52話:理不尽な暴力ってああいうことを言うんだろうな
離脱して救援を求める。私だけ、この場から逃げて、助けを求めに行けってことだ。理解できても、それが合理的であるということを思っても、心が拒絶した。
「みんなはどうなるんですか。私だけ、離脱って。了解って言えません」
「気持ちはわかる。だが、わかってほしい」
「私がアイツを引きつけます。そうして、みんなで逃げましょう」
「ウラナ!」
初めて聞く、タークスさんの怒鳴り声。肩がすくむ。ミケも驚いたようで、私の頭にしがみついた。
「ゴブリンキングは、狙った獲物を逃がさない。彼女は恐らく、クイーンとして捕まったんだ」
「ウラナの早さに反応していた。……ウラナや俺なら逃げきれるだろうが、タークス達が逃げ切れん」
ゴブリンキングは、私の暗殺スキルを使った攻撃が見えていた。見えていたうえで、死なないと判断し、私を攻撃してきた。たしかに、そこそこのDEX値はありそうだ。岩穴の奥を見る。女性が青い顔でゴブリンキングを見ていた。彼女を支えているキャシー姉さんの顔色も良くない。ブルーリムは言わずもがなだ。
「ウラナ、行け。5日くらいなら、俺とタークスで持たせられる」
「でも」
「でもじゃない。わかってくれ。お前の3桁DEXに俺達の命がかかっているんだ」
それに、とヴィンセントさんが言葉を続ける。
「お前も理解しているだろう。ゴブリンたちがここに戻ってきたら、さらに状況が悪くなると」
そこら中からゴブリンの騒ぐ声が聞こえてくる。私が撒いたゴブリンの数は多い。そいつらが戻ってきたら、きっと今以上に状況が悪くなる。それはわかっているんだ。でも、1人だけ離脱するっていう言葉が、私の足を重くする。
上位種のゴブリンが森から出てきた。アイツらは私を見るとぎゃあぎゃあと嬉しそうな声を上げ、ゴブリンキングを見ると途端に黙る。どんどん上位種が合流していき、ゴブリンキングの姿が見えないゴブリンたちは、血気盛んにわめき続けている。それをゴブリンキングが見えていた上位種たちがなだめようとしているが、効果はなかった。
「……」
今まで動かなかったゴブリンキングが、棍棒を持ち上げる。私も、ヴィンセントさん達も身構えるが、どうも狙いは私達ではないようだ。騒ぐゴブリンの元に歩いていき。
ゴシャッ。
あっという間もなかった。あいつは煩わしい虫を潰すような感覚で、ゴブリン達を棍棒で叩き潰した。何してんだ、アイツ。
「もういやぁっ」
岩穴の奥から、女性の嘆きが聞こえた。その声から察するに、今回が初めてのことではないようだ。ゴブリンたちが頭を下げ、何か弁明するように喚いているにもかかわらず、ゴブリンキングの手は止まらない。さめざめとすすり泣く声に、キャシー姉さんがなだめる声が聞こえる。ロウやフェンが吐いた。エリオは青い顔で、2人の背中をさすってる。
ゴブリンキングが満足して手を止めたのは、上位種のほとんどが潰された後だった。
「……うぇ」
グロい。クロが作り出す絵面以上の地獄がそこに広がっていた。緑子は私がわかるほどにぶるぶると震え、ミケも及び腰になっているのがわかる。
アイツを、引きつけられればと考えていた。でも、それは無理そうだと理解した。私に足りないのは、手数。ミケも緑子も私にしがみついているしかない。動き回る私に気を付けていれば、攻撃を見切れるとアイツはわかっているのだ。
せめて、もう1手、錯乱の為の機動力が欲しい。
ヴィンセントさんは、タークスさんが動けない以上無理だ。そもそも、私の提案に乗ってくれなさそう。ロウやフェン、エリオは足が遅すぎる。クロを呼ぶか? いくらここが広場のように木がないからといって、小回りが利くわけじゃないクロでは難しい。ちゅんに至っては、ミケと緑子を運べない。空から攻撃できるだろうが、ゴブリンキングの脅威にはなりえない。きっと、見向きもされないだろう。
私はわかりやすく、手詰まりになっていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークや評価、感想など頂けると今後の励みになります。




