53話:悔しい撤退と
「ウラナ、ゴブリンどもが戻ってくる。アイツは全部を殺す気はないようだから、やっぱりお前の足が命綱だ」
「いけ。お前の足なら余裕で振り切れる」
タークスさんとヴィンセントさんが言葉で背中を押してくる。それでも、私は次に動けない。だって、私は彼らに命を助けてもらった。私だけ逃げるなんて、やりたくない。私の目標を忘れたわけではない。優先順位の一番は、「勇者としてやってくるアカリを助けること」だ。それは一度も忘れたわけではない。
でも、これは、命を助けてもらって、私だけ逃げだすのは、筋が通らない。
「……ウラナ、離脱しなさい」
「っ。キャシー姉さん」
静かに、でも、覚悟を決めたような重い声が、私の背中を押す。キャシー姉さんの顔を見ると、まっすぐ私の目を見てもう一度「離脱しなさい」と繰り返す。
「私のことも、気になるのでしょう。ゴブリンの女性被害の件、あなたには話すべきではなかったわね」
「そんなこと」
「その話が、ウラナを迷わせている。そうでしょう」
否定はしない。明言されていないが、もし負けた場合、男たちは殺されるんだろう。女は、繁殖のための道具になる。愛情なんて、ない。そんなところに、キャシー姉さんを置いて行くのは、確かに気が引ける。被害者女性もだ。同性だから、どうしても気になってしまう。
「行って、救援を呼んできて。ウラナはこの場の誰よりも足が速いから、きっとできるわ」
「でも」
「行って! 早く!」
足が勝手に動いた。私の意志じゃない。キャシー姉さんの叫びがあまりにも切実だったから、勝手に動いた。
突然走り出したことでずり落ちそうになったミケの体を支えつつ、ゴブリンキングの横を通る。棍棒が振り下ろされた。しかし、そこに私はいない。棍棒の範囲外に出たところで、叫ぶ。
「必ず、助けを呼んできます!」
「なるべく早く頼んだ!」
タークスさんの声を背に、私は走る。横からゴブリンたちが襲い掛かってくるが、攻撃をかわして前へ。木や草むらを迂回しつつ、村への最短距離を走る。
悔しい。
走りながら、私の心にこみあげてくる悔しさ。私がもっと速ければ、私がもっと強ければ、手数があれば、タークスさんたちと共闘してゴブリンキングを倒せたはずなのに。
今の私では、無理にゴブリンキングに近づけば、緑子かミケが殺されているだろう。私には見切りと受け流しがあるけれど、この子たちにはないんだから。
悔しい。
ゴブリンキングに恐怖して潜んでいたゴブリンたちが、何匹も何匹も私の前に現れた。ミケや緑子が攻撃してくれるから、私は走ることに集中できる。
悔しい。
左右からゴブリンが行く手を塞ぐように滑り込み、私の足を掴もうとした。跳んでかわす。
「にゃっ!?」
「ミケ!?」
跳んだはずみでミケが私の腕からすべりおちた。すぐに受け身をとったが、ゴブリンが攻撃をしようと武器を振り上げる。私は急停止し、ミケを拾うために走る。でも、ゴブリンたちの方がミケに近い。
「っしゃあああ!」
「ミケ!」
ミケが影魔法で応戦しようとしている。私は、ゴブリンとミケの間に体を滑りこませて、受け流しを使えるように構えた。こいつらに掴まったら、私だけじゃなくて、タークスさん達も終わる。
包囲網をつくりあげようとするゴブリンたち。前方に広がる、ミケの影魔法。影魔法の間をくぐりぬけて、牙を剥きだしに襲ってくるゴブリン。受け流しが発動しようとした。
「ブモォオオッ!!」
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