2話 住む家
一人の老人が現れると、遙を見ると驚いた顔をして
寄ってきたのだった。
「これは珍しい髪と目をしておるの。どこの子じゃ?」
「どこのって……子?」
遙は疑問で返した。
いくらなんでも32才になって子供扱いはあり得ない
だろうと思ったからだった。
「僕は子供という歳ではないです」
いたって丁寧な口調で言うと、老人が笑い飛ばした。
「子供がそんな事を言うとわな〜、面白い子じゃな。
この様なところにいつまでもおっては魔獣に食べ
られてしまうぞ?まぁいい、親が見つかるまで家
にくればええぞ」
そう言うと、老人は遙を軽々と抱き上げると抱え上
げたのだった。
まさか、大の大人を軽々と持ち上げる老人とは!?
あまりにも驚きな出来事に、自分の方が小さくなって
いる事を気づくことができなかった。
家と言われて連れてこられた場所は、大きな塔だった。
青い色で塗られた外壁に至るところが汚れており、今
にも倒れそうなほど古い塔の様だった。
「ここはどこですか?」
「ここはな、青の錬金塔じゃ。錬金術師が実験や研究
を行う場所じゃよ」
「錬金術師?それはどう言った……」
そこまで言うと、再びお腹が鳴った。
老人は笑いながらパンとチーズを持ってくると遙に差
し出したのだった。
「ほれ、これでも食べるか?」
「ありがとうございます」
遙はパンを手に取るとパクッとかぶりついた。
硬くて歯応えのあるパンだった。
日本ではこんな硬いパンは見かけた事はない。
柔らかくてふわふわなのが主流なので、少し困惑した。
なんとか、食べ切ると立ち上がってもふらふらしなか
った。
「あの……すいません。ここは一体どこなんですか?」
「知らんのか?オスタリア公国の青の錬金塔といえば
有名なんじゃがな〜」
「あの、錬金術師ってどう言う事ですか?僕は一体ど
こに来てしまったんでしょう……」
そう言いながら横をチラリと見た。
机の上にあった鏡が見えると、そこには見知らぬ子供
がこちらを見ていた。
「子供………」
ふと、立ち上がると鏡のある方へと歩く。
手に持つとじっと眺めた。
黒髪に黒目。
それは変わらないのだが、どうにても5歳児にしか見
えない自分の容姿に絶句したのだった。
「変わった子供じゃのう。名前はなんと言うんじゃ?」
「………」
「わしはこの錬金塔の主でメルバルト・ファオニンじゃ」
「はるか………綾瀬遙です」
「ハルカか……変わった響きじゃのう。まさかお主は…
別の世界からきたのかの?数十年に一回『落ち人』と
呼ばれる人間がいてなぁ〜異世界から落ちて来る事が
あるんじゃ。その特徴が黒目黒髪と言われておっての」
「落ち人……じゃ〜僕は帰れないのですか?」
まだ仕事が中途半端なのだ。
コンビニだって商品を落としたまま拾っていない。
いきつけの場所で、会社から近いので行きづらくなるの
は非常に困る。
「お願いです。返してください」
「ハルカよ、それは無理じゃ。この世界の魔法はそこま
で便利ではないのじゃよ」
そう言って老人は使っていない部屋を案内してくれたの
だった。
この塔は錬金術師達が住む場所だと説明された。
遙の様に錬金術師でもない人間は国の管轄であるこの塔
に住んではいけない決まりがあるらしい。
そこで遙は住み込みで掃除や洗濯。食事などのお世話を
するという理由をつけて老人と一緒に住む事になった。
落ち人なら家族はいないし、帰る場所もないからだった。




