14話 昇級
凍り漬けになった屋敷の中で遙を見つけた。
それは殴られた痕に、手の甲に刺さった短剣。
故意に刺したとわかる状況だった。
上から押さえつける男の姿。
その男が何をしようとしているのかも理解できる
姿で固まっていたからだ。
「じゃ〜溶かすぞ」
「あぁ、やってくれ」
そう言って遙とその上に馬乗りになった男の氷を
溶かしたのだった。
急に動けるようになった男の顔は強張り、すぐに
逃げ出そうとした。
だが、そんな事を見逃すネイサンではなかった。
すぐに捕まえると魔法の樹木が男の体を拘束した。
遙はというと呆然とした様子で動かなかった。
「おい、ハルカ!」
「…………」
「あの魔道具を止める方法はないのか?」
「魔道具………えーっと、あれは……」
そう言うと部屋のすみに転がっていた筒状の魔道具
を指した。
「そのまま剣に魔力を流したまま真ん中を叩き切れ
ば止まるよ」
「叩き切ればいいんだな?よし、任せておけ」
メノウのそばから離れるとどうしても剣の効果は消
えて、身体が凍り始めた。
ネイサンは現行犯で捕まえた男と共に身体が凍る寸
前で冷気が消えたのだった。
部屋にいた人間達の氷を順番に溶かしながら捕縛し
ていく。
後で事情を聞かなければないからだった。
♦︎♦︎♦︎
屋敷中氷漬け事件も無事に解決した。
その裏では、色々と動きがあったのだった。
「まずは君に聞きたいんだが、あの魔道具は一体何
なんだ?」
「………」
「話さないのもいいんだが、それだと君の立場が悪
くなるんじゃないか?」
ギルド長のネイサンは事のあらましを事前に他の
冒険者から聞いていた。
まだ子供だが、あきらかに異常なほどのクエスト
をこなしていた。
ホルンの街のギルドに問い合わせてみたが、彼の
優秀さばかりを誉めていた。
それどころか、パルポロ長官すらも味方したのだ。
こんな事は前代未聞だった。
コンコンッ。
とノックが響いた。
「はい……」
「あの、パルポロ長官がお見えです」
「どうぞ、通してください」
そう言われて、入って来たのは紛れもない、長官
本人だった。
「この度、ハルカくんのことで問題があったと聞
いてね。私にも聞かせて貰えるかな?」
「はい、そうですね。いいでしょう、事の発端は
とある冒険者の僻みだったそうです……………」
そう言うと、ガルイドが興味を持って、その部下の
一人が有名なサディストである事。
その標的にハルカが選ばれた事。
ハルカ自身が自分を守る為に使った魔道具の事を
話したのだった。
そもそも、見たことも来たこともないような作り
で、その性能も未知数だった。
建物全体を凍らすなど前代未聞なのだ。
それも魔法ではなく誰にでも扱える魔道具だとい
うのだから、驚きでしかない。
「ハルカくん、スフューエンから聞いているが、君
は本当に規格外だね。君ほどの錬金術師は滅多に
お目にかかれないと誉めていたよ」
「師匠がすごかっただけだともいますが…」
「いや、謙遜しなくてもいいよ。それと君の誠実さ
も高く評価しているのだよ」
「それは、ありがたいのですが。僕にはそのような」
「否定は良くない。君はちゃんと実力を示すべきだ。
もし、それで問題が起きるようなら私が責任を持
つとしよう。それでいいかね?」
「はい、長官自ら来てくださったのです。疑う理由
もありませんよ」
結果、後日目の前で魔道具の作成を見せる事で話
はついたのだった。
それと、ガルイド含めた部下達とパーティーメン
バーはギルドから除籍となり、犯罪を犯した者は
即刻奴隷として商品になるのだった。
名前を連ねていただけの者も処罰対象に入っていた。
その理由は至極当たり前な理由だった。
ガルイドの行いを止める立場のメンバーが誰一人と
して止めなかったとして、同罪と判断されたのだ。
屋敷には数名の魔術師も在籍していた。
魔法を使う間もなく氷付けになったという不名誉
な事もあってか奴隷落ちしてもさほど高い値はつ
かなかったという。
それは後日パルポロ長官が話してくれたのだった。
遙の魔道具作りは、誰の目から見ても見事なほどに
洗練されたものだった。
「これは見事な出来栄えだな」
「確かに、ここまで細かい魔道回路を見た事がない
ほどです。それに、この回路………見た事がない」
「これは灯りをともすものです。それからこちらに
派生したのは……」
目の前で出力を抑えて実演してみせた。
下のつまみを回する魔法が出る仕組みだ。
ここに刻み込んでいるのは氷結の魔法だった。
部屋の中で火は危ないので氷結にしたのだ。
「危ないですから少し離れてて下さい」
少ない魔力で最大の効果を。
その意味のまま、魔術が発動した。
目の前の水差しが凍ると、灯りに戻したのだった。
「こんなに早く出来るとは……国に知れたら、王宮
お抱えの錬金術師にもなれるぞ」
「僕は冒険者なので……仕える気はないです」
遙は迷う事なく即答したのだった。
「はははっ……実に強気じゃな。だが、嫌いじゃなない」
長官は嬉しそうに笑ったのだった。
ギルド長のネイサンは呆れたようにため息を漏らしたが
またいつもの鋭い目つきに戻ったのだった。
「この度の事はイレギュラー過ぎますが、Bランク冒険
者を倒したと見て、Bランク昇級としましょう」
「え?」
「なんですか?不満ですか?」
「いえ、だって……Bランク昇級は戦闘試験だって…」
確かに魔道具で多くの人を戦闘不能にしたが、それは
遙自身も同じく戦闘不能になっていた。
メノウが来なかったらまだ凍ったままだっただろう。
そう思うとゾッとした。
早く見つけてもらって助かったが、あのままだったら
全員死んでいたかも知れない。
確かに、凍るだけなら死ぬこちはない。
だが。何時間も凍ったままだと身体全身が低い状態に
なって低体温症になるのだという。
結果、ガルイドが儲けた分は慰謝料として遙達の手元
へと渡ったのだった。




