56話:理解できない異世界人
【ヴィンセント視点】
ウラナの背中を見送ってから、どのくらいの時間が経った? 岩穴に残ってる組の状況はよろしくない。思った以上にゴブリンキングの攻撃が強いんだ。タークスが耐えているが、削れるスピードが早い。俺が気を逸らせて息継ぎをさせているが、大した効果はない。
俺はこの中でDEXは高い方だが、ウラナのように回避系のスキルを持っていない。だから、引き付けられるとしても短時間。相手にも大してダメージは与えられていない状況だ。
「っし、ヴィー! 戻ってこい!」
棍棒をバックステップでかわし、タークスの所に戻る。キャシーが回復させたようだが、息が整っていない。この調子では、数日も持たないだろう。見通しが甘かった。
「まだ引き付けられる」
「俺でHPがごりごり削れてんだから、ヴィーなんか吹っ飛んじまうぞ。っぐ!」
振りぬかれた棍棒を大盾で受け止める。じりっと後退するタークスの背中を支えているのはロウだ。岩穴から少し出たところで攻撃を受けているんだが、押し込まれれば岩穴が崩れるかもしれない。後ろにノックバックしないように踏ん張らせているのだ。
「兄貴っ!」
「大丈夫だ。助けが来るまで、俺は倒れねぇ!」
タークスはロウたちを励ますように気合を入れる。俺はエリオから渡される毒薬やダーツをゴブリンキングに投げているが、あまり効果がなさそうだ。毒を無効化するスキルがあるのか、レベル差で効いていないのか。恐らく後者だろうが、何かしてないと頭がおかしくなりそうだ。
「ギャハハ!」
ゴブリンキングが笑いながら攻撃を仕掛けてくる。タークスが歯を食いしばって攻撃を耐えているのに、相手にとってはお遊びのようで腹ただしい。
「引きつけるか」
「まだ大丈夫だ!」
出ようとすれば、タークスに止められた。
「ヴィー、落ち着いて。挑発されているわよ」
「……すまん」
ステータスを確認すると、状態異常になっていた。バッグから解除用のポーションを取り出して飲む。挑発は思考が単調になってしまう。厄介な技を使いやがって。
「ぐっ!」
「うわぁっ!」
タークスとロウが押し込まれた。すぐに体勢を立て直す。ゴブリンキングはタークスたちの様子を見て、追い詰めるわけでもなく、ただニタニタと笑みを深めた。
「回復は」
「まだ平気だ!」
タークスが大盾をかまえると、また棍棒を振り下ろしてくる。あいつの中でこの攻防戦はお遊びでしかないようだ。
ゴブリンキングの向こうには、ゴブリンと上位種たちが群がっている。どいつもこいつも、自分が標的にされないように息をひそめていた。
この群れは、おかしい。
ゴブリンキングがいる場合、ゴブリンやその上位種というものはキングに従う。それこそ従者のごとく、キングの手足となって動くのだ。こんなふうに腫物のように扱われることはない。ゴブリンキングもそうだ。通常であれば、配下であるゴブリンたちをあんな風に殺すことはあり得ない。今回の依頼はイレギュラーだらけだな。
「なんだ? どこを見ている」
攻撃が止まった。タークスが油断なく大盾をかまえ続けている。しかし、ゴブリンキングは完全にこちらに背を向けて、森の方をじーっと注視していた。
ガサガサッ。ガサガサッ。
「ギャッ?」
「ギャギャッ!」
「ギャー!」
ゴブリンたちも騒がしくなる。俺たちも身構えていると、草むらの中から現れたのはグレートボアだった。古傷の残るグレートボアには見覚えがある。ゴブリンに襲われていた個体じゃないだろうか。
「ヒギャアア!」
「ギャギャッ! ギャー!」
グレートボアとゴブリンキング。2体は互いを見合って、声を張り上げて威嚇しあっている。殺気立っている様子から、2体は何かしらの接点があるようだった。
ザッザッと地面を蹴り上げ、突進の予備動作をしている。ゴブリンキングは棍棒をかまえて迎え撃つ姿勢だ。どうやら、ゴブリンキングはグレートボアを相手することに決めたらしい。
「ブフーッ、ブフーッ! フゴゴッ!!」
「ケケェッ!」
砂煙を巻き上げながら、グレートボアがゴブリンキングに向かって突進していく。すごい勢いだが、ゴブリンキングは動きを目で追えているようだ。DEX3桁のウラナの動きを見ていただけのことはある。棍棒をゆるりと持ち上げた。棍棒の範囲内にグレートボアが入った途端、勢いよく振り下ろす。
「ダメよっ!」
「ちくしょ、グレートボアの経験値が」
鈍い打撲音が響き、砂煙が盛大に巻き上がる。ゴブリンキングの攻撃力をわかりやすく示していた。キャシーとタークスがグレートボアを倒されたと嘆いているが、俺の目には違う光景が映っていた。
「ブモォオオオッ!」
「グゲェッ!?」
横側から突進したグレートボアにゴブリンキングがひかれた。鈍い音がこちらまで聞こえてくる。砂煙にまぎれてゴブリンキングの姿は見えないが、相当なダメージが通ったようだ。苦しそうなうめき声が聞こえてくる。
「グレートボアがもう1体いたのか!?」
「どうなってるのよ、これ」
2人には見えていなかったようだが、俺の目には何が起こったのかしっかり見えていた。
ゴブリンキングの棍棒がグレートボアに当たる直前に、ここに居ないはずのヤツがグレートボアと入れ代わるようにして現れたのだ。ソイツは棍棒を軽々と避け、砂煙で見えなかったが、叩きつけられて飛び散った土も『受け流し』や『見切り』でかわしたはずだ。
「アサシンエッジ!」
砂煙の中からゴブリンキングが転がりながら出てきた。肩から血を流している。どうやら、かわしきれなかったようだ。
「やっぱ、見られちゃうか」
「にゃあ」
「ぶもっ」
「イノさんがいたから、当てられたって感じだよね」
のっしのっしとグレートボアが戻ってくる。ミケと緑子が草むらから出てきて近づいてきた。砂煙がはれると、離脱したはずのウラナがそこに立っている。グレートボアの様子から、召喚獣になっているんだろう。あのまま逃げればよかったのに、戻ってきた。
アイツの頭のねじは1本どころか、何本か抜けているのかもしれない。
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