3話 師匠と弟子
まだ5才の少年に出来る事など、たかがしれていた。
掃除は箒ではいて、埃を落とすくらいで、洗濯は
魔道具から出て来る水を使い洗濯板の上でゴシゴシ
とこするというものだった。
あまりにも原始的なやり方だった。
「師匠、これでは効率が悪くないですか?」
「じゃが、洗濯とはそう言うもんじゃぞ?さては、
面倒になったかの?」
「そうではなくて……せっかく水が出るなら桶の
中で回転する様にしたらどうかとおもうんです」
「桶の中で回転?それはどう言う事じゃ?」
メルバルト・ファオニンこと、遙を拾った老人は
遙の保護者となったのだった。
落ち人には人権がない。
だから拾った人が自由に売り捌く権利が与えられる。
いわば、奴隷として扱ってもいいし、奴隷商人に売
ってもいいと言う事だった。
身分が付くと、犯罪となるのでよく生まれた子供を
教会で身分が固定される前に攫う事も度々あったと
いう。
そこで、老人は自分の養子として登録して教会へと
連れていったのだ。
教会では5才から6才になる子供に適性を与える。
遙にはなんの適性もないと判断された。
そして魔力がないとも。
しかし、人間誰しも少なからず魔力はあるもので
ここまで全くないというのは珍しいらしい。
そこで老人の家にある特殊な魔道具で測った末
魔力があることはわかった。
だが、それは外に出せないだけで体の内側に宿
っているそうなのだ。
それからは、魔力を使う訓練をさせられている。
洗濯板に触れるとゆっくり魔力が流れていき、
洗っている洗濯物を浄化しようとするのだ。
擦れば擦るほど、綺麗になるとはそう言う事な
のだった。
「ハルカ、お主の国では変わったものが多いの
じゃな」
「魔法とは無縁の世界でしたから…、それで出来
そうですか?」
「う〜ん、まぁ、出来るじゃろうが……ハルカよ
自分で作ってみんか?」
こうして、魔道具の基礎を学ぶ事になった。
時折り、かつての弟子だった人が尋ねに来る事は
あったが、決して遙に会わせる事はなかった。
「お客様は、帰りましたか?」
「あぁ、全く出来の悪い弟子だ。わしの元を去っ
たと思ったら、ほれ、向こうに見える塔が分か
るか?」
老人が指した方には、遠くの高い塔が建っていた。
「あれは?」
「赤の錬金塔じゃ。昔はここだけじゃったのじゃが、
弟子が逃げてから、向こうで弟子を取って錬金術
の研究をしておるそうじゃ」
「お弟子さんなのに?」
「あぁ、あんな出来の悪い弟子じゃが、ポーション
作りには長けておったからの」
この老人は錬金術師としては超一流なのだそうだ。
だが、性格的に難ありで人と関わろうとしないのが
今、一人でいる理由だと思う。
「まずは、簡単な錬金術を教えてやろうかの」
そう言うと古い鍋を取り出した。
変わった形をしており、微かに周りが光って見えた。
「これは……」
「錬金鍋と言っての、この中に材料を入れて魔力を
流すと……ほれ、見ておれよ」
鍋の縁に触れると水が湧き出てきた。
その中に薬草と鉱石をチョポンと落とした。
ただの水に見えた液体に触れると薬草も硬そうな
鉱石も綺麗に溶けて色が変わった。
「これからが仕上げじゃ」
老人は手に持った杖を鍋に入れると掻き回した。
色が徐々に変わっていき、光が放たれる。
すると、中にあった水はいつの間にか消えて、鍋
のそこには小さな小瓶がコロンっと落ちていた。
「これがポーションと呼ばれるものじゃ」
「これが………ポーション……」
遙が手に取ると、いきなり目の前に小さな画面が
浮かんだのだった。
「回復ポーション……小さな傷などを治す薬で、
病には効果はない……」
「なんじゃ、鑑定は使えるのか?」
「いえ、今目の前に出てきて……」
遙が慌てて今の状況を説明すると、老人は笑いな
がら、言った。
「それを鑑定と言うんじゃ。そうか、そうか、鑑定
が使えるとはな…いい事じゃ」
嬉しそうに言う老人の意味が遙にはまだ分からなか
った。
が、その後ある重大な事を聞かされて、納得したの
だった。
遙の体の中には魔力があるのは老人の魔道具で判別
できたのだが、自分では使う事ができない。
それで教会では魔力無しと言われたのだ。
だが、魔力はあるのに使えないと言う事は、体の中
に魔力が溢れ、いつかそれが崩壊すると言うのだ。
それは数年先かもしれないし、数ヶ月後かもしれな
いのだという。
それを防ぐには、まず魔力を外に出す必要があった。
洗濯板には触れた者の魔力を吸い取って浄化する
効果があった。
それで老人は毎日遙に洗濯させていたのだった。
遙の魔力がどれほどあるのかはまだ未知数だったが、
自分で出せないのなら、吸い上げる様な魔道具作り
が合っていると思って錬金術を教える事にしたらしい。
本来なら5才の子供に出来る事ではないのだが、遙は
その日、老人の作った物と同じ物を見ただけで作って
見せたのだった。




