが、この山のように
盛られている氷の削り節、その上にかかる練乳、氷の削り節の下に
暗紅色の液体が見えた。その中にどうやらギントキらしき豆が入っている。
どう見てもお菓子には見えないがとりあえず食す。
「むっ!?」
氷の冷たさと、練乳、そして暗紅色の液体とギントキが口の中で融合し
一口で数種類もの味を奏でる。
俺は無我夢中でゼンザイを食した。
途中、頭がキーンとなり、悶絶してしまった
それを見てマミルが指をさしながら笑う。
それが和らいだらすこしゆっくり食すようにし
完食した。一息立てた所、マミルはまだ半分も食べていない所だった。
我ながら夢中になってしまったらしい。
「コンちゃん、そんなに美味しかったの?」
俺の食いっぷりからそう考えたのだろう
「あぁ、絶品だった」
そう答えておくだけにした。
多分語り出したら止まらないだろう。
ぜひこのゼンザイをあの方と一緒に食してみたいものだ。
・・・っ、あの方のことを考えると心が痛くなってきた。
これが恋というものなのか?俺は、そうなってしまったのだな。
一目惚れか・・・我ながら恥ずかしい。
それにしてもなんだ、人が恋をする際に、ここまで
心が痛くなるものなのだろうか、痛みも前にもまして
強くなっているような気が・・す・・・る。
「コンちゃん!!!」
気づいたら俺は床に顔を伏せていた。
何故床に伏せているのだろう?
身体が重い。動かせない。
どうやら視界が開けた、
マミルが俺の体勢を変えたようだ。
「コンちゃん待っててね、今治すから」
そう言って、回復紋章を展開させた。
しかし、俺の状態が回復することはなかった。
「あれ!?あれ?どうして?なんで効かないの!」
マミルの言葉に焦りが見え始めたその時、
先ほどのウェイトレスが目に入った、その目には
殺意がはっきりと映し出されていた、俺は薬を盛られたのだと
認識した。そして彼女がマミルの後ろにいることも。
「マ・・ミ・・・ル逃げ・・・・ろ」
決死の思いで、マミルを逃がそうとするが
向こうのほうが行動が早かった。
「え?」
ウェイトレスは自らの服から何か取り出そうとしていた。
凶器か、毒かそれとも紋章術か何にせよ俺は動けない。
何が護衛騎士だ。何が強くなるだ。
何一つ大切なモノを守れていない。
クソックソッ!!!クソ!!!!
「あの、この薬をお使い下さい」
ウェイトレスが手にしているものは
小さな小瓶だ、その中に透明な液体が入っていた。
「え?」
「1番目回復紋章術師様が前に私に下さった万能薬です。
昔私も突然同じような症状になったことがあったので
いつも持ち歩いているのですが」
それを聞くとマミルはすぐにその小瓶を受取俺の口に含ませた。
そんな不確定なものをすぐに俺に飲ませる辺りが既にわらにもすがる程、
冷静さを失っていたのであろう。
しかしどうだ、俺の体調はみるみるうちに回復していった。
「よ、よかった。本当に良かったよ~」
泣いているのか笑っているのかわからない
表情で泣いているマミルを見て
俺は相当心配をかけてしまったのだと思った。
しかしアレだ、俺の目は敵も味方も分からないほど
腐っているらしい。これから精進せねば。
そう思いながら、彼はウェイトレスに礼を言った。
・・・
「まぁ、こんな所ですかね」
2人は向かいの喫茶店から慌ただしい
雰囲気の店を眺めていた。
「元々ウェイトレスは他国の刺客であり、
コンフィルを殺し、マミルを連れ去る予定だった。
脅す為、ナイフを取り出す直前で人格の改変を
を行ったのだろう?」
「はい、薬の解毒剤は一応持っていたらしくそれをナイフの代わりに持たせました。
ウェイトレス自ら薬を盛り、自ら助けた自作自演ってところです」
「うむ、ベタではあるが最小限の改変でよくやってくれた」
「ベタって、救うのにベタもへったくれもないでしょ」
いきなり彼女の目が鋭くなった。
目線にはまだ騒がしい向かいの菓子屋があった。
「いや、どうやらここからが本番らしいな」
「え?」
彼も再度向かいの菓子屋へ目線を向ける。
そこには彼女・・・セシリアがいた。




