表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/41

22歳1_傷だらけの棋士と四人の少女

 一昨年は睡蓮と出会い、誕生日のあとでバックダンサーになった。

 そして三人を預かった。瑞香さんとも仲よくなれた、

 去年は誕生日直後のライブに参加し、凌乃を預かった。

 そして今年も、誕生日を過ぎた途端に忙しくなった。

 本当に、毎年睡蓮のせいだ。今年はライブ以外で忙しかった。

 常に四人の進路を考え、自身の進退を考えていた。

 大学は暇になった。卒業は問題ないだろう。ほとんど友だちのできないキャンパスライフだった。

 そして今、誕生日を迎えたばかりの九月。順位戦で全勝していた。人生最大の挑戦が近付いていた。


 そんな折、亜嵐さんから連絡が入る。金はどうなっていると。

 貯金はまだあった。四人と暮らしていく分には当面問題ない。

 昔、試しに買って放置していたものが、とんでもない額になっていた。

 数百倍になっている。浮かれてしまった。気が緩んだ。


 勝てなくなった。

 お金のことばかり考えるようになった。

 糸遊と練習している時に大ポカするようになる。ふざけないでと怒られた。

 集中できていない。常にお金の使い道を考えていた。

 せっかく勝っていた順位戦もこの二か月で二連敗。三勝二敗で折り返しが過ぎた。


 早いもので、前回のライブ出演から一年以上経っていた。睡蓮はあの時のライブを越えられず、停滞が噂されていることを知った。

 年に五回はやっていたライブが年二回になっている。バックダンサーチームはどうなったのだろう?

 睡蓮と話したい。夏頃からメッセージは全部無視されている。

 木蓮さんに連絡し、会ってくれるというので待ち合わせした。


 十一月だというのにまだ暖かい。街がクリスマスカラーに染まりかけていた。日本人は気が早い。一か月前の時点で彩りはじめる。

 こりごりだと思っていたのに、気がつけばお酒の楽しみ方を覚えていた。指定のバーに入る。一時的に貸し切りにされていた。

 木蓮さんが一人連れていた。変装した睡蓮? いや、違う。雰囲気が硬い。

 桜蓮と名乗った。十六歳だという。見覚えがあった。

「もう一人の妹。連理ちゃんに会ってみたかったんだってさ」

 睡蓮と並ぶLotusの中核メンバーだ。どうりで見たことのある顔だった。

「こんばんは」

 声をかけるが反応がない。反応を待っても何も言わないので、上着を脱ぎながら座る。ハイボールを頼んだ。

 じっと私を見つめる桜蓮さんが口を開いた。

「連理さん」

 綺麗な顔で凄い目力。落ち着いて答えた。

「はい」

「初めまして。Lotusリーダーの桜蓮です」

「存じております」

 十六歳とは思えない目力だった。

 睡蓮が敵を作らずに駆け上がる人なら、この人は敵を恐れずに駆け上がる人なのだろう。

「思ってたほどじゃないな」

 吐き捨てるように言うと去っていった。木蓮さんは終始ニヤけている。何だったのだろう?


「ごめんね。あのライブのこと根に持ってるみたいで」

「恨まれるようなことありましたっけ?」

「本当は連理ちゃんの役、桜蓮がやりたがってたのよ」

 あの影の役。私が睡蓮に指名された役だ。

「そうなんですか」

「そ。で、姉妹じゃ切った切られたの張り合いなんてできないでしょって、勝手にレッテル貼られて選考外になった」

「少し可哀想ですね」

「私は桜蓮でよかったと思うけどね」

 私よりも適任だったのだろうか。

「やっぱり凄いんですか?」

「んにゃ」

 一杯目をもう飲み干している。相変わらずペースが速い。

「まあ、桜蓮でも及第点は取れたと思う。ただ、連理ちゃんが凄すぎて誰も次をできなくなったんだよ」

「褒められてるんですかね」

「一応はね」

 気まずい雰囲気になってしまった。お代わりを待つ間静かになる。

 木蓮さんの二杯目が届いた。私はまだ一杯目をチビチビやっている。

「亜嵐さんが剣戟のプロを呼んじゃったせいでもあるんだよ。睡蓮もやる気になって、身体能力的に連理ちゃんしかできないだろうって話になった」

「私以上の人なんてたくさんいるでしょう」

「プロの役者さんならね。でも、睡蓮のファンでバックダンサーチームにいる人じゃ無理と判断された」

「私が行けなかったらどうなっていたんですか?」

「劇関連は取り消し、いつも通りのライブを新曲なしでやってたかな」

 普段より間隔が空いてそれでは、少々盛り上がりに欠けるだろう。

「だから次の睡蓮は凄いよ。しばらくライブを控えてた鬱憤を、全部新曲で晴らすつもりで練習してる」

「それはまた大胆な」

「バックダンサーも増えたしね」

 意外だった。期間が開いて増員していたのか。解散を疑っていた。

「じゃあ、その、私のメッセージが見られもしないのは」

「連理ちゃんともっとやりたかったんだってさ。勝手に辞めたんだから無視してやるって、子供みたいでしょ」

「そんな理由だったんですか?」

 木蓮さんは含みのある笑みを浮かべている。ずっと様子がおかしい。

「だからさ、顔見せに行ってあげてくんない?」

「レッスン場に?」

「うん、明日もやってるからさ。これ使ってよ」

 ケース入りのカードを渡された。バックダンサーのレッスンに行く時に使っていたものと同じ、入場許可証だ。

「偽造カード?」

「本物だよ」

「それはそれで問題では?」

「問題ないよ。ちゃんと許可取ってるから」

 事務所のエントランスから入る時に掲示するカード。

 お礼を言ってカードを確認した。私の名前が書いてある。大事に鞄にしまいこんだ。

 ならばもうここに用はない。ハイボールを飲み干した。喉と腹がカッと熱くなる。

「ここは奢ってあげるから、明日に備えて早く帰りなよ」

「ご馳走になります」

 木蓮さんは笑っていた。というよりニヤついていた。何だか怪しい。

 桜蓮さんが真剣なのはわかった。しかし木蓮さんだ。

 酒の雰囲気でごまかしていたが、どうにも胡散臭い。桜蓮さんの真面目さのギャップのせいか、ずっとすっきりしなかった。


 翌日、木蓮さんから受け取ったカードを手に事務所に向かう。メッセージで細かく指示があった。なぜここまでしてくれるのだろう?

 変装も指示されていた。道中で知人に見つかったら元も子もないという。私はバレても気にしないのに。

 絶対何か企んでる。

 そもそもの原因は睡蓮のメッセージ未読。既読無視ならともかく、メッセージを開いてすらいない。

 更衣室の場所も指示されている。以前とは違う部屋だ。プレートを見て確認する。入ったことのない部屋だった。

 疑いつつも行動するしかない。なるべく普段からいるメンバーのように挨拶しろと書いてあった。

「失礼します」

「はーい」

 更衣室と思ってドアを開けたら目の前に睡蓮の顔があった。

 お互いに見つめ合う。

「連理ちゃん……?」

「睡蓮さん……?」

「ま、まあ中にどうぞ」

「はい」

 更衣室ではなく個室だった。慌ててドアの外に戻る。

 確かにプレートには更衣室と書いてあった。睡蓮は気づいていない。

「来てくれてよかったぁ。でも、どうして入ってこれたの?」

「木蓮さんがカードを貸してくれたんですよ。それより、ずっとメッセージが開かれないから心配していました」

「スマホ、海の藻屑になっちゃった」

「は?」

「夏の旅行先で海に落としちゃった……」

 なんたる間抜けな話だ。

「それでね、連理ちゃんには何とか連絡しようと思ったんだよ。でもお姉ちゃんは教えてくれないし、金井さんに聞くわけにもいかないし、誰に連絡すればいいかわかんなかったんだよー」

「亜嵐さんとか瑞香さんとかいるじゃないですか」

「色々理由つけられて教えてくれなかった。多分お姉ちゃんが根回ししてた」

 妹の不幸な事故を利用し、周囲まで巻き込んでいる。鬼畜じゃないか。

「本当にそれだけ?」

「それだけ」

「スマホデータのバックアップとかは?」

「失くすなんて考えてなかったんだもん」

 なんという危機管理意識の低さだ。私も人のことは言えなかった。帰ったら最低限設定しよう。

「私が勝手に辞めたから怒ってたっていうのは?」

「そんなこと誰が言ったの?」

「木蓮さん」

 はぁーと、アイドルとは思えない長いため息。木蓮さんの顔を思い浮かべているのだろう、宙を睨んで歯を食いしばっている。

「そんなことで怒るわけないでしょ。もっと一緒にやりたかったのはそうだけどさ」

「ありがたいです」

 少し照れくさくなる。睡蓮が時計を見上げて立ち上がった。

「ごめん、そろそろ行かなきゃ」

 つられて時計を見上げる。私がいた頃と同じ練習開始時間だ。

「連絡先交換しよ。練習見てってもいいからね」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 部屋を出て更衣室のプレートを示した。お姉ちゃんめと恨み言を言いながら睡蓮が前を歩く。おかしくなって笑ってしまった。

 睡蓮に続いてレッスン場に入る。隅の方で大人しくしていたら、見知ったスタッフさんに不審者扱いされた。

 キャップをずらして顔を出す。木蓮さんから聞いていたのだろう、にやりと笑って去っていった。スタッフさんまで使っている。しょうもないことをする人だ。

 それはともかく久々のレッスン場だ。空気を吸うと懐かしくなり、体を動かしたくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ