23話 森の異変 (3)
翌朝、再び森へと足を踏み入れる事になった。
「トレントの森」は昨日のようにそこらじゅうにいた
はずのトレントは消え失せ、今はただの不気味な森へ
と変わり果てていた。
「見当たらねーな」
「そうですね。全く魔力の動きが感じられないよう
ですね」
「まるで昨日の今日で警戒されたみてーだな」
「魔物にそんな考えがあるでしょうか?」
「ない……と思うが、そう言い切っていいのかって事
だろ?ジジイからは何も聞いてないのか?」
知識と言えば、遙の師匠が一番詳しいのだった。
その知識を受け継いだ遙は書物では知っていた。
トレントの属性や、相性の良い魔法。
倒し方……などは知ってはいる。
だが、いきなりいなくなる理由まではわからないの
だった。
「トレントが元は精霊だったというのは知ってますが
それが木に宿って魔物化したと考えられているよう
です。トレントの材木は丈夫でしなやかなせいで、
需要が多いとか……あれ……そういえばトレントって
木から生まれるって……」
「木が木から生まれるのか?親を倒せば大人しくなった
りしてなっ!」
「………それですよ!元の木を見つければいいんです」
メノウの呟きに遙は思い出すように語った。
トレントの森はそもそも、もっと狭かったはずなのだ。
昔は大きな巨木があって、そこには多くの精霊が住ん
でいたという話を。
♦︎♦︎♦︎
昔、人と精霊が共存していた時代があった。
大きな巨木のそばには綺麗な湖があり、そこには
数多くの動物が集まり少し離れた場所には人の暮
らしが栄えていた。
村という割には人口も多く自然豊かな村だった。
だがある日、村に冒険者が現れると精霊を捕まえる
と契約を強要したのだった。
魔法の使えないその者達が目をつけたのは精霊魔法
だった。
精霊と契約をする事で魔法と言う力を手に入れるも
のだった。
だが、それに飽き足らず精霊を捕まえては売り捌く
ようになったのだった。
それを憂いた巨木は自分の分身を作った。
それが小枝から作られたトレント達だった。
そこにはドライアドが住み、人と戦う事を決意した
のだった。
こうして狭かった森が大きく成長するまでになった
経緯だった。
そして、人の手によって捕まった精霊達は過酷な
環境の元、契約もままならぬまま死んでいった。
なぜなら、その巨木のそばを離れると精霊達は生き
てはいられなかったのだ。
だが。それを知らない人間達は何度も精霊を捕獲し
に来たのだった。
それに対抗した巨木は一人のドライアドを差し向けた。
綺麗な女性の姿をした彼女は人の姿を模して村で暮ら
すようになっていった。
村に馴染むと人との間に子供を授かった。
しかし、その頃には精霊の乱獲は進み逃げ惑う精霊達
の悲鳴が森のあちらこちらに響くようになっていた。
契約は強制されて出来るものではない。
せっかく生まれた精霊も人の街へと運ばれる途中で自戒
する者もいたほどだった。
彼女は当初の目的の元、冒険者達に近づいた。
幻覚を見せては追い払うようにしたが、また別の冒険者
が現れるのだった。
キリがないと判断すると、村の住人全員に幻惑をかけ
たのだった。
そして森の奥深くへと連れていった。
マザーの根の側に村を作った。
そこで暮らせるようにと生活基盤を整えた矢先の事
だった。幻惑が切れた村人が異変を感じて逃げ出し
てしまった。
そして、森に巡らせた罠であるトレント達によって
殺されてしまったのだった。
彼女の夫も、子供も……。
悲しみに暮れた彼女は、それ以来この森に入って来た
冒険者を森の奥に連れて行き魔物の餌にするようにな
ったのだった。
今日も巨木からの指示で森の浅い場所へと来ていた。
すると、かつてあった村に二人の青年が来ていた。
まだ幼いせいか息子を思い出させた。
彼女はそっと様子を眺めていたが、ふと彼らの前に
出ようと考えた。
姿を変えると小さな少女の姿へと変わる。
今、さっき親と逸れたかのような不安そうな顔を浮
かべると彼らの方へと歩いていったのだった。




