94話:クレア=ドミニオンの王子
「さぁ、ローズマリー様」
そう言ってローズさんの方に近づいてくる男。そいつの目は、気色悪い感じにギラついている。
「ブモォッ!」
「っ!? ……獣風情が!」
ロウの前に出たイノが吠えた。それ以上近づいたら容赦はしないという警告。イノに吠えられた男は肩を跳ねさせ、忌々しげにイノを睨みつけた。男が騎士に合図すると、騎士がイノに斬りかかる。
「チェンジ、カウンター!」
「ぐぁっ!?」
「ちょっ、ウラナ!?」
イノと私の位置を入れ替え、カウンターを胴体に叩き込む。けっこうな力で斬りかかってきていたらしく、騎士は大きく吹き飛んだ。騎士は扉を破壊して外に飛び出し、見えなくなった。「キャーッ!」という悲鳴が聞こえるけど、何も分かりません。
「ちょっと!? 平民が貴族を攻撃したら極刑だぞ!」
「イノが攻撃されて、ミケや緑子、イノに手ひどい反撃を食らって全滅するよりはマシな選択をしました」
「それはそう」
魔物には人間のルールはわからぬ。
「死刑だ! この魔物たちも、お前も! 首吊りやギロチンではすまさない。あらゆる苦痛を与えてから殺してやる!」
「あらゆる苦痛を与えるまもなく死ぬわ。耐久がカスなんだから」
「ウラナ、そういう話じゃない」
そういう話だよ。召喚獣たちにスリスリと甘えられるだけでHPがゴリゴリ減るんだぞ。攻撃されたら即死。これは決定事項です。
私の態度にムカついたのか、男がナイフを投げてきた。後ろにはローズさんたちが居たので、受け流しでナイフを床に突き刺す。危ねぇな。
「私の名はカイルス・オルディア・ドミニオン! ドミニオンの名において、女、お前を死刑とする!」
「ドミニオンだって!?」
「よりによってクレア=ドミニオンの王族か……!」
エリオが驚き、フェンが焦る。ロウは「え、どうする? これヤバイんじゃね?」と私に話しかけてくるが反応できません。創造神を祀っている国の王子なの? 私はてっきり、年下趣味の底辺貴族だとばかり。
「そこの少年たち、ローズマリー様とその女をこちらに手渡せば、無礼を許してやろう。ああ、魔物も縛り付けてくれたら報奨をくれてやる。どうする?」
「さっきからローズマリー様って誰だよ。ここに居るのはローズさんだぞ。王族のくせに、名前も覚えらんないのかよ」
「きっ、貴様ァ! この俺を侮辱しやがって!」
ただ名前を訂正しただけなのに怒られた。意味わからん。人の名前は覚えられないし、意味もわからずキレるし。王族って、頭良くないといけないんじゃないの? こんなバカで隣国は大丈夫なのかね。……アッ、ダメでしたわ。
ってか、王子を名乗るにはデカすぎんか。成人してるだろ。体だけ大きくなった感じ? 可哀想だね。頭まで栄養が届いてないのかも。クレア=ドミニオンって、貧しい国なのかしらね。
あ、親が健在で継いでないから王子のままなのか? だからこんな好き放題やる性格になっちゃってんのかな。いや、それでもある程度の品格と知性は必要だろ。何歳だこいつ。成人してこんだけわがまま放題だとやばいだろ。
「ウラナ、全部声に出てる」
「マジ? やべ」
「ウラナは本気で危機感を感じてくれ!?」
ロウにドン引いた顔で注意された。フェンが私の肩をゆさゆさと揺らし、頭が揺れる。危機感を感じてくれって言われたって、口に出てるとは思わなかったんですもん。
「警備隊だ! 揉めていると近隣の住民より報告があった! 全員、大人しくして頂こう!」
街でたまに見かける騎士さんが数名入ってきた。騎士さんの後ろには、この店の店主が息を切らせて立っている。彼が警備隊を呼んでくれたらしい。
近づいてくる騎士にイノが威嚇する。緑子とミケも臨戦態勢に入りそうになったが、私が制止すると「仕方ねぇな」と言わんばかりにしぶっしぶ大人しくなった。
我、召喚士ぞ? お主らの主ぞ? もうちょっとこう、なんかない?
「個別に事情聴取を行う! 抵抗しなければ、手荒な真似はしないと約束しよう」
そう言って、騎士さんたちは手際よく私たちを馬車へ乗せた。王子様とは別の馬車に乗せられたので、ローズさんと奥さんが少し安心したようだった。
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