50話:想定外だ
【ヴィンセント視点】
ウラナがゴブリンどもを引き連れて走っていった。あの数に追いかけられたら、普通の冒険者はパニックを起こして泣き叫ぶだろう。攻撃しながら、敵の攻撃をかわしながら、適切な距離感を保って走っていく事なんかできない。それをウラナは涼しい顔で、ミケと緑子に攻撃を指示して走り回っている。
口には出さないが、アイツの頭のねじは飛んでいる。
ウラナの背中を見送るブルーリムがいい例だ。コイツらは自分が追いかけられているわけじゃないのに、逃げていくウラナと後を追うゴブリンどもを見て震えている。悲鳴を上げないだけ、よく耐えているよ。
「……ウラナ、平気そうだな」
「……発案者の私が言うのもなんだけど、なんで平気なのかしら」
タークスもキャシーも、あまり顔色は良くない。きっと、俺も顔色は良くないだろう。それだけウラナが引き受けた役割は重く、辛い。
しばらくして、ゴブリンどもは広間の端に寄った。ウラナを追いかけていくヤツ、見物するヤツ。岩穴の方を、だれも見向きもしていない。
「いまなら助けに行ける」
「よし、さっき決めた通りに動くぞ」
俺が先に行き、周囲を確認しながら進む。岩穴の中には、ゴブリンはいなかった。キャシーを先に入れ、俺たちは岩穴の入り口付近で待機する。ゴブリンの被害にあった女性は、発狂していることが多い。男には過剰に反応するし、叫んで暴れる場合がほとんどだ。だから、キャシーを先に行かせて、俺たちは待機した。
「助けに来たわ。もう大丈夫よ。起きられるかしら」
「……うっ」
幸いにも、女はすぐに起きた。キャシーを視界に入れ、目を見開いている。叫び声は、すんでのところで自分で抑えていた。
「はっ、はっ、はっ」
「驚かせてごめんなさいね。ゴブリンたちはいないわ。いまのうちに逃げましょう」
「だっ、だめよ。アイツは、きっと追ってくる」
「村に行けば結界があるわ。そこまで逃げましょう」
思いのほか、被害者は錯乱していないようだった。キャシーとも落ち着いて話している。これなら静かに引き上げることは可能だろう。
そんなことを考えていたが、俺は周囲の警戒をおろそかにしてはいなかった。もちろん、タークスもだ。それでもなお、俺たちは気づかなかった。
「結界なんか、アイツに意味は……いやぁあああああ!!!」
「どうしたの!? いったいなに、ウソ!」
「おいおい、俺たちは警戒してたんだぞ」
岩穴の前、少し離れたところにヤツは立っていた。緑色の肌、筋骨隆々な体に見合わぬボロの腰布。ほぼ丸太と言っていいような棍棒を持って、ヤツは静かにそこにいた。
「ホブゴブリンじゃねぇな。嘘だろ。ゴブリンキング、生まれていたのかよ」
「こんなに接近されるまで気づかないとはな」
「あ、兄貴たち、どうしましょう」
ゴブリンのキングという名前だが、危険度は段違いだ。戦闘になったら、まず負ける。タークスが一歩前に出た。タンクの役割を果たすためだ。俺も、いつでも援護できる位置に構えた。緊迫した空気の中で、ゴブリンキングの影がゆらりと波打った。
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