24話 犯人
何も知らぬまま、遙達は牢へと投獄されたのだった。
騎士の言葉から察するにイーサの暗殺に関わったと
思われているのだろうと察しがつくが、それがどん
な殺害方法なのかとか、今どうなっているのかをこ
こから知る術はなかった。
「師匠……僕たち、これからどうなるんですか…」
「そうじゃのう。イーサ殺害の容疑って言っておっ
たからのう。良くて拷問後に斬首か、引きずり回
されて死ぬまで苦しまされるかのどちらかになる
じゃろうなぁ〜」
「なっ……どっちも嫌ですよ〜」
遙には拷問を受ける理由さえないのだから。
だが、国の偉い人が暗殺されたのなら、疑わしい
者は全員罰するのが決まりらしい。
「それって、冤罪もって事ですよね?」
「そうじゃのう。この国は杜撰だからのう。ペリド
王国ならまだ違ったかもしれんが、オスタリア公
国ではそんなもんじゃて。じゃからのハルカ、お
主はここから出て自由に生きねばならんぞ?そう
じゃ、ここから出れたら、すぐに荷物を纏めて出
るんじゃ。錬金鍋も倉庫の素材も全部持って出る
んじゃよ?わしの机の中のものだけそのままにし
ておいてくれ。それ以外の本も全部持っていくん
じゃ、分かったか?」
何をいきなり言い出すのかと思うと、少し驚いた。
師匠はそんな事を言う人ではないからだ。
まるで、自分の遺産を遙に譲るとでも言っている様
な指示が多かったからだ。
「何を言っているんですか?一緒に行くんでしょ?」
「そうじゃのう、わしだけじゃったら簡単に抜け出
せるが、ハルカ、お主も一緒となると難しいから
のう」
「先に国を出ろって事ですか?」
「そう言う事じゃ。荷物は全部持つんじゃぞ?」
「はいはい、出れたらそうしますよ」
「いい子じゃ。さすが、わしの最後の弟子じゃ」
ポンポンっと頭を撫でられるとむずがゆい気がした。
これでも、もう32歳の大人なのだ。
いくら今の年齢が16歳に満たないと言っても、精神
年齢は48歳なのだ。
70過ぎのこの老人に孫扱いされる様な年齢でもない
のだ。
それでも、嫌では………なかった。
身体が子供の生活が少し慣れてしまっていたらしい。
すると、牢の中に煩い声が響き渡ったのだった。
それが、よく聞く声だったので、視線がそっちに向く。
「おい、いい加減離せ!俺を誰だと思ってんだよ!」
「大人しくなさってください。これ以上騒ぐとこちら
もそれ相応の対応をしなければならなくなりますよ」
一般に両脇を掴まれて先頭には先ほどの騎士が立っ
ていた。
隣の牢に入るところを丁度目があってしまった。
「なんでお前らがいんだよ」
「それはこっちが聞きたいです」
「お主、ま〜た何か悪さしたのか?」
話始めたが、すぐに騎士が会話を遮る。
「話がしたいなら、拷問部屋へ入ってからにしても
らおうか」
そう言って、メノウも牢へと入れられたのだった。
騎士が去ってから入口には兵士が待機するように言
っていたのが聞こえた。
「で?何があったんですか?」
「何がって、俺が知りてーっつーの!」
メノウは息を荒げて話した。
「なんじゃ、何も知らんのにこんな所におるのか?」
「それはそっちもだろ?俺が言ったら騎士が待って
たんだぞ?お前らこそ、何をやったんだよ?」
「全く、理由も話さなんとはの……それだけ重大な
事なのじゃろうな〜」
師匠は少し他人事の様な口調で話した。
昼を食べそびれたせいかお腹が鳴る。
それはメノウも一緒だったらしい。
いつも塔に食べに来ているので同じなのだろう。
ふと、気づくと目の前の牢にも人が入っていた。
「そこの嬢ちゃん。お主も捕まったのか?」
師匠の視線の先を見るとメイド服がいたる所汚れ破
れているが、生地のいいメイド服を着た女性が居た。
「お前……なんでそんな所にいるんだ?」
メノウが声をかけると、ふっと笑みを浮かべた。
「あら、メノウ殿下。こんなところで会えるなんて
偶然ですわ。でも、もうお別れですね」
「何を言ってるんだ?お前こそ牢に入ってるじゃね
ーか」
「私は当然ですわ。だって、今さっきイーサ様に毒
を盛って捕まってしまったんですもの」
「イーサに………は?毒って……なんで……」
一瞬、その場の空気が凍った。
沈黙の後、口を開いたのはそのメイドだった。
「あーはっははっはーー。嫌だわ。まだ気づかない
のかしら?私が毒を盛った犯人で、それを指示し
たのは、そう、メノウ殿下。あなたなんだから…」
まるで、嘘を本当の事のようにペラペラと話しだし
たのだった。
彼女の話で、自分たちが捕えられた理由が分かった
気がする。
メノウが毒を青の錬金塔の老人に頼む為に、毎日通
っていた。
そして。出来立ての毒をメイドに盛らせて自分は悠々
と逃げ出そうとしていたという筋書きなのだろう。
これは、他の誰かが書いたシナリオなのだろうが、
そんなものに巻き込まれてはたまらない。
「そんな嘘、誰が信じると思ってるんだ?」
「信じるも信じないも、実際イーサ様は毒っで倒れ
たのよ?そして3日間苦しんで死ぬの。そしたら、
どうなるのかしら?」
「ばっかじゃねーか?それがどうしたって言うんだ?
俺が罰を受けるとでも思ってるのか?」
自信満々な態度のメノウにメイドは不敵に笑う。
「どうして自分は安全だと思うの?それに、そっち
の二人は確実に拷問対象でしょ?死にたくなけれ
ば、言っちゃうんじゃないかしら?メノウ様に頼
まれたんです〜ってね」
この世界の拷問がどういったものなのかは知らない。
だが、師匠の顔を見れば、そう簡単に耐えられるも
のでもないのが分かる。
「言いませんよ……間違った事を認めたりは絶対に
しません」
遙は咄嗟に叫んでいた。
このメイドの言葉はどうにも気に入らなかった。
人を殺そうとしておいて、それを無実の人になすり
つける。
そんな事、許せるはずもない。
「イキのいい子ね。でも、それも今のうちよ?私は
早々にここを出るわ。だって、脅されてやっただ
けなんだもの〜〜〜」
わざとらしく言うと、何か外で音がしたのだった。
ドサッと音がすると、ギィ〜とドアが開いて黒い
フードを被った男が入ってきた。
あきらかに兵士でも騎士でもないかった。




