25話 裏切り者
真っ黒なフードを被った男は迷う事なくメイドの前
まで行くと、口を開いた。
「首尾は?」
「上場よ。疑心暗鬼になってるわ。アンネ王妃なん
て倒れたそうね」
「おい、母上が倒れたってどう言う事だよっ!」
メノウが口を挟むとメイドは嘲笑うように返事を返
したのだった。
「当然よね〜自分の息子が大罪を犯したんだもの。
これで王妃の座から転落って事もあり得るわ」
「おい、それくらいにしておけ」
「えぇ、そうね。じゃ〜早く逃してくれる?」
「分かっている。今鍵を開けるからこれを飲んで
おけ」
そう言って渡した小瓶には何やら紫の液体が入っ
ていた。
「毒で私も殺そうなんて思ってないわよね?」
「仲間を殺すと思うか?安心しろ。これはただの
睡眠薬だ。起きた時には安全な場所に運んでや
る。」
「そう……それならいいわ。お金も忘れないでく
れる?」
「あぁ、分かっている。早く飲め」
男が鍵を開けると、メイドは小瓶の液体を一気に
飲み干したのだった。
「これでここから出られるわ……うっ………あっ
……くるしっ…………げほっ……かはっ…」
メイドはいきなり苦しみ出すとその場に倒れたの
だった。
喉を掻きむしるように力いっぱい爪を立てたせい
なのか皮膚が破れ血が吹き出していた。
見ている遙達は声一つ出せなかった。
ただ見ているしかできなかったのだった。
フードで男の顔は見えない。
だが、確実に強いだろう。
遙達には檻という隔たりがあるが、もし何もない
場所で出会っていたら……?
師匠ならなんとかなるかもしれないが、遙やメノウ
では太刀打ちできないだろう。
遙は息を飲むと、ただ静まりかえった空気に緊張を
覚えた。
「黙ってるのは正解だ。もし追求しようものなら
この女のようになっていたからな……まぁ、ど
うせ数日後には処刑が執行されるだろうがな」
それだけ言うとメイドの側に転がっていた小瓶
を拾い上げると帰っていった。
見張りの兵士は一向に来ない。
眠らされているのか、もしくは…………。
多分後者であろうと考えると、下手に逆らわな
くてよかったと思う。
「ハルカよ、さっきの話を忘れるでないぞ?」
「師匠……?」
師匠はいつにも増して真剣な顔で遙を見つめて
きたのだった。
外の兵士が死んでいたのを見回りの兵士が見つ
けたのか、外が一段と騒がしくなってきた。
確認の為に降りてきた兵士がメイドが脱獄した
と報告に上がる。
騎士を連れてきた兵士は必死に事のあらましを
話していた。
「お前らが手引きしたんじゃないのか?」
「何を疑っておるんじゃ。わしらが手引きした
んじゃったらなぜわしらはここから出られと
らんのじゃ?わしじゃったらとっくに逃げて
おるわ。なんの罪も犯しとらんからのう」
「ふんっ、その年になってもまだ居座る老害が」
ファオニンの実力は誰しもが知っている。
だが、それは過去の栄光で、今はただの国税を
貪る老害だと思っている人は多いらしい。
それでも、錬金術師達の中では神と崇められる
ほどの存在でもあるのだ。
「そっちのガキはなんだ?老害の孫じゃないは
ずだが……」
「孤児を育てておったんじゃが……この犯人を
この孤児で手を打たぬか?わしはマーロ公爵
と話をつける。じゃから、それでて手打ちに
せんか?ここにおるのはちょっと辛くてのう」
「おい、ジジイ。何言ってんだよ!そいつはだ
いじな………」
「黙れ、小僧!わしは腰が辛いんじゃよ」
黙ったままの遙を無視して老人は騎士にマーロ
との面会を頼んだ。
メノウには全く理解できなかった。
あんなに仲良く過ごしていたのに?
そいつは大事な弟子じゃないのか?………と。




