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AIが変えた世界で、僕らはもう一度働き始める  作者: 北野風人
もう一度働くために

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第32話 庭で会う日

「父さん、これ、直せる?」


夕飯のあと、一舟が水やり装置の写真を見せた。


林遠は番号と、管の延びる先を見た。


「どこの設備?」


「地域センターの庭。ずっと使ってないんだって」


「管理している人には聞いた?」


「職員さんが、写真を撮っていいって」


「直していいかは、まだ聞いてないね」


一舟は端末を引き寄せた。


「明日、先生に聞いてみる」


翌日、センターから返事が来た。


装置はセンターの設備で、再び使うには保守担当者の確認が必要だった。


活動の日までに点検できるかは、まだ分からない。


「じゃあ、水やりはできない?」


一舟が言うと、美玲が首を振った。


「じょうろがあるよ」


職員に尋ねると、使える数と、水を取る場所を教えてくれた。


水をやる必要があるかは、当日の土を見て決める。


一舟は活動表の「装置を使う」を消し、「じょうろを借りる」に直した。


夜、林遠は机にメモを置いた。


手袋。


帽子。


水を運ぶ容器。


「これ、用意しようか」


一舟はメモを見た。


「手袋はセンターにあるって。帽子は自分のを持っていく」


「容器は?」


「美玲が聞いてくれてる」


林遠はペンを置いた。


葉寧が隣で、自分の学習会の予定を確認していた。


「向こうで決まったものを聞いてからでも、間に合いそうね」


「足りないものがあったら頼む」


一舟が言う。


「分かった」


林遠はメモから、用意できているものを消した。


活動の朝は、よく晴れた。


張さんは先に庭へ出ていた。


椅子は、前に皆で決めた場所にある。


「今日は座って見てるよ」


一舟たちが挨拶すると、張さんが言った。


「でも、名前を忘れた花は、一緒に考えてくれる?」


「はい」


美玲は端末を開き、花の形から候補を探した。


いくつか名前が出る。


「これかな」


「葉っぱが少し違うね」


張さんが答えた。


「今は一つに決めずに、あとで職員さんにも聞いてみようか」


先生が言うと、美玲は候補を保存した。


職員が花壇の土を指で確かめた。


「今日は手前だけ、少し水をやりましょう。奥はまだ湿っています」


一舟たちは、じょうろを交代で持った。


水を入れすぎた一舟は、持ち上げたところで腕が下がった。


「半分でいいよ」


美玲が言う。


水道まで戻り、少し減らす。


ゆっくり傾けると、水が土に吸い込まれた。


「こぼれてる」


「花にもあげてる」


「道にもあげてるよ」


一舟は笑い、じょうろの先を持ち直した。


端末が小さく鳴った。


写真を担当する友達からだった。


家の用事が長引き、予定の時間には来られなくなったという。


『終わるころなら行けるかもしれない』


一舟は先生に画面を見せた。


先生が友達と家族の都合を確かめ、短い通話をつないだ。


友達の画面に庭が映る。


「白い花、見える?」


一舟が端末を向ける。


『もう少し左』


「こっち?」


『近い、近い。花しか見えない』


皆が笑った。


一舟は少し下がった。


友達は、撮影してよいと確認した花壇だけを記録した。


『前の写真と重ねられるかな』


センターの職員から、以前の庭の写真を使う許可をもらっていた。


二枚を読み込むと、花壇の縁が重なる。


前の写真では、土の上に小さな葉が二枚ある。


今日の画面では、同じ場所に茎が伸び、白い花が咲いていた。


一舟が張さんへ見せる。


「これ、同じ花ですか」


張さんは画面を近くで見た。


それから、実際の花壇へ目を移した。


「ああ、これか」


「知ってるんですか」


「私が植えたんだよ。去年、職員さんにも手伝ってもらって」


張さんは椅子から少し身を乗り出した。


「葉っぱだけのときは、もう駄目かと思ったんだけどね」


一舟は古い写真と目の前の花を見比べた。


画面の位置を動かすと、小さな葉が、白い花の根元に重なった。


「ちゃんと咲いたんですね」


「咲いたね」


張さんが笑った。


一舟は端末を持ち直した。


「張さんも、一緒に写っていいですか」


「今日は花だけにしておくよ」


「分かりました」


一舟は花壇へ向けた。


庭の入口には、別の利用者が立っていた。


「一緒に見ませんか」


一舟が声をかけると、その人は首を振った。


「ここから見てるよ。ありがとう」


一舟は、道をふさがないようにじょうろを寄せた。


しばらくして、写真を担当する友達がやって来た。


「間に合った」


「白い花、まだあるよ」


美玲が言うと、友達は息を整えながら笑った。


花壇の前にしゃがみ、端末を構える。


今度は、自分の足で位置を変えた。


「画面で見たより、小さい」


「近づきすぎると、また花しか写らないよ」


一舟が言う。


「今日は、自分で下がれるから」


友達は一歩引いた。


帰る前に、皆で次のことを話した。


張さんは、毎週来る約束はしなかった。


「来られる日に、また見せてもらうよ」


写真の友達も、次に来られるかは家で確かめるという。


一舟は、決まったことだけを予定表へ入れた。


庭の状態を職員に確認する日。


写真を比べる日。


参加したい人が、それぞれ返事をする日。


水やり装置は、花壇の端に残っていた。


職員が保守担当からの連絡を見せてくれた。


「来週、点検してもらえます。使うかどうかは、それから決めます」


「直ったら、使えるんですか」


「水の量を確かめて、庭に合っていればね。使わない方がいい日もあると思う」


一舟は箱を見た。


今日は、装置が動かなくても花を見られた。


来週は、また別のことが分かる。


家に帰ると、林遠が仕事の端末を閉じるところだった。


一舟は花の写真を見せた。


葉だけだったころの画面に、今日の白い花を重ねる。


「張さんが植えたんだって」


林遠は二枚の写真を行き来させた。


「同じ場所で、こんなに違うんだね」


「前の写真がなかったら、小さい花だなって思っただけだった」


一舟は次の写真を開いた。


道の端に置いた、じょうろ。


「こっちは?」


「僕が道に水をあげたところ」


林遠が笑った。


仕事の窓口から通知が届いた。


通常の対応時間に読むよう設定された連絡だった。


林遠は表題だけ確認する。


エマから、教材に使うモデルの新しい版についての案内だった。


以前の訓練場面を新しい版で再現できるか、来月の公開に向けて検証したいという。


「仕事?」


一舟が尋ねた。


「明日、見るよ」


林遠は端末を閉じた。


一舟は花壇の写真へ戻る。


古い葉と、新しく咲いた花。


二枚の隣に、次の写真を入れるための空欄があった。

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