21歳7_傷だらけの棋士と四人の少女
「その前に、三人の事情は知ってる?」
「亜嵐さんから聞いた」
じゃあ話しても問題ないだろう。
料亭に呼び出された時のことからだ。
バイクで向かってと話し始めると遮られた。
「バイク持ってんの?」
「興味ある?」
「いや、足届くのかなって」
「届きます!」
話の腰を折らないでほしい。
亜嵐さんに三人の存在と事情を知らされた話から始める。
最初は木蓮さんが引き取り候補だった。ただ、睡蓮のためにそれはできなかった。
檀さんも預かれなかった。檀さんについては詳細は知らないが、初対面だったので深掘りできなかった。
お金の問題、大手事務所に頼れないこと、睡蓮との関係から私がやり玉にあげられた。
「正直ハメられたと思ったけどね」
「全部仕組まれてんじゃん」
「そうなのよ。だから亜嵐さんは信じちゃだめよ」
「でも助けてくれたよ」
ぐうの音も出ない。そうだ。凌乃は亜嵐さんのお陰でここにいる。
亜嵐さんへの恨みはさておき、三人とあった出来事を話す。
色んなことがあった。まだ半年とちょっとなのに。
采女のわがまま、結葉の入院、糸遊の頑固さ。
そして三人を連れてサボりドライブを決行したこと。
あれは楽しかった。何もかも忘れられた。
「本当に楽しかったよ。怒るなら怒ってみろって感じ」
「その後どうなったの?」
「亜嵐さんにめちゃくちゃ怒られた」
「正座で?」
「正座で」
クスクスと笑い合う。
「でもね」
「ん?」
「私、棋士で鍛えてるから正座全然平気だった」
あれで痛い目を見たのは実は三人だけだった。
三人の手前リアクションは取ったが、実のところ主犯である私はノーダメージだったのだ。
「うわずっる」
「これ三人には内緒だからね」
「うん」
「その後は亜嵐さんに何とかしてもらったよ。色々と謝りに行ってもらった」
「連理さんの対局の方はどうだったの?」
「そっちはガチで怒られた」
凌乃が楽しそうに笑う。
「あーおかしい。半年でそんなことあったんだ」
「半年は今までの期間ね。三人を預かってから一か月でそれだったのよ」
「めっちゃ濃いじゃん」
「頭おかしくなるかと思ったよ」
「三人も預かってる時点でおかしいよ」
「そう思う?」
「うん」
ちょっと間を置く。
「あなたはその四人目なんだけど」
「あ」
なかなか可愛い子じゃないか。頭を撫でてあげる。
「やめて。子供じゃないんだから」
「預けられている時点で子供よ」
「じゃあ連理さんは?」
「預かる側だから大人」
「小さいくせに」
「そうだね」
恐らく私たち五人と檀さんが歩いていたら、私も子供枠と思われるだろう。
正直全員に背丈で負けているのはショックだったが、いじられるのはもう慣れた。
無神経な人はいっぱいいる。でも凌乃のいじりは嫌じゃなかった。
「眠くなっちゃった」
「いいよ。いっぱい寝てね」
「うん、おやすみ」
「おやすみなさい」
私もようやく眠れる。一時間くらいは話しただろうか。
喉が渇いた。水を飲んで寝なおそう。
クッションを並べる前に凌乃の様子を覗く。
ちょっとすっきりしたみたいだ。寝息を立てている。
これなら朝まで大丈夫かな。
リビングにクッションを並べ、眠気に従った。
翌朝。陽の光で目が覚める。
ここ、こんなに眩しかったんだ。
初めてリビングで寝て知る事実。頭の位置が悪かったんだろう、直射日光が顔面に突き刺さっていた。
まだ眠い。でも起きよう。まだ六時過ぎだ。どうせ誰も起きてこないだろう。
お茶を淹れる。いつもの麦茶なら冷蔵庫にあるが、たまには緑茶がほしい。
安い茶葉だけれど節約生活のちょっとした楽しみでもある。実家の地方の茶葉も、最近はスーパーで安く買えた。
お茶の香りをゆっくりと楽しみ、一口啜る。あー落ち着く。
昨日、いや今朝は凌乃に三人とのあらましを語った時、思い出して少し泣きそうになった。
感傷的になっている。気持ちをお茶で落ち着かせる。
凌乃の境遇に同情はしたが、完全に気を許すわけにはいかない。
もし自分の境遇を盾に三人に理不尽なことを迫ったら、きっと私は三人の味方をするだろう。ただ、あの素直に話を聞ける様子から、そんなことは起こらない気がしていた。
そして、凌乃の問題は解決が難しい。
呼び出してストーカーはやめてくださいで済む話ではない。何ならこの居場所がバレたら三人にも被害が及ぶ。
それは阻止しなければならないし、そうならないよう亜嵐さんは動いてくれているはずだ。
眠り足りない頭で考える。
焦っては駄目だ。凌乃がここでの生活を快適と思ってくれれば、ストーカーのことも気にならなくなるかもしれない。
希望的観測だった。それでも他の解決手段がない。
全て推測でしかない。
凌乃の情報が足りない。亜嵐さんと話さなければ。
凌乃がストーカー被害に遭う前、どのような生活をしていたのか。何が原因でストーカーにつきまとわれるようになったのか。
それ以前の学校での評判は? 友だちはいた? 恨まれてなかった? 裏切られてない?
また始まった。頭の中で疑問文ばかり並ぶ。情報は欲しい、しかし今の凌乃を見てあげないと。
そうだ。慣れを感じた頃、結葉が倒れたんだ。安心した瞬間問題が起きる。気を引き締めよう。
亜嵐さんから話を聞く、それ以前のことも調べてもらう。
それと同時に、凌乃のことを自分でもよく知ろう。
話した感じ、派手さの割にしっかりした受け答えのできる子だった。
亜嵐さんが凌乃を助けた。
凌乃は亜嵐さんを信頼している。
その亜嵐さんが連れてきた子だ。
既に三人預かっている。誰も悪い子はいない。
ならば私も凌乃を信じなければ。
思い込みの連想ゲームで小さく覚悟を決めた。
ならば最初にやることは……。みんなで一緒に行動できる手段と目的がほしい。
ノートパソコンを開いた。




