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Invisible scars~傷だらけの棋士と四人の少女~  作者: 罠崖
第一部 傷だらけの棋士と四人の少女
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21/61

21歳5_傷だらけの棋士と四人の少女

「もう一人預かってもらいたい」

 駆けつけ一杯、麦茶で喉を濡らした亜嵐さんはそう言った。

 聞き間違えたと思いたかった。

「もう一度どうぞ」

「もう一人預かってもらいたい」

 頭を抱えた。

 この人はどういうスカウトスタイルなんだろうか。順当に成長したアイドルの卵を、事務所を通してデビューさせるだけでは満足できないのか。

 檀さんは案の定先に知らされていたらしく、それでも困り果てた表情で亜嵐さんを見ている。

 無理ですよねって同意を求めてほしい。何も言ってくれない、ちくしょう。

「何歳の人なんですか?」

 結葉が勝手に話を進める。妙に芝居がかっていた。緊張しているのだろうか。

「お前と同い年だよ」

 結葉が複雑な表情になる。これも少し違和感があった。

 糸遊が采女に楽しみだねなんて言ってる。采女は現実を見ているようで、「狭くなるな」なんて呟いていた。

「そうです。狭いですよここじゃ」

「引っ越せ」

「無理です」

 それができていれば檀さんを引き入れて五人で暮らしている。そんなにポンポン引っ越すわけにはいかないのだ。

 三人の学校の距離や私の通勤ルート、他にも諸々の事情があってここで落ち着いた。出ていく気はない。

「それって、睡蓮さんの事務所の方でなんとかならないんですか?」

 ちょっとした思い付きだ。別に私たちと一緒でなくてもいいだろう。

「そういう手もあるな」

 ふーむと悩んでくれる。逃げ切れたか。

「いや、やっぱりお前だな」

「何でですか!」

「実績があるからだ」

 檀さんがプッと噴き出す。

「あーそうでしたねぇ。結葉を入院させるハメになったり、ちびっ子二人を制御できなかったり、サボってどっかに出かけたり」

 自分の汚点を思い出させる。全部大迷惑を被らせたからだ。

 采女と糸遊に「連理ちゃんの方が小さい」とどつかれる。

「そうだな。次はないと言ったな」

「はい」

「その責任と思え」

「はぁ」

 またまた超理不尽な脅し。しかし今回は応じる謂われもない。

「それにお前は三人を預かる時、『次はない』なんて言わなかったからな」

「普通、それ以上預かれなんて言われると思わないでしょ」

 痛い所を突いたつもりかもしれないが、そもそもそんな話どうでもいい。

「じゃあ多数決でどうだ」

「何人の多数決ですか?」

「お前と檀、そしてその三人だ」

 勝った。糸遊はともかく采女と結葉は現実を見ているはずだ。檀さんも反対に決まっている。

「では賛成の者」

 四人が手を挙げた。

「反対の者」

 私だけだ。

 何が起きているんだ? 檀さんが半笑いで言う。

「もう茶番は良いんじゃないですか?」

「そうだな。決も採れたことだし、めでたく決定だ」

 絶対卑怯なことをしているはずだ。

「檀さんはともかく三人」

 語気を強める。三人を順に睨みつけた。

「何があったか説明しなさい」

「えっと、それは……」

 采女が結葉を見る。

「何て言うか、ねぇ糸遊ちゃん」

 結葉も糸遊に頼る。

「悪者から助けるためであります」

 まるで仕組まれていたコントのようだった。

 ビシッと敬礼する糸遊の言いたいことがわからない。

「もう、私からネタ晴らししますよ」

「頼む」

 亜嵐さんはけらけらと笑った。


「本当に騙すみたいになってごめんね連理ちゃん。実は私と三人はその子にもう会ってるの」

 裏で勝手に話を進めていたのか。私が忙しかったのだからそこは仕方がない。

「連理ちゃん最近忙しかったでしょ。その時に亜嵐さんが連れてきた子でね」

 とある地方でアイドルデビュー間近のモデルの卵、その子がストーカー被害に遭っていたらしい。

 しかしその地方でアイドルデビューすると、確実にストーカーに着け狙われる。

 こっちで引き取ってあげればストーカーも諦めるだろう。距離をおいて時期をズラせば特定は難しいはず。

「さすがに絶対とは言えんがな。距離と時間を置けば狙われる確率は下がる」

「睡蓮さんたちの事務所は大手だし、すぐに情報が出ちゃうでしょ。だったら三人を預かって生活を組み立てている連理ちゃん、あなたが適任だと思ったのよ」

 亜嵐さんの脅迫めいた信頼と、檀さんの切実な雰囲気の信頼では嬉しさが違う。

 いやいや浮かれるな。問題はそこじゃない。

「うちは駆け込み寺ですか」

「アイドルの卵の駆け込み寺か。そりゃいいな」

 何笑ってるんだ。こっちは真剣なんだぞ。

「それで事務所盛り上げましょうか」

 檀さんも悪乗りする。どうも既定路線から外れそうにない。

「連理ちゃん」

 くいくいと結葉に袖を引かれた。

「その子、本当にボロボロで助けてあげたいって思ったの。物凄く疲れてて、その、だめかな」

 結葉とは同い年。だからこその共感があったのかもしれない。

 言い方は悪いが結葉は救われ、今はすくすくと育っている。

 同い年で苦しんでいる子がいるのならば、同じように救われてほしいそうだ。

 結葉が言うならとも思うが、現実的にどうなのだろうか?

 部屋のことはいい。本人がここにきて住みたいと思ったんなら引っ越さなくていい。

 しかし、学校はどうするんだ? 結葉も受験勉強をしているし。そういうシーズンで自由は利くのだろうか?

「時期はいつになるんですか?」

 仮定の話だ。そのつもりで亜嵐さんに問いかけた。

「明日だ」

 なんてこった。断るどころか迷う時間すらくれないのか。

 断るなら三人と檀さんとの関係も絶つくらいの覚悟がいる話だ。交渉とかそういう話ではない。脅迫のようなものだ。

 みんながその子に共感してしまっている以上、私に逃げ道はない。

 一人で暮らしていた頃が懐かしい。大きくため息をついてしまう。

「はいはい、わかりました。名前もお寺さんっぽいし駆け込み寺いちじくやりまーす」

「ちゃんとやれ」

 この人本当に、いつか痛い目を見せてやる。

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