18話 魔道具の便利さ
コツコツコツコツコツ…。
コツコツコツコツコツ…。
地道な作業だった。
「結構時間がかかるんですね……」
じっと見ていた遙は欠伸をしながらメノウが鉱石
を掘っているのを眺めていた。
まぁ、実際に手当たり次第掘って、その中に硬い
塊があるとそれを砕いて鉱石の破片が見つかれば
籠に入れていくという単純な作業なのだ。
だが、実際にやっているのを見守っていると、
なかなかに何も出てこないのだった。
遙は自分の欲しい分だけ魔道具で回収できたので
退屈そうだった。
必死に掘っているメノウはというと、汗水垂らし
て掘り続けている。
「くっそぉ〜、なんで今日は何も出てこねーんだ
よ…………」
「手伝いましょうか?」
「さっきのを貸してくれるのか?」
「まさか……あれはダメです。でも、ツルハシの
代わりになるものなら貸せますよ?」
そう言って取り出したのは、師匠と初期に考案し
たドリルだった。
鉄に硬い鉱石の刃を取り付けただけのもので、
とってを握りながら魔力を流すだけで前の刃が
回転して掘削作業を楽に行えるものだ。
「なんだよ、これ?変な形だな……」
「それを持って魔力を流して見てください。前の
部分が回転するので、それを押し付けると、
簡単に掘っていけるんです。」
説明すると、早速メノウが使ってみた。
一気にあれよあれよという間に、少ない力で岩が
砕けていく。
選別は自分の手で行わなければならないが、一番
力のいる作業がこの魔道具によって簡単に行える
ようになったのだった。
「なんだよこれは!すげー楽じゃねーか!」
楽しくなったのか、どんどん掘り進めていく。
途中手を止めると、堀った中から鉱石の破片を見
付けると籠に放り込んでいった。
前に来た時よりも多く取る事ができた気がする。
一人より、二人。
いや。遙の持っている魔道具様と言ったところだ
ろう。
それと、魔力をみるレンズを通すと、鉱石が含ま
れている岩はほのかに光を帯びていた。
「これは楽だな……しばらく貸してくれよ?」
「ダメですよ、自分の力で努力する事を覚えなきゃ
今日は特別に貸しただけです」
これは師匠との約束だった。
遙の作った魔道具は、極力世に出さないように…と。
師匠はいつも遙の考えるものは規格外だと言っていた。
現代であった便利なものを再現しようとしているだけ
なのだが、それのどこが規格外だというのだろう。
魔法がある世界に来たのだから、色々とやって見たい
と思うのは不思議ではない気がする。
攻撃魔法は実際使えないので、魔道具を通して攻撃
魔法に変えたり、時間制限ありの魔法だったりと、
普通の魔法使いのように簡単ではないのだ。
それでも遙は諦めなかった。
よりスムーズに魔法が使える補助具を必死に開発し
たのだった。
その一つが、今持っているランプだった。
魔法を込めたランプで、暗い場所では光として周り
を照らし、魔物が現れれば、即座に攻撃魔法を放つ
魔道具になる。
メノウが必死に選別している間に忍び寄ってくる
魔力の塊を見つけると、ランプの下のつまみをぐ
るっと回転させた。
ランプの色が変わると青色になる。
「全く、邪魔しちゃ困るんだけどね……」
そういうと、魔力の塊が近づいて来た方へと向けた。
青い炎がゆらめくと、あたり一面が凍りついた。
洞窟などで見られるワームと呼ばれる魔物だった。
大きな身体をくねらせて、穴を掘りながら進む。
見た目はまるでミミズのような身体をしている。
だが、実際は先端に開いた口から餌を丸呑みし、
胃液で溶かしてしまう。
なんともえぐい魔物だった。
それも、寒さには弱く、凍らせると身体の大半
が水分のせいかすぐに身体が凍って、そこに刺激
を与えようものなら、砕け散ってしまうのだった。
必死に選別しているメノウの邪魔をしないように
と、静かに片付けておくのだった。
人間の話声が近づいて来ると、メノウの手にあった
ドリルを回収した。
見つかって下手に触れ回るようなこと事をされると
困るからだった。
「おー、お前らこっちで掘ってたのか〜。こっちは
地盤が硬いだろ?向こうのが柔らかくて堀やすい
ぞ……ってすげー掘ったな?」
周りに散らばった岩の残骸を見ながらいう。
さっき堀ったばかりの岩はまだ浅い色をしている。
だから、今さっき掘ったと分かるのだと言っていた。
「もうそろそろ日も暮れるので、僕たちは帰ろうかと
思っていたところです」
「そうなのか?今日は弟も一緒か?ここは魔物も出る
から気をつけろよ〜」
注意だけして戻っていった。
気にしてくれたのだろう。
親切な人だったようだ。
「知り合いですか?」
「あぁ、昨日一緒に組んで鉱石採取をしたんだ」
「そうですか……まぁ、他の冒険者とも仲良くやれる
のはいい事ですからね。ですが、自分の身分を軽々
しくあかすような事はしないでください。僕らは追
われているという事を忘れてはいけないのですから」
「あぁ………分かってる………」
少し寂しそうな表情を浮かべると今日はこれで引き上
げる事にした。
帰りはポーションを飲んで帰ってきた。
本当に疲れ知らずだった。
いくら歩いても平気なのは不思議なほどだ。
遙は普通のポーションを使った事がないので、師匠が
作ったやつと、自作のポーションしか飲んだ事はない。
だから、普通はその場の疲れが取れたり、軽い切り傷
が治るだけだとは知らないのだった。
「下級ポーションって便利ですよね……ふふっ、これ
からは安いし、仕事前に飲むのもいいですね」
「おい、それのどこが下級ポーションだよ。ハルカ、
お前常識ってのを知らねーのか?」
「……常識についてメノウさんに言われたくはないです」
「言われても仕方ねーだろ?指を切ったり、軽い火傷
に使われる下級ポーションで体力の持続回復なんて
機能はないんだっつーのっ!」
メノウは部屋の戻ると、さっき起きていた事を巻くし
たてたのだった。
「そもそも、こんなのポーションじゃねーよ!上級
ポーションでも、こんな性能ねーよ!」
「そうですか?エリクサーがあるくらいだし、あっ
てもおかしくないでしょう?」
「おかしいだろ!そもそもエリクサーなんて伝説上
の物だろ!それがあればイーサは……」
言葉に詰まる。
遙は首を傾げると疑問でしかなかった。
「エリクサーは2本作ったんですよ?一本はここに。
もう一本は師匠の机の中に。師匠の指示だったので
置いてきましたから、大丈夫だと思いますよ?」
「どうして……」
「貴方も見たでしょ?僕が寝てるうちに姿を入れ替え
たんだって……、僕は牢で目が覚めたら師匠の姿で
したから、きっと師匠は僕の姿で………。寝る前に
言われたんです。ここからすぐに出ていくように。
きっと、全てをわかっていたんでしょうね。」
やっと腑に落ちたという表情だった。
あの老人が未来を託した青年。
突拍子もない発明や、発想。
もう、普通とは思えなかった。
「『落ち人』だったんだな……お前…」
「………」
「なら納得だわ。あのジジイが隠すほど、気が合うっ
て事はそれだけ才能があるって事だ。奴隷として突
き出すには勿体無いほどだって事だな……」
「突き出すつもりですか?」
「いや、そんなことしても無意味だろ?俺の身分は
変わらねーし、もう国にも戻れねー。なら、お前と
一緒にいた方が面白いだろ?」
メノウは復讐など考えないのだという。
多分、国にはメノウを罠に嵌めた人間が平然と暮らし
ているだろう。
だが、それを正す事もせず、普通の平民として生きて
行くというのだ。
力があるわけでもないし、仲間がいるわけでもない
現状ではそれが最善ともいえる。
「力をつけてから、国に戻るつもりもないと?」
「ないな。俺さ、兵士にさえバカにされてんだぜ?
戻っても何もできねーよ。雑務処理もできねーし
ただのお飾りになるだろ?それに……あそこにい
たら、こんなワクワクするような冒険できねーだろ」
毎日は大変だが、メノウにとっては生き生きしている
というのだ。
「だったら、もっとお金を儲ける事を考えて下さい
今日は結構収入がありましたが、いつもは少ない
のでしょう?」
「あぁ、それは……分かってるって」
こうして、遙の素性はバレたものの、さほど変わら
ぬ現状に少し安堵したのだった。




