19話 メノウの焦り
実は、今日もメノウはこのジジイに頼み事をしに来
たのだった。
最近、斬新な魔道具を作る事でより優秀さが際立っ
ているので、この際民の為になって実用的な物の開
発を頼みたかったのだ。
今目の前にいる一個下の遙の事は、まだ誰にも話し
ていない。
城の誰も、老人が森で子供を拾って弟子にしている
なんて知らない。
それに、一番長く続いた弟子はエクドールだと思っ
て疑わない。
5歳で拾われて今16歳と言う事は、遙は11年も一緒
にいる事になるのだった。
それだけじゃない。
遙は師匠であるあのジジイすらも超える知識を持っ
ている気がする。
最近の魔道具は全部遙の助言でできている事をこの
前知ったばかりだからだ。
「なぁ〜ジジイ。俺の為にさぁ〜…」
「いやじゃ。わしは好きな錬金術をやっているので
あって政治に関わる事はせんのじゃ」
「だから弟子にも恵まれねーんだろ?いい加減さ〜」
「何を言っておるんじゃ。弟子ならここにおるじゃ
ろう?」
老人にとって遙も立派な弟子なのだ。
ただ、普通と違う感性を持っている彼には、いつも
子供とは思えないと常々思わされてきたのだった。
「師匠、これいけないですかね〜」
毎日のように入り浸りになるメノウを無視するかの
ような遙の行動は、もう慣れてきていた。
「そうじゃのう。このままじゃ無理じゃて。そうじゃ
こう言うのはどうじゃ」
「なるほど……ではこれも使いませんか?」
「う〜ん。どうかのう……やってみるのもありじゃの」
「おーい、マジで無視かよ」
もう、反応すらしてくれなくなった。
こう毎日きて邪魔されては困ると、完全無視するよう
になったのだった。
だが、魔道回路を描く時だけは、邪魔だと追い出され
た。
それはメノウでも理解しているつもりだった。
あれは、失敗すればその場で危険なものとなるからだ。
たまに二人は寝ていないのか、目の下にクマを作りな
がら作業している時もあった。
ここまで打ち込めるものがあるというのが羨ましくも
あった。
メノウには、なにひとつなかったからだ。
母の興味も、父の信頼も、何もない。
兄弟のイーサからは敵意しか感じられない。
唯一弟のアンバーだけが懐いてくれていたが、今は
それをも振り切ってここにきていたからだ。
「今日は帰るわ」
「おぉ、帰れ、帰れ!もう来なくともよいぞ」
「ですね。邪魔なので来ないでください」
「おい、その言い方は俺でも傷つくぞ!少しは敬え
よ!全く……」
後ろで笑ったように聞こえたが、メノウは振り返ら
ずに外に出た。
もう、辺りは薄暗くなっていた。
「今日も、何も出来なかったな………」
そう呟くと、馬に跨って走りだした。
夕食までには間に合うだろうか?
いや、もう、終わっている時間だろう。
いつも自分だけ、あの空間にいるのが辛かった。
父のいう政治の話も、権力闘争も、全く興味がな
かった。
やりたい人にやらせればいい。
そう思っていたからだった。
でも、もし……。
もしも、イーサがこの国を継いだらどうなるか?
本当はそんな事どうでもよかった。
でも、そうも行かなくなったのは、部屋の外で話して
いた使用人達の言葉を聞いてしまったからだった。
「そういえばイーサ様は孤児院に通われているとか」
「あぁ、それに最近では錬金術師達を呼んで何やら国
の情勢を安定させる手立てを考えてくださっている
とか……」
「これでこの国も安泰ですね」
「でも、そうなるとメノウ様はどうなさるのですかね」
「あぁ、廃嫡されるとなると城にはいられないでしょう」
「追い出す事も視野に入れているのではないですか?」
「なるほど。そうなるでしょうね」
聞き耳を立てていたメノウは愕然としていた。
イーサが継いでも自分は変わらぬ生活が送れるもの
だと思っていた。
だが、そうではないかもしれないと知ると、慌てて
動き出す事にしたのだった。
馬小屋に着くと、愛馬を小屋に帰して干し草を入れ
てやる。
少し撫でてやると、嬉しそうに鼻を擦りつけてきた。
それはメノウの数少ない癒しだった。




