23歳79_Invisible scars
さっきとは気分を変え、私がダイヤを、采女がクラブを持った。
スートに意味はないけれど、さっきの記憶が焼き付いたマーク以外を使った方が、新しいルールに適応できる気がしたからだ。
お互いにダイスを振る。采女が『4』、私が『1』で有利になった。
それぞれの山札からカードを抜き合い、オープンフィールドと名称を決めた目の前の場に並べて置く。
私は『5』の一枚、采女は『3』『8』『10』『J』の四枚だ。
「じゃ、私からだね。連理ちゃん指定をどうぞ」
「私から見て一番右端のそれ」
挑発的に一枚だけ突き出して持っていたので、あえて乗って選んでやった。さあ、宣言は何だろうか。
「宣言ナンバーって言い方にしようか、今回は『K』だね」
いきなり端の数字を削りにきたブラフか、それとも処分したくてあえて浮かせていたのか。
今回は『Q』を出して様子見する。こちらの手札は十二枚、全部が全部素直に応じてやる必要はない。
「じゃあ、オープンで。これも宣言ナンバーと被るから別の呼び方がいいかな」
采女は宣言通り『K』をひっくり返した。私の『Q』を見てにんまりとする。
初手が終わり、私の二枚差の有利でゲームが進む。
二手目、続いて私のカードを采女が指定した。采女から見て右から二番目、『2』だった。
「宣言ナンバーは『2』」
「ほいほい」
采女はすぐにカードを出した。私がオープンとコールすると、采女も『2』だった。
「この場合も、今のルールだとお互い手札に戻すのよね」
「そうだね。お互い宣言ナンバー同士の時は完全に相殺してオープンでもいいと思うけど。どっちも一枚ずつだから」
「それは次のターンからにする? 次のゲームからにする?」
「うーん。お互い宣言ナンバー同士でリスクを取らないままだと逆転要素少ないし、今からどっちもオープンにしない?」
「いいよ」
ルールに書き足す。お互いに宣言ナンバーを出した時はどちらもオープン扱いにすると。
私のオープンフィールドには『2』『5』『Q』、采女のオープンフィールドには『2』『3』『8』『10』『J』が並んだ。
三手目、采女の親番だ。
「じゃあ、今度は真ん中のそれ」
「宣言ナンバーは『9』」
まだ二枚差ある。采女はどこかで打開しなければならないはずだ。宣言ナンバーがそのままカードナンバーなら、リスクを避けたことになる。何かのカードをスルー処理するため、ブラフを言っている可能性もある。不確定要素を早めに作った方が逆転はしやすいだろう。
「はい」
今回は宣言に乗り、『9』を出した。采女は余裕を持ってスルーする。
なるほど、扱いづらいカードを処理したな。
四手目、私の親番だ。采女の示した『10』をそのまま宣言する。采女のオープンフィールドのカードだったので確実に一枚削る。采女が出したのは『9』。これで三つ得ができた。
一つはカード枚数差が三枚に増えた。もう一つは『8』から『J』までの並び順を一方的に潰せた。最後に、さっきのスルーカードが宣言した『9』ではなかったという事実を知れた。
采女がバランスを取る思考ならば、低めの数字をスルー処理していた可能性が高い。ただ、そう簡単な話とは思えなかった。この子はリスクを取ることを恐れないだろう。
五手目、采女のカードを指定する。采女は『5』を宣言。そんなに都合よく私のオープンカードになるものか。それでもリスクを減らして『6』を出した。采女はオープンをコールしカードをひっくり返す。本当に『5』だった。最小限の被害で済んでほっとする。
私のオープンフィールドには『2』『5』『6』『Q』でスルー山に『9』、采女のオープンフィールドには『2』『3』『8』『9』『10』『J』が並んだ。采女のスルーカードは『4』と読んだ。あくまで暫定だ。
理由は『7』は続きの『8』以降がもうオープンフィールドにあり、私のオープンフィールドに既に『5』があること。攻めを意識するなら『4』か『6』のどちらかが指定された結果のスルーだろうから。『6』だった場合はまた考えるしかない。
私の手札は八枚、采女は六枚。状況は有利に進んでいる。
喉が渇いた。思ったより頭を使うし、口も乾く。誰かに水を頼んだら凌乃が立ち上がった。私と采女の分を持ってきてくれる。
「凌乃ちゃんありがとー」
采女は凌乃に投げキスをしている。凌乃は気持ち悪がった。不利なはずなのに采女は余裕があった。
凌乃が私の後ろに座りもたれかかってくる。どうやら派閥が決まったようだ。さっき采女に負けた凌乃が私のカードを覗いている。
六手目、采女が私のカードを指定した。『4』、うーん。『8』か『10』『J』だったら結構楽に勝てそうだったのにな。
さっき宣言された『5』を消費させる目的で『4』を宣言する。采女のカード掲示と共にオープンをコール。予定通り、采女は『5』を使った。これで再び枚数差は三枚だ。
七手目、采女のカードを指定すると、『Q』を宣言された。ここで『K』を使うと対応力が減るので、『J』を出して様子を見る。采女はスルーだった。
どういう作戦なのだろうか。采女視点で考えたいが、自分の手札の戦略も考えなければならない。
私のオープンフィールドには『2』『5』『6』『Q』でスルー山に『9』『J』、采女のオープンフィールドには『2』『3』『5』『8』『9』『10』『J』が並んだ。さっきの『5』を消化させたことでスルー山の『4』の読みは確定しただろう。しかし、もう一枚スルー山にある。スルーはどちらも采女から。何を考えているんだ? 采女目線だと私のスルー山も予想がついていると見て間違いない。
采女の宣言ナンバーに素直に出したカード、『9』と『J』のタイミングでスルー。要は双方手札として持っているカードを、親が子にスルーカードとして引っ込ませる作戦だ。面白いことを考えてくれる。
八手目、私のカードを采女が指定した。『7』を宣言し『8』を出す。揺さぶりのつもりだったが、采女が『6』を出してきたので差分相殺で手札に戻った。お互いに素直に出さないぞという意思表示になる。
九手目、采女のカードを指定する。采女は『A』を宣言。これは勝負に出てきたのだろうか。深読みしても仕方ない。お互いに『2』はドローで使っているので素直に『A』を出す。采女はこれもスルー。同じ数字でオープンに並ぶくらいなら、スルー山に置いて不確定要素にしたいということだろうか。お互いにスルー山にカードが増えた。
私のオープンフィールドには『2』『5』『6』『Q』でスルー山に『A』『9』『J』。
采女のオープンフィールドには『2』『3』『5』『8』『9』『10』『J』でスルー山は三枚、『4』はほぼ確定で、恐らく『A』ともう一枚。
残りは六枚対三枚、押しきれそうな枚数差だ。
十手目、今度は私の親番。采女の指定したカードは『8』、これは順当に削らせてもらおう。『8』を掲示してオープンで勝負する。采女は『7』を出した。これで四枚差。
残る采女の手札予想は『6』『Q』『K』の中から二枚。もしかすると『A』が紛れ込んでいるかもしれない。
十一手目、カードを指定する。采女は即答した。
「じゃあ、『A』」
「え?」
「『A』だよ」
なるほど。『A』はさっきスルーしていなかったのか。
私には『A』も『2』もない。
六枚対二枚、ここで『3』を出せば二枚差が縮められる。それでも有利だ。
『3』と一緒にもう一枚ランダムで引かれた。『4』『7』『8』『10』『K』の中から、『10』だ。これで四枚対二枚。
私のオープンフィールドには『2』『3』『5』『6』『10』『Q』でスルー山に『A』『9』『J』。残り手札は『4』『7』『8』『K』の四枚。ある程度対応力があるバラツキだと思う。ただ、采女にはまだ『A』があり、もう一枚が不明なままだ。
采女のオープンフィールドには『2』『3』『5』『7』『8』『9』『10』『J』でスルー山は三枚、『4』はもうスルー山の中で確定だろう。『6』『Q』『K』のどれか一枚が手札にあり、もう二枚がスルー山にある。
十二手目、カードを指定される。『K』だった。
よりにもよって采女も持っている可能性のあるカードだ。もし采女が『K』を持っていれば、守備を投げ捨てた両端『A』と『K』ということになる。
『10』が残っていればなぁ。『10』を宣言して『K』を出して、もし采女が『Q』を持っていても私は生き残れた。しかし、この状況は『K』を宣言して延命するしかないだろう。
「じゃ、『K』ね」
「うーん、やっぱり負けかぁ」
采女がカードを出す。オープンを宣言した。
采女のカードは『Q』だった。これで四枚対一枚。ひやりとした。もし采女の『Q』が『K』だったら、お互いに『K』をオープンフィールドに置いて三対一になっていた。この場合、次の采女の『A』に対し、私は『4』しかないので二枚差が覆って負けになる。
そして采女のカードは『A』しかない。一応最後まで進行した。
勝負の決した十三手目、采女が唯一の手札『A』を宣言し、私が残っていた『4』を出してオープン勝負。『4』を残り差分の二枚『7』と『K』と共にオープンフィールドに置く。お互い一枚同士になる。
十四手目、最後のカードは何でもよかった。最後の一枚、『8』が選ばれて宣言通り掲示する。私の『8』に対して、采女の『A』。一枚しかない状態から七枚分減り、采女は六枚のバーストになった。
結果は一枚対マイナス六枚。勝敗はギリギリの差だった。
最初の三枚差からずいぶんと詰められたものだ。水を飲み干してため息を吐く。
「ダイス差が響いたねこりゃ」
「それ以上に、最初のカードがきつかったんじゃない?」
「うん。だからスルーして、連理ちゃんの同じくらいの数字を封じたんだよ」
そういうことだったのか。スルーした順番を教えてもらった。
「最初の『9』を宣言した時は『4』を、二回目の『Q』を宣言した時は『K』を、三回目は『A』を宣言した時に『6』をスルーしたよ」
「『6』は確実に私の手札を削れたよね? やっぱり『7』や『8』がこっちにありそうだから、『6』を出しても足りないと思ったの?」
「うん。正直攻め手は『A』でなんとかできると思ったんだよね。連理ちゃんは『K』を最初に出し渋ってたから、こっちは全然出てこないだろうなーって思ったし」
「そこまで考えていたのね」
「おかげで疲れたよー! 負けちゃったしさ」
あれだけ最初に有利な条件をもらったのに、最後はかなり詰められてしまった。
最後の枚数差がマイナスに振り切った分、ポイントにするようなルールでなければ僅差での勝利ということになるだろう。
「最後は一枚同士になっちゃったよね。あの前で確定だったけれど」
「そうだね。もし、親が二枚で子が一枚の時は、これをスルーで削り取れるのはルールとしてありでいいのかな」
「いいんじゃないの? その枚数差の時点で勝敗確定にしちゃえば」
「でもなぁ。最後の『A』対『8』も、枚数差をポイントにすると私の七点負けでしょ? そういう判定負けより、最後までギリギリの勝負したくない?」
「そういうルールがあってもいいかもね」
「うん。その辺ルールの分岐で書こうよ。基本を勝敗数にするか、最終ポイント差にするかで戦略変わってくるし」
「そうだね」
糸遊のメモ書きに追加する。うん、これはいい感じにまとまったんじゃないだろうか。
今日はもう遅いことだし、明日にでも常務さんにメッセージを送ろう。暇があるようならどこかで采女を紹介して、ルールの意図を説明させるのも悪くない。
「采ちゃん、あんた凄いね! もうすぐ連理さんに勝ちそうだったじゃん」
「惚れた?」
「それはない」
凌乃と采女のおちゃらけに付き合ってはいられない。さっさとシャワーを浴びて寝る準備をしなければ。
「はいはい。今日は私のせいで遅くなっちゃったけれど、そろそろみんな寝なさいね」
不満そうな声が上がる。それでもきっと寝てくれるだろう。みんなもうすぐ夏休みだ。夏休み前に遅刻させるわけにはいかなかった。
「あー、あと采女と凌乃。次の土曜日に燈火さんとお昼の食事に行くから空けといてね」
「はーい」
「ついに燈火さんに会えるんだ。楽しみー」
こんなに興奮して凌乃は眠れるのだろうか。寝る前に余計なことを言ってしまったかもしれない。




