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召喚士なのに前に居る  作者: マナ
4章:境界大森林ネーマス

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56/60

56話:理解できない異世界人

【ヴィンセント視点】


 ウラナの背中を見送ってから、どのくらいの時間が経った? 岩穴に残ってる組の状況はよろしくない。思った以上にゴブリンキングの攻撃が強いんだ。タークスが耐えているが、削れるスピードが早い。俺が気を逸らせて息継ぎをさせているが、大した効果はない。

 俺はこの中でDEXは高い方だが、ウラナのように回避系のスキルを持っていない。だから、引き付けられるとしても短時間。相手にも大してダメージは与えられていない状況だ。


「っし、ヴィー! 戻ってこい!」


 棍棒をバックステップでかわし、タークスの所に戻る。キャシーが回復させたようだが、息が整っていない。この調子では、数日も持たないだろう。見通しが甘かった。


「まだ引き付けられる」

「俺でHPがごりごり削れてんだから、ヴィーなんか吹っ飛んじまうぞ。っぐ!」


 振りぬかれた棍棒を大盾で受け止める。じりっと後退するタークスの背中を支えているのはロウだ。岩穴から少し出たところで攻撃を受けているんだが、押し込まれれば岩穴が崩れるかもしれない。後ろにノックバックしないように踏ん張らせているのだ。


「兄貴っ!」

「大丈夫だ。助けが来るまで、俺は倒れねぇ!」


 タークスはロウたちを励ますように気合を入れる。俺はエリオから渡される毒薬やダーツをゴブリンキングに投げているが、あまり効果がなさそうだ。毒を無効化するスキルがあるのか、レベル差で効いていないのか。恐らく後者だろうが、何かしてないと頭がおかしくなりそうだ。


「ギャハハ!」


 ゴブリンキングが笑いながら攻撃を仕掛けてくる。タークスが歯を食いしばって攻撃を耐えているのに、相手にとってはお遊びのようで腹ただしい。


「引きつけるか」

「まだ大丈夫だ!」


 出ようとすれば、タークスに止められた。


「ヴィー、落ち着いて。挑発されているわよ」

「……すまん」


 ステータスを確認すると、状態異常になっていた。バッグから解除用のポーションを取り出して飲む。挑発は思考が単調になってしまう。厄介な技を使いやがって。


「ぐっ!」

「うわぁっ!」


 タークスとロウが押し込まれた。すぐに体勢を立て直す。ゴブリンキングはタークスたちの様子を見て、追い詰めるわけでもなく、ただニタニタと笑みを深めた。


「回復は」

「まだ平気だ!」


 タークスが大盾をかまえると、また棍棒を振り下ろしてくる。あいつの中でこの攻防戦はお遊びでしかないようだ。

 ゴブリンキングの向こうには、ゴブリンと上位種たちが群がっている。どいつもこいつも、自分が標的にされないように息をひそめていた。


 この群れは、おかしい。


 ゴブリンキングがいる場合、ゴブリンやその上位種というものはキングに従う。それこそ従者のごとく、キングの手足となって動くのだ。こんなふうに腫物のように扱われることはない。ゴブリンキングもそうだ。通常であれば、配下であるゴブリンたちをあんな風に殺すことはあり得ない。今回の依頼はイレギュラーだらけだな。


「なんだ? どこを見ている」


 攻撃が止まった。タークスが油断なく大盾をかまえ続けている。しかし、ゴブリンキングは完全にこちらに背を向けて、森の方をじーっと注視していた。


 ガサガサッ。ガサガサッ。


「ギャッ?」

「ギャギャッ!」

「ギャー!」


 ゴブリンたちも騒がしくなる。俺たちも身構えていると、草むらの中から現れたのはグレートボアだった。古傷の残るグレートボアには見覚えがある。ゴブリンに襲われていた個体じゃないだろうか。


「ヒギャアア!」

「ギャギャッ! ギャー!」


 グレートボアとゴブリンキング。2体は互いを見合って、声を張り上げて威嚇しあっている。殺気立っている様子から、2体は何かしらの接点があるようだった。

 ザッザッと地面を蹴り上げ、突進の予備動作をしている。ゴブリンキングは棍棒をかまえて迎え撃つ姿勢だ。どうやら、ゴブリンキングはグレートボアを相手することに決めたらしい。


「ブフーッ、ブフーッ! フゴゴッ!!」

「ケケェッ!」


 砂煙を巻き上げながら、グレートボアがゴブリンキングに向かって突進していく。すごい勢いだが、ゴブリンキングは動きを目で追えているようだ。DEX3桁のウラナの動きを見ていただけのことはある。棍棒をゆるりと持ち上げた。棍棒の範囲内にグレートボアが入った途端、勢いよく振り下ろす。


「ダメよっ!」

「ちくしょ、グレートボアの経験値が」


 鈍い打撲音が響き、砂煙が盛大に巻き上がる。ゴブリンキングの攻撃力をわかりやすく示していた。キャシーとタークスがグレートボアを倒されたと嘆いているが、俺の目には違う光景が映っていた。


「ブモォオオオッ!」

「グゲェッ!?」


 横側から突進したグレートボアにゴブリンキングがひかれた。鈍い音がこちらまで聞こえてくる。砂煙にまぎれてゴブリンキングの姿は見えないが、相当なダメージが通ったようだ。苦しそうなうめき声が聞こえてくる。


「グレートボアがもう1体いたのか!?」

「どうなってるのよ、これ」


 2人には見えていなかったようだが、俺の目には何が起こったのかしっかり見えていた。

 ゴブリンキングの棍棒がグレートボアに当たる直前に、ここに居ないはずのヤツがグレートボアと入れ代わるようにして現れたのだ。ソイツは棍棒を軽々と避け、砂煙で見えなかったが、叩きつけられて飛び散った土も『受け流し』や『見切り』でかわしたはずだ。


「アサシンエッジ!」


 砂煙の中からゴブリンキングが転がりながら出てきた。肩から血を流している。どうやら、かわしきれなかったようだ。


「やっぱ、見られちゃうか」

「にゃあ」

「ぶもっ」

「イノさんがいたから、当てられたって感じだよね」


 のっしのっしとグレートボアが戻ってくる。ミケと緑子が草むらから出てきて近づいてきた。砂煙がはれると、離脱したはずのウラナがそこに立っている。グレートボアの様子から、召喚獣になっているんだろう。あのまま逃げればよかったのに、戻ってきた。

 アイツの頭のねじは1本どころか、何本か抜けているのかもしれない。

お読みいただき、ありがとうございます。

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