6話 怪しい動き (6)
オスタリア公国の現状は、今や危うい状況だった。
軍事国家アネスタ王国と血気盛んなナニス王国に
挟まれた面積なら一番広いが、だいたいが農地で
作物は豊かに育つ土地だった。
戦になれば農地は荒らされ食べ物さえも取れなく
なってしまうのだ。
なんとしてでも戦は避けたいところだ。
だが、ナニス王国の申し出は元ナニスの王女であ
った、アンネの子供であるメノウに国を継承させ
る事だった。
それを約束に和平の道を承諾したのだ。
だが、先日の第一王子イーサの毒殺事件によって
メノウは容疑者疑惑が持ち上がったのだ。
そして部屋で軟禁中に国から出国してしまったと
言うわけだ。
これを言ってしまえば、きっとすぐにでも戦になる
事だろう。
それだけは避けたいオスタリアが取った策は。
♦︎♦︎♦︎
「本当にこれで大丈夫なんですか?」
「それ以外は無理でしょうね。確かに見た目だけ
ならそっくりですし、声もそのままです。です
が…………」
チラリとタヒソがメノウを見つめると大きな溜息
を漏らしたのだった。
「何か問題かな?」
「いえ、まずは服を着崩して下さい。あとは、言葉
遣いですね、もっと乱暴に、一人称は『俺』でお
願いします」
「あぁ、そうだったね。俺なんて使わないから忘れ
ていたよ」
「それでよ、言葉が丁寧過ぎるんです」
「分かった、分かった。気をつけよう……気をつけ
る」
「………いつものメノウ様を知らないのを良かった
と言うべきですかね」
タヒソは変身薬の成功を確認するとその後の注意
事項を述べたのだった。
「まずは、出された飲み物はまず口にしない事。
変身薬を解く解毒薬を混入させているかもしれ
ませんからね。ペリド王国には錬金術師の国
ですから、最新のポーションレシピも開発さ
れたと言われているそうです」
「それは凄いな」
「凄いですよ。魔道具も今まで見た事のないよ
うな物も多くあるそうです」
「………メルバルトの老人が行かなかったのが
不思議ですね」
「師匠はいつもこの国を出て、ペリド王国へ行
きたがっていましたよ。ただ、国一の錬金術
師でしたからね。出国は犯罪になってしまう
のですよ」
「………」
それからは色々と注意事項を並べ立てられると
イーサはうんざりした顔を見せた。
「タヒソ、君は私に恨みでもあるのかい?」
「恨みなんてありませんよ。ここでイーサ様が
しっかりメノウ様になりきれるかで今後の国
の行く末が決まるのですから、しっかりして
いただかなくてはとは思っておりますが」
少し嫌味っぽい気はするが、国を憂いての事だと
はわかる。
結局は国の存続の為なのだ。
いつからメノウと話さなくなったのだろう。
彼はいつも身体を動かすのが好きだった。
剣術も嫌いじゃなかったはずだが、兵士の前でイーサ
に負けてからというもの、剣術身が入らなくなって、
訓練時間にも姿を見せなくなった。
自分勝手で、我儘なのだ。
しかし、それが国の大きな問題だとは思ってもみな
かった。
それほどまでにメノウの母親は力を持っていたという
事だろう。




